第5話「対ゴーレム戦(1)コロシアム状態」

☆ ☆ ☆


「皆さん、揃いましたね~? それではさっそく実戦練習といきたいところですが~……まずはヤナギくんの実力を確かめるために魔導ゴーレムを使った実力測定を行います~」


 いきなり注目の的になってしまいそうだ。

 クラスメイトたちから、一斉に冷ややかな視線が向けられる。


「庶民に魔法なんて使えるのかよ?」

「魔法は遺伝がすべてだからな。庶民には無理に決まってるだろ!」

「そもそもなんで下賎な庶民がうちのクラスにいるのよ」


 陰口を隠そうともせず、クラスメイトたちが好き勝手に言っている。


 今、俺が使える魔法は内在系の身体強化。


 それだけあれば魔導ゴーレムなんて楽勝だが――俺が英雄であることがバレるのは好ましくない。できるだけ力を抑えねば。


「では、ヤナギくん~、さっそく始めますよ~?」


 準備運動もなにもさせずにいきなりゴーレムと戦わせようだなんてシガヤ先生はかなり横暴だ。おっとりした口調に騙されそうになるが、なかなかの曲者である。


「はい、それじゃ……まぁ、俺はいつでもいいですよ」


 でもまぁ、戦争中は奇襲されることが何度もあった。

 しかも、深夜や早朝など最悪のタイミングで――。

 それに比べれば遥かにマシか。


 俺は校庭の真ん中に移動して、倉庫からノソノソと出てきた魔導ゴーレムと対峙する。


「それじゃあ、戦闘開始です~」


 先生の号令とともに四角い顔の中にある一対の丸い空洞――つまり目が赤く光り、こちらに照準を合わせた。


「まぁ、その程度だよな」


 人間だろうとモンスターだろうとゴーレムだろうと、実力というのは対峙するだけでわかる。そりゃ、学習支援用の魔導ゴーレムが強いわけはないのだ……が。


「あれって三年生相手に使う魔導ゴーレムじゃねぇか?」

「ちょ、先生えげつなーい!」


 クラスメイトたちから、そんな声が上がる。

 どうやらこれでも強いタイプのゴーレムらしい。


「あら~? 先生、うっかりしてしまいました~」


 シガヤ先生はわざとらしい声を出して、そんなことを言う。

 上級生用の魔導ゴーレムを出したのはわざとということだろう。


 どうやら俺はクラスメイトだけでなく担任教師からも嫌われているらしい。

 ま、言動の端々からそれは感じていたことだが。


「まあ、大丈夫ですよ。なんとかなると思います」


 俺は余裕の笑みを浮かべて先生に応える。


「そうですか~? それじゃあ、遠慮なく魔導ゴーレムをマックスパワーにしちゃいますね~?」


 ……いや、本当に、この担任酷すぎるだろ。

 完全に教育者失格である。


「ははは! やっぱり先生も庶民は嫌いってことだろ!」

「今からでも退学しちまえよ!」


 クラスメイトたちも悪ノリしながら囃し立ててきた。

 まったく精神年齢の低い奴らだ。

 まさかここまで貴族の子弟のレベルが低いとは思わなかった。


「わわ、ヤナギくん、逃げてっ!」


 そんな中、カナタだけが俺のことを気づかってくれた。大勢の声にかき消されそうになっているが、俺の獣じみた聴覚は確実にその声を拾っている。


「心配するな」


 あえて俺はカナタのほうに振り向いて応えた。

 俺が背中を向けた隙を狙うかのように――魔導ゴーレムが襲いかかってくる。


 なぜわかるかというと――俺には気配を読む力があるからだ。

 剣技がそれなりのレベルにまで達すると、危機察知能力が研ぎ澄まされる。


「そういえば、木刀すら持たせてもらえなかったじゃないか」


 いくらなんでも素手でゴーレムと戦えというようなメチャクチャな教育カリキュラムはないだろう。


『ゴォオオオオレム!』


 魔導ゴーレムは、わざわざ珍妙な叫び声を上げながらこちらにタックルをしてくる。それを、背中を向けたまま横に跳躍して回避した。


「あら~、すばしっこいですね~」


 そんな中、先生はなんら悪びれることもなく間延びした声を上げていた。

 さすがにイラッとくるが、戦場で怒りに駆られるのは禁物。

 心を落ち着けてゴーレムのほうを振り向く。


『ゴォオオオレム……!』


 攻撃をかわされた格好になった魔導ゴーレムは忌々しげな声を出しながら、再びこちらに狙いをつけてきた。


「なんだ、いちいちのろいな。どうせ攻撃するなら初撃から息もつかせず連続攻撃しないと意味がないぞ?」


 大技を出すなら一発でいいだろうが、そうじゃないのなら細かい攻撃をいくつも連続していくのが常道だ。


 そもそも、忌々しげな声を出すとか論外である。

 感情の揺れを作ることは隙に繋がる。

 魔導兵器失格だ。


『ゴォオレム!』


 こちらの言葉が通じたわけでもないだろうがゴーレムは殴りかかってくる。


 今度は最初から連続攻撃を想定したかのように右、左と角ばった拳を叩きこんできたが、すべて見切って回避する。


『ゴォレムゥウウ!』


 意地でも俺に攻撃をヒットさせようというのだろう。

 両手をムチャクチャに振り回してくる。


「手数を増やすといっても、ひとつひとつの攻撃が乱雑だと意味ないからな」


 ここまで雑な攻撃では命中率が下がるだけだ。


「やっちゃえー!」

「いいぞ! 追い詰めてるぞ!」


 クラスメイトたちは、やたらとヒートアップしていた。これでは太古のコロシアムで奴隷同士の殺しあいを見て喜んでいた貴族たちと、まるで変わらない。


 ここまで貴族たちが低レベルだと嘆かわしくもある。こいつらを再教育するのは大変だし、むしろ俺としては関わろうという気すら失せそうだ。


 戦場にいたみんなは、本当に気持ちのいい奴らばかりだった。

 性格的に最高だった。


 それに引きかえ、貴族の子弟どものこの体(てい)たらく。

 これでは、最前線で戦って死んでいった仲間たちも浮かばれない。


「……ったく」


 さすがに腹が立ってきた。

 俺は右足の爪先に魔力を集める。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る