第十六話

 白を基調にし、清潔感な内装。

 でも、

 居心地に関して言えば。

 ――最悪!

 あくまでも、個人的な感想を述べているだけなので、苦情は受け付けていませんよ。


 消毒液の臭いが充満。

 換気はされているが、染み付いた臭いはなかなかに取れない。

 ――ただし!

 保健室を頼りに来た人間からした、この匂いは、安心感を与えてくれる。

 

 保健室の広さは、患者用ベッドが三台、置いてあっても狭さを感じさせない広さが確保されています。

 診療用の机の前に二つの椅子が置いてあります。

 

 保健室なので当たり前です。


 男女が向かい合っています。

 女性の視線は、うつむいたまま動かない。男性は、女性に対して積極的に話し掛けている。そのシーン見ていると、チャラ男がウブな女性をナンパしているようにしか見えてこない。

 この状況下でなく、実際にこのチャラ男が、ナンパしたら十中八九じっちゅうはっく、女性は、"はい"、"YESはい"、と返答する。

 チャラ男、おっと! 養護教諭ようごきょうゆは、マニュアル通りの質疑応答を終えると。

 白衣をなびかせながら消毒液などが、綺麗に整理整頓されている薬品棚に、物凄く綺麗な姿勢で歩いて行く。その歩いて行く姿は、ママたちに酷似している。

 流石さすがと言える。


 養護教諭は、手際よく中原さんの足の擦り傷を手当てしていく。養護教諭は、最後に中原さんの足に包帯を巻き終えると。

 ゆっくりとした口調だが、ハッキリとした聞き取りやすい声で。


「制服を脱いでくれるかな」

「「え!?」」


 私と中原さんは、同時に同じ言葉を発した。


 養護教諭の頭上には、クエッションマークを出現させながら。私と中原さんの顔を見てくる。

 中原さんは、オロ、オロ、と。動揺していた。

 養護教諭は、中原さんに丁寧に説明する。制服の汚れ具合から、足以外にも傷や打撲などがある可能性があると、至極当然の説明をした。

 

 まぁー。確かに、私から見ても彼女の制服の汚れ具合から、足以外に傷や打撲などがある可能性があることは分かる。


 緊急処置、以外で、女生徒に対して衣服を脱がしての診察をする場合。本来、女性教諭が、同席することが義務付けられている。

 が、

 第三者として女性が立ち会っている場合は、可である。ただし、本人と第三者である立会人の同意が必要。

 これは、患者側、配慮もあるのだが。実際は、男性が女性を診察するのは、いろいろと大変らしい、一昔前と違って。

 ご苦労さま、な、こって。

 

 私は、中原さんに立会人になっても、いいと同意し。そのうえ、説得した。決して、悪魔のささやきに負けたのではない――――悪魔のささやきに勝ったのだ。

 


 ……………………? ……………………?! ……………………!!


 思わず、二つの塊に掴もうとしている自分の姿が、薬品棚のガラスに映り込む。

 中原さんは、養護教諭に言うとおりに、制服を全て脱ぎ。今は、一糸いっしまとわぬ姿と言いたいところだが! さすがに、全裸になる必要性はありません。下着姿で立たされていた。

 中原さんは、下着姿で養護教諭に背中を向けている状態です。ということは私に対して正面を向いていることになります。

 私が二つの塊を掴もうと思ったのは、中原さんの育った乳がブラジャーから溢れようとしていたので、阻止しようとしただけです。

 

 ごめんない!  純粋な興味から触ってみたかっただけです。

 

 しかし、

「すげぇー」

「どうかしましたか? 天之高神あめのたかかみさん」

 

 しまった! 口から本音が。


「いえ、なんでもありません」


 私の視線の先では、養護教諭がニヤリと笑っていた。

 ちぃ! あとで、丸焼きにしやるぞ! このチャラ男! と、心の中で思っている間も、中原さんの診察を続けていた。

 

 養護教諭は、中原さんの首筋から背中、そして、膝裏ひざうらまで上から下まで舐める。

 言っておきますが、比喩です。

 養護教諭は。中原さんに、一つ、二つ、と軽い質問をした。その質問に対して、中原さんは、嘘偽うそいつわりの回答をした。

 養護教諭は、その回答を聞くと。

 今度は、前を向くように指示をした。

 中原さんが百八十度反転すると、胸が凄く揺れた! ブラジャーをしても、あの大きさになると揺れるのか! と、驚きの表情を隠しきれなかった私に。

 養護教諭は、ヘラ、ヘラ、と中原さんの視界に入らないタイミングで、私に笑い掛けてきた。

 よし! 丸焼きから骨まで綺麗に燃やし尽くすと決めた!

 

 中原さんは、私に正面を向けているときよりも、数段、恥ずかしそうにしていた。私に正面を向けているときは、顔が赤く染まっていただけだったが。

 今は、違う!

 胸元を両手で隠し、身体をじる仕草しぐさをしているうえに、耳が真っ赤に染められていた。

 私は、その後ろ姿を見ていると。ちょっと、ムラ、ムラ、してきた。

 "ちょうど、そこのベットが空いているので、休憩でもどうですか? "、と尋ねてみてもいいのかもしれないなぁー。

 と、

 妄想モード発動中の私に。

 養護教諭は、中原さんの腹部を診察しながら顔を覗かせ。

 悲しそうな表情を私に向けてきた。

 

 す、すみません……、自重します…………。


 中原さんの身体の診察し終えると。養護教諭は、薬品棚に向かい塗り薬らしき物を持ってくると。中原さんに、肌に関してのアレルギーなどがあるか? など細かく尋ねる。養護教諭は、この薬を塗っても問題ないと判断すると。次は、この薬を塗るために、身体に触れても構わないか? と尋ねた。そのとき、養護教諭から同性である天之高神さんに、塗ってもらう、ことを提案した。

 

 ナイス、養護教諭! と想った――私。

 

 中原さんは、私にこれ以上迷惑を掛けては駄目だめだと思ったのだろう、残念なことに養護教諭に薬を塗ってもらっていた。

 中原さん! さっきのイジメられている現場に鉢合はちあわせし、私があなたを救出するよりも。全然、迷惑じゃないですよ! むしろ大歓迎です!

 心の中の欲望がダダ漏れし、表情に出ていたのだろう。

 養護教諭は、泣きそうな表情になっていた。

 

 す、すみません……、自重できませんでした…………。

 

 薬を塗り終わると、養護教諭は。


「怪我の件は。僕から授業担当の先生と担任には、連絡を入れておきますから」


 養護教諭のその言葉に、中原さんの身体にあった青紫あおむらさき色のアザと同じ色に、顔色が変わっていく。


「せ、せん」


 養護教諭は、中原さんの言葉を遮り。 


「大丈夫ですよ。心配しないで、ください」


 私の脳ミソは錯覚している。

 外見は男性だが、その一瞬だけ女性の妖艶ようえんな雰囲気を見せながら、中原さんに優しく言葉を掛ける。

 一時的ではあるが、中原さんの表情が明るくなった。

 ちぃ! これだから困る――天然ジゴロ。

 

 

 中原さんは、養護教諭と私に、深々と一礼すると。保健室をあとにした。


「…………、…………」

「…………、…………、…………、…………」


 私は、今、養護教諭と二人です。

 これから怪しい関係になる。

 ――成人R18指定の教師と生徒の学園モノのお約束展開はありません。

 中原さんには養護教諭が、私の体調確認をするために、残ってもらう必要があると伝えると。素直に信じてくれました。彼女も私が病弱なことを知っていますから、なんの疑問も抱かなかったと思います。


 養護教諭は、中指と親指で器用に指を弾き、騰蛇とうだの力で、じゃ結界を張る。


「で、どうされるのですか? 摩志常ましとこさん」

「どうされるのですか――? って、弦一郎げんいちろうなら、分かってるでしょ」

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