第35話「VS量産型機械人形(屋外戦)」

「ギギギ!」


 機械人形が師匠に右手の鉤爪を向ける。

 そして――。


 ――ドウッ!


 爆発的な音がしたかと思うと――鉤爪が射出された!?

 もう本当になんでもありだなこの機械人形は!


「舐めるな!」


 師匠は退くどころか逆に踏み込んで飛来してきた鉤爪をかわし、ワイヤー状になっている部分を切断する。


「ギギッ!」


 さらに左手から鉤爪を射出しようとした機械人形だが――。


「遅い!」


 速度に魔力を全振りした師匠は、すでに機械人形の後方にいる。

 そして、思いっきり背中に魔剣を叩きこんだ。


「ギィイ!?」


 地面がが凹むほど激しく叩きつけられて、さすがの機械人形も悲鳴じみた音声を上げる。


「ふん、教育上よろしくないが、貴様がそんなに硬いのが悪いのだ!」


 師匠は靴のスパイクで思いっきり機械人形の背中を踏みつけると、魔力剣を何度も振り下ろして破壊にかかる。


「ジジジ!」


 もう一体の機械人形が救援に駆けつけるが、師匠は冷静だった。


「邪魔だ」


 瞬時に魔剣を翻して迎撃する。

 魔導斬撃はさらに強力さを増して室内のときの三倍ほどになっている。


「ジジジー!?」


 悲鳴じみた音声を発し、宙を舞う機械人形。

 普通なら一刀両断になりそうなものだが、本当に硬い。


「ガガガガ!」


 そして、室内でガスを噴いた機械人形がさらに師匠に向かって攻撃を仕掛けようとしたが――。


「させるか!」


 俺が横から割って入り頭部に斬撃を見舞って吹き飛ばす。

 あまりの硬さにこちらの剣は真っ二つに折れたが、足止めには成功した。

 あとは――。


「リリィ、頼む!」

「あなたまでわたしをこき使うんですの!? まったく!」


 文句を口にしながらも、リリィは高出力収束魔法を行使。

 精霊ならではの精緻な術式の魔力球は機械人形の腹部に着弾した。


「ガガガガガガ!?」


 電撃系統の術式を組み込んでいたようで、機械人形は奇音を発して四肢を不規則にのたうち回らせる。


「やっぱり量産型。アンチ・マジカル・マテリアルといっても電気系統の弱点は完全にカバーできていないようですわね!」


 同じ機械人形だけあって、弱点もわかっているというわけか。


「ほら、カナタ! 電撃ですわよ! 電撃! 思いっきり撃ちなさい!」

「えっ? あ、うんっ! えっと、電撃魔法! ええいっ!」


 リリィに促されてカナタも電撃魔法を機械人形に放つ。

 そちらも直撃。ふたりの電撃魔法が合わさり、機械人形から青白い火花がバチバチと舞い散った。そして――。


 ――ボンッ!


 小規模な爆発音ともに機械人形の頭から白煙が上がり、前のめりに倒れこんだ。


「ふむ、わたしとしたことが冷静さを欠いていたな。……雷性付与」


 師匠は魔剣に雷属性を付与させると、再び襲いかかってきた手負いの機械人形に対して雷性斬撃を見舞う。


「ジッジジ――!?」


 どれだけ硬くても通電には弱い。

 傷口から激しく火花を散らし、頭から煙を吐いて倒れる。

 残りは、師匠が剣を叩きつけまくっていた一体。


「ギ……ギギ……」


 激しい乱打で傷つきながらも、最後の一体は起き上がる。

 そして――目が怪しく光った。俺は嫌な予感がして叫んだ。


「自爆するつもりだ! 防御魔法! 早く!」


 俺の叫びに弾かれたようにみんなが反応する。


「くっ! 最後の最後まで厄介な!」

「面倒くさい連中ですわね!」

「えっ!? あ、うんっ!」


 全員が防御障壁を張り終わった直後――機械人形が閃光を放ち爆発した。


 ――ドォオオオオオオオオオン!


 耳を劈く轟音と衝撃。師匠が俺のほうにも防御魔法を張ってくれたおかげで爆風に巻き込まれずに済んだ。


 さすが師匠。咄嗟に自分のぶんだけでなく離れた俺のぶんと寮の建物のほうにまで広範囲防御障壁を張っている。


「まったく最後まで手こずらせてくれたな」


 煙が晴れると機械人形が立っていた場所には大きな穴が開いていた。


 そのほかの機械人形は重量があるので吹き飛ばされはしなかったものの電撃の影響で倒れたままだった。


「念のため極限まで電撃を放って破壊しておきましょう。カナタ」

「う、うんっ」


 リリィとカナタは電撃魔法を行使して、二体の機械人形も完全に通電破壊していく。その間に寮から生徒が出てきて様子を見にきた。

 ――と、旅団長がフライパンを持って一番近い俺に駆け寄ってきた。


「おおい! 大丈夫か、ヤナギ! なにがあったんだ、こりゃあ!」

「俺もよくわかりませんが……暗黒黎明窟急進派の襲撃かと……」


 って、つい、しゃべってしまったが。

 暗黒黎明窟のことを旅団長に話して大丈夫だったか?


「んだとぉ!? 師団長から話は聞いちゃあいたが、まさかここまで過激な連中たぁなぁ……!」


 旅団長も事情はわかっているらしい。まぁ、これからの戦いをしていくうえで師匠がそのあたりを話しておかないわけがないか。

 そこで師匠が旅団長に軽く頭を下げた。


「旅団長、いや、寮長。すまない、わたしの判断ミスだ。警戒はしていたが、まさかいきなり攻めてくるとは思わなかった」


「まあ怪我人もいないみたいだし、いいけどよ。でも、これぁ、上の連中に目をつけられるぜぇ?」

「……ふ、あるいは上の連中が暗黒黎明窟急進派と手を組んでるのかもしれないな。町中に大砲を持ち込まれていることからして協力者がいると考えるのだ妥当だろう。嫌われたものだ」


 師匠は自嘲するように笑う。


「んなっ!? そんな無茶苦茶じゃねぇか! 誰のおかげであの戦争に勝てたと思ってやがんでぇ! ソノン師団長とヤナギたちのおかげじゃねぇか!」

「旅団長の働きもあっての勝利だ。もっとも、勲功のある者を妬む者はいつだっているものさ。後方でなにもしてないやつほどな」


 ほんと、政治の世界というやつは陰湿で粘着質で嫌になるな……。

 師匠が遠ざかりたくなったのもわかるというものだ。

 俺も、もし軍に戻っていたらつまらないことに巻き込まれていたことだろう。


「なんにしろ妨害には屈しないさ。暗黒黎明窟急進派にも王国の上級貴族連中にも干渉させない。学園生活は自由であるべきだ」


 師匠の瞳からは強い意思を感じられた。

 それだけこのゲオルア学園の改革への思いが強いということだろう。


「新しい時代を作っていくのはおまえたち少年少女たちだ。心ある大人としてはそのための教育に力を尽くすべきだ。……まぁ、さっそく襲撃を許してしまったわたしが言うことでもないがな」

「でも、今回の襲撃は仕方ないですよ。まさかあそこまで強力になった機械人形ができているとは思いもしませんでしたし」


 あんなのが先の大戦に大量投入されていたらと思うとゾッとする。

 電撃系魔法を使えない一般兵士にとっては、対処のしようがない。


 リリィは、フンッと不機嫌そうに鼻を鳴らす。


「まるで品格がありませんわ。同じ機械人形と呼ばれるのは虫唾が走ります」


 まあ、あれは確かにグロテスクすぎるしメカニックすぎるな。

 精霊の入っていない機械人形というのは、本当にただの殺戮マシーンだ。


「で、でも……あのスズネちゃんとは友達になれないかな?」


 こんな状況でもカナタの友愛精神は変わらない。

 戦場の精神に染まりきっていた俺たちにはない発想だ。

 そんなカナタに師匠は温かい眼差しを向ける。


「そうだな。世界が君のような慈愛に満ちた人間ばかりになれば世界はよりよい方向にいくことができる。ヤナギ、しっかりと支えてやってくれ。リリィもな」

「は、はい、師匠」

「な、なんであなたに頼まれないといけないんですの? 言われるまでもないというか、わたくしの行動はわたくし自身が決めますわよ!」


 師匠はそんな俺たちを見て満足そうに微笑んだ。

 が、すぐに表情を引き締める。


「さて、まだ残党もいるかもしれないしな。警戒はせねばならん。おそらくスズネの回収が最優先となったであろうから大砲を撃った奴も撤退しているだろうが」


 ……そのあとは王都警邏隊と防衛部隊が来て事情聴取されたり機械人形の残骸を回収したりしていった。


 なお、あとでわかったことだが師匠の読み通り大砲を撃った敵もすでに撤退したようで、大砲自体は粉々になっていたらしい。


 ともあれ。

 こうして、波乱に満ちた一日は終わったのであった――。

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