第3話 B坊とあまり関係のない話

「ホテルのドアの前でSPの真似ごとなんて、君らしくないね。エドグォー。」


「お前にだけには言われたくねえよ、クトレ。」


エドグォーは、血の気の多い筋肉隆々の戦士風の大男だ。


一方、クトレは体の線が細く見えるが服の上からでも鍛えられているのがよく分かる色男だった。



対照的な2人は、裏の世界で有名なフリーの暗殺者だ。


仕事で何度か顔を合わせたことがある商売敵の関係だった。


直接戦った回数は数えるぐらいしかないが、命のやり取りをしたこともある。


いつも良い所で横槍が入るので、機会があれば白黒をつけたいと強く望んでいた。


だが職業柄、理由もなく仕事抜きで積極的に戦う気にならなかった。


少なくとも、こんな身近で気軽に話せる関係ではない。


今は二人とも力ある王族に敗れ、同じ主の配下として雇われていた。


殺伐とした世界を生きてきた戦闘狂の2人にとって、誰かの下に付くことは耐えがたき屈辱だった。



「仕方ねえだろ。俺達は負けたんだ。」


「そうだね。だけど、君は王族にリベンジしようとは思わないのかい?」


「もう1度、あの化け物と闘えって言うのか。やるだけ無駄さ。」


王族は、あきれるぐらい強かった。


実際に戦うまで分からなかったが、エドグォーやクトレとは違う次元の強さだった。



「フッ。それにしても、ひどい服装だね。」


「それは、お互い様だろ。」


王族の趣味なのだろう。


要人警護 を担当するSPの服装と言えば全身黒スーツが一般的だが、2人は露出度の高い服を着ていた。


ピエロや民族衣装みたいな近未来的なデザインの服は、ハロウィンなどのコスプレイベントでなければ着て歩く人間はいないだろう。


普段着にするには、あまりにも恥ずかしすぎる服装だった。


逃げ出せるものなら逃げ出したいが、王族の力により逃げ出すことはできない。


「罰ゲームみたいなものだと受け止めているよ。」


2人は苦笑した。



「それで、何か用か?」


「見張りの交代だ。」


「もうそんな時間か。」


「毎回思うけど、俺達の見張りが本当に必要か?」


「それを言ったら、おしまいだよ。」


ドアの向こう側の部屋の中から、闇の住人が恐れるような強大な力を持った人間の気配が漂っていた。




「シャンゼリーテ、聞こえるかい?」


「はい、お婆様。」


部屋の中には、シャンゼリーテと呼ばれた女性と数人の付き人がいた。


他にも何人かの気配は感じられたが、お婆様と呼ばれるような年配の女性はいなかった。


2人は電話などの通信機器を使わず、テレパシーを使って会話をしていた。



「シャンゼリーテ、記憶は蘇ったのかい?」


「はい、お婆様。」


「料理は?」


「得意です。」


「洗濯は?」


「おまかせです。」


「洗い物は?」


「ふつうです。」


「掃除は?」


「好きです。」


「裁縫は?」


「たしなむ程度です。」


「買い物は?」


「クレジットカード払いでお願いします。」


「・・・・・・。」



「よかった。記憶は完璧に戻ったようだね。」


「はい、お婆様もお変わりないようで安心しました。」


「わしを何歳だと思っているだい?わしは老い先短い老人じゃよ。」


「その割には、力がみなぎっているように感じられます。」


「奴の目覚めの時が近づいているんだ。ベッドの上で寝てなんていられないよ。」



「わしは今回の戦いでは、お前たちの援護に回るつもりじゃ。」


「はい、フォローをお願いします。」


「奴が完全復活すれば、人類は確実に滅びる。今回は、周りの被害を気にせずに戦いなさい。」


「はい、わかりました。」


「まあ、相手が相手だ。期待はしてないけど頑張っておくれ。」


「はい、お婆様。」


「さーて、最後の悪あがきぐらいはさせてもらおうかね。」


力のある王族としての義務を果たすべく、封印していた全ての力を解放した最終決戦がもうすぐ始まろうとしていた。




世界最大戦力の1つ、第3王子一行。


特注の大型ホバークラフトみたいな乗り物に乗った30人ぐらいの男女が、荒野を疾走していた。


「もうすぐ、奴が復活するな。」


「はい、目で見なくとも強大な力が増大していくのが感じられます。」


人間が限界を超えて鍛えるのが、バカらしくなるぐらいの力の大きさだ。


奴の禍々しいオーラを前にしたら、歴戦の戦士でも立っているのがやっとだろう。



「俺達が協力して奴のスキを付けば、一太刀ぐらい浴びせることができるさ。」


「一太刀だけですか?」


「ああ。俺達は俺達にできることをするだけさ。」


不思議と、第3王子の目には悲壮感はなかった。




「その話は本当だろうな。」


「はい。」


「分かった。その依頼、引き受けよう。」


「本当ですか!」


エージェントのキラム=タイシは、傭兵王ナジカ=ムジカが快く依頼を引き受けてくれて心底ホッとした。



相手は神話級の化物だ。


戦って生きて帰れる保証はない。


話を信じてもらうまでに時間が掛かると思っていたが、まさか喜ばれるとは思っていなかった。


ナジカ=ムジカが、戦闘狂で本当に良かったと思った。



「案内は頼む。」


「エッ、私も一緒に行くのですか。」


「俺は方向音痴なんだから、当たり前だろ。」


キラム=タイシは、傭兵王ナジカ=ムジカを目の前にした時より動揺した。



「案内は別に用意しますよ。」


「何言ってんだ!凄腕のエージェント・キラム=タイシの噂は、俺も聞いているぞ。」


キラム=タイシの同伴は、ナジカ=ムジカの中ではすでに決定事項みたいだ。



「楽しみだな。」


「そんなの聞いてないですよ。」


「一番槍は、俺達がいただくぞ。何をしている。サッサと移動するぞ。」


話を全く聞いてくれない。


これだから、戦闘狂は嫌いだ。


キラム=タイシの受難は続くのだった。



封印されし古の魔物を討伐するために、世界中の戦力が一か所に集まりつつあった。




「B坊パンチ!」



「!」

「!」

「!」

「!」

「!」

「!」

「!」

「!」

「!」

「!」

「!」

「!」




「奴の気配が消えた!」


「死んだのか?」


「分からない。」



「あれっ?力が使えない。」


「本当だ。」



「早く、あの娘に連絡を取っておくれ。」


「ダメです。念話が使えません。」


「電話で連絡を・・・、あの娘は携帯を持っていないか。」


「そうです。それに固定電話もありません。向こうからの連絡を待つのも難しいと思われます。」


「能力があるから電話機は不要だと思っていたのが、あだとなったか。せめて携帯ぐらい持たせておくべきだった。」



「やったー!自由だ。」


「自由?」

「自由なんですか?」


「何しているの?早くして、今の内に逃げるわよ。」


「待って下さい、姫様。」



「誰が倒したんだろ?」


「フフフ、おもしろくなってきましたね。」


「これから、俺達はどうなるんだ。」


「あの化け物を倒せる存在がいるなんて、世界は広いですね。」




こうして世界の平和は守られたのでした。


めでたしめでたし

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