第47話「争いの根源を潰すために~最終決戦~」
「……生きていたのか。暗黒黎明窟急進派ナンバー1ヤフカ」
師匠は忌々しげにその名を口にしながら、魔剣を向ける。
「ふん、久しぶりじゃのうソノン。わしの邪魔ばかりするのは師匠譲りじゃな」
蓄えた白い髭に、黒い魔導士用ローブ。
一見すると、大魔導士の風格を漂わせている。
「わしは世界の終焉をこの手で実行するのが悲願であった。しかし、それも防がれてしまった。ならば――」
老人――ヤフカは杖を構えた。
「おぬしらだけでも滅ぼす」
その言葉とともに――ヤフカは姿を変えた。
名状しがたい化物へと。
「ヌグゥウウウゥウウウウウ~!」
脱皮するように全身に亀裂が入り瞬く間に――まるで羽化するかのように――ヤフカは姿を変える。
「魔獣……ですわね。どこまでも醜悪な」
リリィが、嫌悪感を露わに吐き捨てる。
その姿はドラゴンを連想するような顔面に、メデューサを想起させる両手の蛇、両脚はケルベロスのように毛深い。
「いつ死んでもおかしくないほど病が進行していたと聞いてはいたが……なるほど、自らを魔獣化することで生き長らえていたか」
師匠はスズネにかけていた時間遡及の魔法行使を止めると、魔剣を顕現する。
「……ある程度、時間は稼いだ。まずは災厄の源であるおまえを倒さねばな。そして、暗黒黎明窟というくだらない組織に終止符を打つ」
そうだ。まずはこいつを倒さないと災厄は続く。
「師匠、ここは俺に任せてください。この中で最も消耗していないのは俺なんですから。師匠たちは休んでいてください」
カナタもリリィも師匠も大魔法を行使したばかりだ。
ここで主戦力になるべきは俺だ。
『舐めるな小僧! 貴様なぞ八つ裂きにしてくれるわ!』
目の前の異形の魔獣が咆哮するとともに――言葉が響いていく。
ビリビリと空気が振動し、念波が飛ぶ。
常人なら対峙するだけで足が竦んでいるだろう。
だが、俺は――。
「俺は『最前線の羅刹』だ。死線は嫌になるほど潜り抜けてきてるんだよ! くだらない理想のために人類を、学園のみんなを巻きこもうとするな!」
『ふざけるな! 人類絶滅という崇高な目標が貴様のような無思慮なガキにわかるものか! 地球を汚染し消耗し続ける人類は一度滅亡せねばならぬのだ! そして新たな世界を作りだす! 貴様とカナタ・ミツミを次の始祖とするつもりであったが、やはり人類は余すことなく滅亡させねばならぬようだな!』
もう錯乱しているとしか言いようがない。
それとも魔獣化したことで、理性などとっくに消し飛んでいるのか。
だが、俺のやることはひとつ。
「俺の仲間に害を為そうというなら倒すだけだ」
そこで後方からカナタに声をかけられる。
「や、ヤナギくん、もうほとんど魔力残ってなくて、あまり力にならないかもだけどっ……支援魔法っ!」
カナタは俺に対して、攻撃力・防御力・速度アップの魔法をかけてくれた。
「ありがとう。これで勇気百倍だ」
支援効果としては微々たるものだが、カナタの温かい魔力が伝わってきた。
「それじゃ、始めるか」
聖魔剣を構え、一歩踏み出す。
そんな俺に対して――。
「グギャウウウゥウゥウゥウウ!」
文字通り魔獣は牙を剥いた。
ドラゴンヘッドから魔炎ブレスを放射し、両手から無数の蛇の牙を伸ばしてくる。
「遅い!」
魔力のこもった聖魔剣でブレスを両断し、殺到する蛇の毒牙も弾く。
その一方で、ジグザグにステップを踏みながら距離を詰める。
『小癪なぁあああああああああああ!』
咆哮とは別にヤフカの怨嗟に満ちた声も響く。
奔流のような勢いでスネークヘッドが襲いかかってくるが、あるいはかわし、あるいは弾き――ドラゴンヘッドからの魔力放射も聖魔剣の力で相殺する。
近接戦闘距離に入るとともに上段から斬撃を見舞った。
「ギャガゥウゥウウ!?」
すり抜けざまに二撃目を胴にくらわせ――背後に回るともに反転して三撃目を叩きこむ。
「ヌガァアアアアアアアア!」
憤怒の叫びとともに振り返った魔獣は全力フルパワー炎性魔法放射とメデューサヘッドをありったけ放ってくる。
だが、俺は――すでに跳んでいた。
「らあああああ!」
ジャンプした勢いも加算した大上段縦一文字の斬撃。
「ゴガァアアアアアアアアアア――!?」
手応えは十分。激しく青い血が噴き出す。
それでも俺は油断することなく右にステップを繰り返して距離をとった。
俺が回避した動きについてこれずに、魔獣は的外れな場所にブレスを放射。
スネークヘッドも、目標を失ったように動きが止まる。
「いくら魔獣化して強くなっても実戦経験が圧倒的に足りてないんだよ!」
暗黒黎明窟急進派のトップということは、最前線に出たことはなかっただろう。
一方で、俺は常に最前線で戦い続けてきた。
『貴様のような、たかが兵士が! 死ねぇええええええええええい!』
憤怒と殺意のこもった攻撃が繰り返されるが――。
感情の揺れは無駄な動きに繋がる。
「喜怒哀楽を出せるほど最前線は甘くない!」
魔獣が感情を爆発させるほどに、俺の心は冷えていく、冴え渡っていく――。
無感動に、無感情に、無慈悲に――。
俺は、再び魔獣に接近し――斬って、斬って、斬りまくる。
「ンガァアアアアアアアアアア――!?」
喜びも、怒りも、哀しみも、楽しさもない。
無我の境地に至り、夢中で剣を振るう。
『これが最前線の羅刹だというのかぁ!』
驚愕とも悲鳴ともつかぬ叫びが聞こえるが、もはや俺には雑音にもならない。
敵の隙に向かってひたすら斬撃を見舞い続ける。
存分に聖魔剣を振るい終わったところで、一旦、状況を把握するべく大きく跳び下がって距離をとった。
「ヌグゥウゥウウ……」
さんざんくらわせた斬撃だが――自己修復能力があるのか傷口は塞がっていく。
だが、いくら外殻を取り繕っても内部に蓄積したダメージは誤魔化せない。
巨体はバランスを失ったように、ふらついている。
「……人間は脆いんだよ。ちょっとでも傷ついたら死ぬ可能性だってある。それなのに俺たちは常に最前線で戦い続けた。多くの戦友が死んでいった」
そして、俺自身も多くの命を奪った。
だから、俺の至った結論は――。
「戦いを起こそうとする奴には容赦しない。今の平和は多くの兵士たちの屍の上に成り立っているんだ。それを壊そうとする者には死んでもらう」
もう敵も味方もない。
これまで駆け抜けてきた戦場で散った全ての者のために、争いの根源は潰す。
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