第5話 不思議なものを発見!

 依頼書などがズラリとられた掲示板の前には、ガイさんとレンさんの姿があった。何やら、1枚の紙を手に取って話をしている。ハルカさんは、そんな彼らの方へと歩いていった。


「話は終わったのか?」

「ええ」

「あいつらのポカーンとした顔、面白おもしろかったな。こっちもちょうど、やりごたえのありそうな仕事を見つけたところだ。ホレ、こいつなんかどうだ? 俺たちにピッタリだと思うんだがな」


 ガイさんが注目したその内容を、ハルカさんはざっと読み、


「……いいんじゃない? 次はこれ行きましょう」


 賛成さんせいの意を見せた。そしてまた、私たちの所へ。


「そろそろ出発するわね。久しぶりにあなたたちに会えて嬉しかったわ。私たちは、更なる高みを目指すために、これからもどんどん突っ走っていくつもり。これから先、どんなことが待ち受けていようとも、とにかく前を向いて頑張る。私だけじゃないわ、あなたたちもね。2人の健闘を祈ってる。それではそれでは……またいつか」

「は、はいッ! あ、せめてお見送りを!」


 立ち上がるハナ。なんだか、ハルカさんの舎弟しゃていっぽく見えるのは気のせいか。

 私は自分のペースで席を立つ。

 ぞろぞろと5人で、ギルド出入口のドアをくぐる。

 当たりの良い場所に、花壇かだんがある。いつ作られたのかはわからないが、物心ついた時にはすでにあった。赤、白、黄色──何本ものチューリップが可愛かわいらしく咲いていて、さりげなく季節を感じさせてくれている。


「行ってらっしゃいませー!」

「また、お話聞かせてくださいねー!」


 私とハナが言葉をかけると、ハルカさんは小さく手を振り、清々すがすがしい表情でこの場を後にした。

 ……あ、うっかりトレイを持ってきてしまっていた。ずっと持っいなくてもいいものなのに。

 私は使用していたテーブルの上を片付けるべく、そのトレイの上に空のカップをせた。これを食器の洗い場に持っていくのだが、その前に手を止めてしまった。


「はぁ〜。やっぱカッコいいな〜、ハルカさん」


 すぐに、もうここにはいない人のことを思い出していた。


「うんうん。元々美人だけどさ、前よりもみがきがかかったというか……。大変なこともあるかもしれないってのに、髪もお肌も綺麗きれいだし。どんなお手入れしてるんだろうな〜。いておけばよかったかな」

「ズボラな私がしないような努力を、人知れずコツコツとやってたりして。1度手に入れたものをキープするのには、そういうのって大事じゃない? いそがしい合間に何かやってるのよ、きっと。情報収集しかり、研究しかり……」


 ハナと談笑していると、受付カウンターの方から男性の声が飛んできた。ギルドマスターだ。


「ソラ、何してるんだ? 早くそれ持ってきてくれないか?」


 呼ばれて私はハッとして、


「おっと、いけないいけない」


 おしゃべりの前に、やることをやらなければ。この、使用済みの食器を下げるんだった。

 私の名はソラ。本名はソラ・エストラゴン。そこにいる仲良しのハナより1歳年下だが、背の高さは彼女とほとんど同じ。茶色の髪の左側に、竜の片翼かたよくした銀色の髪飾りをつけていて、一応それをチャームポイントとしている。ターコイズブルーの上着はそでをロールアップしている。首には薄手の青いマフラー、手にはチャコールグレーの指ぬき手袋(ベルトつき)をはめている。下半身は黒のハーフパンツに、手袋と同色のブーツ(これもベルトつき)をいている。右腰には茶色のポーチ、反対側には片手でも扱える剣をげている。これが私の、普段のスタイルである。

 手をパッと離せばひとりでに閉じた状態に戻るタイプの木製の小さな扉を押し開けて、関係者以外は入れないスペースに入る。

 程なくして、両手が自由になる。さて、これから何をしようかと思った時。私は、低い棚の中に見慣れないものを発見した。


「何コレ、凄い綺麗……。ねえねえ、コレってお父さんの?」

「ん? あぁ、それな」


 私がギルドマスターをそう呼ぶのは、彼が私の実の父親だから。このギルドは私の家でもあるのだ。

 お父さんは40代に足を踏み入れたばかり。中肉中背でそこそこ男前である。その彼が、書き物をしていた手を止めて、娘である私へと振り向いた。


「ついさっき、預かったんだ。持ってきた人によると、なんかその辺に落ちてたとか。こんなものが、その辺の石ころみたいに自然に転がってるとは考えにくい、絶対誰かがくしたものだろうって言ってたな。とりあえず、こいつを出しておこうと思ってるんだ」


 彼が見せてくれた紙は『落とし物のお知らせ』と称していて、イラストと文章が書かれていた。だいたいできあがっていて、仕上がり次第、掲示板に貼るのだという。


「ふーん……」


 それから私は、誰かさんの落とし物──透明な楕円だえん形の石を、わりと真面目まじめに観察した。不思議にも羽のように軽く、繊細せんさいなガラスのような輝きを放っている。が、普通のガラスと違うのが、わずかながら魔力を感じる点。私にはここまでしかわからなかった。あとは、もっとこの手のアイテムにくわしい人に見てもらわなければ。


「なになにー?」


 そこへ、ハナがひょっこりと現れた。ちょうどよかったとばかりに、私は彼女に石を見せた。


「ふむふむ……」


 上からも下からもながめ、360度回転させたりもした。魔術士なら何かわかるのではないかと、私は期待していた。


「コレは、ただの石ではありませんなぁ。素人しろうとには、ちょっとだけ魔力をびている綺麗な石にしか見えないだろうけど、そんなんじゃないねぇ。ちょっとしかないんじゃなくて、ここまで抑えられてるの。人間に例えれば、今は眠っている状態にあるのよね。『条件がそろってやっと本来の力を発揮する系』に入るのかな。なかなかニクいヤツね。ただ、その条件ってのが何なのかまでは、さすがにわからないや」


 ハナは石を指でつついてみたり、おにぎりを作る時みたいにギュッとにぎってみたり、逆にやさしくでてみたりもした。どれをやっても、石はうんともすんとも言わなかった。


「こういう珍しいものを見るとね、もっと深い所にまで入り込めたらって思うんだけど、無理だわ。まだまだ勉強が足りないねー私。なんかゴメンねー」


 謝らなくてもよかったのだけれど謝り、ハナは石を私に返した。私は生温かいそれを、お父さんに渡した。


「いやはや……このテのものって本でしか見たことなくてね。その時はまぁ、今の自分には縁はないかなーって思ってなかばスルーしてたんだけど、まさかこんな所でおがめるとはね。正直驚いた。持ち主がいるってんなら、その人が早く取りに来てくれるといいよね。でないと、私がもらっちゃうよ~」

「それはダメでしょ」


 私は苦笑いを浮かべながら、お知らせの書かれた紙を掲示板の空いているスペースに貼る。それが済んだら、また適当に座って一息つく。

 ハナによると、魔力を秘めた物体の効力を発揮させるためには、呪文を唱えるか、何か関連のある別のアイテムを用意するか、そのどちらかのパターンが多いらしい。あの石の場合はどうなのかなど、私たちが知っているわけないし、知ったところで、元々他人のものなのだから、どんなシロモノなのか確かめてみる(それも勝手に)というのも悪いだろう。何かあっても責任とれるかどうか……。

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