第13話「放課後の時間~商店街へ~」

☆ ☆ ☆


 放課後――。

 俺とカナタは約束通り、クレープ屋に向かうことになった。


 昼ご飯も一緒にとろうと思っていたのだが、生憎、転校にあたって色々と書類を作らないといけないらしく俺は事務室に呼ばれてしまったので、それは叶わなかった。


 なお、昼飯は購買で売れ残っていたパンひとつだけだった(岩石パンと名前のついたやたらと硬いパンだった。しかも、まずかった)ので、空腹だ。


「それじゃ、ヤナギくん、行こう」

「ああ。よろしく。今日は手続きの書類作成があったけど、明日以降、昼飯もよかったら一緒に食わないか」

「大歓迎だよ! わたし、いつも裏庭でボッチメシだったから……雨の日はトイレで食べてたぐらいだし……」


 これまでのカナタの学園生活は、かなりハードだったようだ……。


「俺が来たからにはもう安心だ。一緒に充実した青春を送ろう」

「うぅ……送れる自信ないよ……わたし根暗だし、無能だし、コミュニケーションも上手くとれないし……」

「大丈夫だ。少なくとも俺はカナタとはしっかりと友情を育んでいきたい。ほかのクラスメイトは正直、仲よくなる気はしないけどな」


 でも、クラスメイトと敵対し続けるのも得策ではないよな……。

 まぁ、そのうちなんとかなるか。


「なにはともあれ、クレープ屋へ行こう」

「う、うんっ! え、えっと、こっちだよっ」


 カナタに案内されて王都の中心部へ移動していく。

 なお、ゲオルア学園は王都の南西の緑豊かなところにある。


 馬車通学する生徒がほとんどなようで、俺たちを追い越すようにして馬車が何度も通り過ぎていった。


「のけ者同士さっそく一緒に帰ってるのかよ」

「貴族の面汚しですわね」


 わざわざ追い抜きざまにそんな言葉を浴びせてくるクラスメイトもいた。

 本当に貴族って奴らは底意地が悪いクソみたいな奴らだ。


「……ヤナギくん、ごめんね、わたしといると学校にいづらくなっちゃう……」

「俺は別になんとも思わないが……というか、カナタのほうこそ大丈夫か……?」


 二十番目の子とはいえカナタは名門ミツミ家の令嬢であるのだ。

 俺のような素性不明の庶民といれば縁談に差し支えるだろう。


「いいの。わたし家の厄介者だし。そもそも、わたしを幽閉してた家だしね? 完全に放任状態だよ。だから、わたし……まぁ、不良貴族みたいなもんだね!」


 ことさらに明るく言って、カナタは胸を張る。


「そもそも買い食いするなんて貴族はしちゃいけないことだし!」

「そうなのか。それは堅苦しくて仕方ないな」

「うん。それにアルバイトも本当はダメ。だから動物病院でバイトしてるのも秘密。実はわたしパーフェクトな不良貴族!」」


 カナタは、さっきよりも誇らしげにエッヘンと胸を張った。


「いや、立派なことだと思うぞ。家柄をかさにきて偉ぶってるだけのアホなクラスメイトとは比べ物にならないほど大人だな! ちゃんと自分で稼いでるのも偉い!」

「あ、ありがとう……」


 率直に褒めると、カナタは照れくさそうに顔を赤くした。


「……わたし無能だから政治家どころか軍人になれないだろうし、貴族らしい暮らしもできないし、そもそも縁談とか持ってこられても嫌だし……動物病院で働いていけたらなって思ってる」

「後方支援とか事務とか秘書的な仕事なら軍属になることはできると思うが……まあ、軍に入るのはオススメできないな……」

「……ヤナギくん、ずっと軍にいたんだよね?」

「ああ。四年間いた。それなりに楽しかったが……多くの仲間を失った」


 そして、俺自身、数えきれないほど敵を殺した。


「とても人にススメられるような職業じゃないな。まあ、貴族学校出身なら最前線に配置されることはないと思うが……」


 だが、戦場に安全な場所はない。


 相手の出方によっては安全地帯と思われた場所が急襲されることもあるし、実際、帝国軍の不意を突いた電撃作戦によって壊滅させられた後方部隊もあった。


「そう……そうだよね。戦うって、そういうことだよね……」

「……ああ。だから動物病院はいい選択なんじゃないか。貴族的な生き方をするのも堅苦しそうだしな」

「うん、ありがとう……いつまでもミツミ家に厄介になっていられないし……」


 戦場じゃなくても生きていくことは大変だ。

 『六大貴族』のミツミ家となると家柄がかえって足枷になることもあるだろう。


「あ、こっちだよっ」


 馬車通りから小道に入り、そこをしばらく歩くと庶民向けの商店街に出た。

 庶民向けとはいっても清潔感があって小洒落た感じだ。

 

 その通りの真ん中にオープンカフェがあり、虹をイメージしたカラフルなパラソルが道を彩るように咲いている。


「あのパラソルが咲いているところが目的のクレープ屋さん。動物病院もこの商店街を真っ直ぐ進んだところにあるから、それでこの商店街のことを知ったんだ」


 道行く人は学生というより、やや年齢層が高めだ。王都中心部からは遠すぎず近すぎず、そこそこ発展しているエリアと言えるだろう。

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