第5話 欲しい物(5)しあわせ

「そこまでにしてもらおう」

「何だお前らは」

 威圧する西川に、前に立った湊と雅美が冷静で冷たい目を向け、涼真と悠花が、和田と幸恵を背後に遠ざける。

「なあ。あんたがやってること、わかるか?傷害と、あんたの方は、もしかして管理売春か?」

 ついて来ていた方が、半歩引いた。

「何だとお前――」

「黙れ」

 喚こうとする西川を黙らせ、男は探るようにこちらを見る。

「サツじゃあなさそうだが……」

「無関係じゃないが、普通の警察の方が優しいと思えるところと関係がある」

 湊が言うのをどう解釈したのか、顔色が変わった。

「要求は」

「この人はこいつと無関係だ」

 それで男は、あっさりと頷いた。

「わかった。もう関わらないだろう。

 おい、行くぞ」

「え、何です?」

 キョトンとするの西川の腕を乱暴に掴み、男は西川に凶暴な目を向けた。

「切れた女を脅して飛ばして借金をチャラにしようなんざ、ふざけた野郎だな」

「え?でも、話はそれでついてたんじゃ」

「てめえのケツはてめえで拭きな。来い」

 西川は目に見えて焦りながら、男に引きずられて行く。

「ま、待ってくれ、おい、幸恵!」

「来やすく呼ばないでください」

「お前、そこのデカイだけのダサいやつの方がいいとか言うんじゃねえよな?」

 和田が目を伏せ、幸恵はそんな和田を見た。

「あんたよりずっといい男よ!」

 西川は絶望的な顔で、男に車に放り込まれ、どこかへ走り去って行った。

「なあ、湊。あれ、どうなるのかな」

 涼真が気になるらしく言う。

「借金返済プランを今から一緒に考えるんじゃないか?暴力団の皆さんと」

 悠花と涼真が、顔色を青ざめさせた。

「それより、何の関係者だと思われたんでしょう」

 悠花は引き攣った笑みを浮かべた。

 和田と幸恵は向かい合い、幸恵は和田に頭を下げた。

「ご迷惑をかけて、申し訳ありません」

「いえ、俺は。あの、この人達は」

「警備会社の方です。さっきの人が付きまとって来てたから、警護をお願いしたんです」

 和田は

「ああ、警備会社の」

と、警戒を解いた。

「近藤さん、その、俺でできれば何でもします。俺に、一生あなたを守らせてください!」

「和田さん」

「俺は、こ、近藤さんが好きです。デカイだけで、冴えない男です。でも、高い所に手が届くので便利です!それと、まじめで面白みがないですけど、一生懸命、幸せにします!近藤さんは、ええと、がんばって幸せになって下さい!」

 幸恵は一瞬置いて、プッと吹き出した。

「おかしな人」

「すすすみません」

「一生懸命幸せにしてくれるの?それで私は、がんばって幸せになるの?」

「はい!幸せになるにもするのも、本人にその気がないとダメです!」

「でも、いいのかしら、私なんか」

「勿論です!あなたしかいません!俺は、あなたでないと、幸せになれません!」

 幸恵は笑いながら泣き出し、周囲の観客と化した買い物客の前で、そのプロポーズを受けた。


「ああ。言われてみたいわぁ」

 会社に戻ってからも、悠花と雅美はウットリとしていた。

「『あなたを一生守らせて下さい』キャアー!」

「ステキー!」

 涼真と湊は、距離を置いてそれを見ていた。

「だめだ。全然戻って来ないぞ、湊」

「放って置こう。それがいい」

 そこに、錦織がにこにことして言う。

「まあ、そのろくでもない男もちょっかいを出してこないでしょうし、近藤さんももうお見合いパーティーで貢がせ男を漁る事もないでしょうし、良かったですよ」

「まあ、そうですね」

 言っていると、夢から醒めたらしい2人が戻って来る。

「あんな事言われたいわよ。ねえ、悠花ちゃん」

「ええ、そうですよねえ、雅美さん。

 思い出した。湊君、変なはったりかましたでしょう。警察が優しいと思える何とかって」

「ああ。嘘じゃないだろ。世界一凶暴なテロリストと、知り合いには違いない。

 今がどうとか、そういう事は全く言ってない」

 どうどうと湊が言うと、全員が苦笑した。

「まあなあ」

「まあ、二度と会いたいとは思ってないけど」

 オシリス達が今どこでどうしているのか。知らないし、どうでもいい。湊はそう思って、肩を竦めた。




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