第11話 守る(2)元カノとの再会

 会社を出て歩きながら、涼真は考えていた。

(湊は一応気を使ってくれたんだよなあ。ああ、情けない。

 取り敢えず、ボクも走る事にするかな。

 まあ、明日の天気は悪そうだから明後日からだな)

などと思っていると、キョロキョロとしながら横合いから飛び出して来た女性とぶつかった。

「あ、すみません」

 涼真は反射的に謝ったが、その女性の方は、かなり驚き、怯えるように身を引いた。

 そして、お互いに相手をまじまじと見た。

「え。仲川さん?」

「保脇君?」

 気まずい相手ではあるが、「じゃあ」と言って立ち去るのもやり難い。と言うのも、彼女、仲川有紗は、驚き、怯えていたような表情から一転、顔をくしゃりと歪め、

「や、保脇君」

と言うや、泣き出したのだ。

「え?ちょっと、仲川さん?」

 涼真は焦って、とにかく泣き止ませようと躍起になった。

「どうしたの。落ち着いて。困った事でもあったの?」

 仲川は涼真の胸に顔を埋めてしばらく泣いていた。


 15分後。涼真と仲川は湊に連絡を入れて、会社で落ち合っていた。

「こちら、仲川有紗さん。ええっと、学生時代に1回だけデートした人」

「ああ。童顔を理由に振られたとかいう」

「うぐっ。そう、その人」

 涼真の隣で、有紗は居心地悪そうにしていた。

「はじめまして」

「どうも、初めまして。保脇の同僚の、篠杜です」

「実は、会社帰りにばったり会ってね。彼女困ってるって言うから」

 涼真は気まずい空気を払拭するように言った。

「付き合ってた人が、別れようって言ったらストーカーになったらしくて。家に帰ろうとしたら、家の前にその人の車があって、逃げて来たところだったんだって」

「警察には?」

「言いました。でも、家の近くをパトロールするとか、接近禁止令を裁判所に出してもらうとか、そういう程度みたいで」

 有紗はそう言って、ぶるっと震えた。

「正式に依頼をしたいという事ですか」

 それに、涼真が何か言おうとする前に、有紗は前のめりになって言った。

「はい!もう嫌!何をされるかわからないわ。電話は、着信拒否しても別の電話からかかってくるし、電話番号を変えてもどうやってかかかって来るし、家の中の事も知ってるし、家族や同僚に『婚約者です』って挨拶して歩いてるし」

 軽くノイローゼ状態になりかかっている。

「湊、助けてやりたいんだよ。別室で受けられないかな」

 涼真は自分が困ったような顔をして、そう言う。

 湊は涼真を見て、溜め息を堪えた。

(こいつはどうしてこう……まあ、これが涼真のいい所だしなあ)

「わかった。けど、室長に連絡しないとな」

 それで涼真と有紗は、ぱあっと安心したような顔になった。

「それと、雅美さんにも連絡して来てもらわないと」

「そうだな」

 こうして不意に飛び込みの依頼を受ける事になったのである。






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