後日談 ②

 サギからの通信を切ったねこは、わにから来た通信を繋げた。


〝すみません、ねこ〟

〝わにさん、珍しい。どうしたの?〟

〝いやそれが、ヒトデがねこに繋いで聞けと言うので〟

〝ヒトデが?〟

〝サギがラファトリシアに亡命するんじゃないかとかなんとか……〟

〝は?〟


 なんでいきなりそんな流れに? と、ねこの頭に疑問符が浮かぶ。


〝ええと、説明するのが面倒なので、ヒトデが言った事をそのまま言いますよ?〟

〝え、ええ。どうぞ〟


 なんだか面倒そうなわにの声に、わからないながらもねこは了承して促した。


〝今朝までは普通だった。恥ずかしがっているが、普通だった。だが動き回ろうとするから、どういう状況かを説明して、体調が問題なさそうだったから手加減はいらないかと言ったら少し顔色が変わった。侍女に探らせているが表情が無くなっているようで何を考えているのか読めない。そうしたら通信魔法の気配がラファトリシアに向けて使われた。もしかするとラファトリシアに亡命するのかもしれない――〟

〝ちょっとまって〟


 まだ途中だった気配がしたが、たまらずねこは止めた。


〝なんでしょう。まだ前半も前半なのですが〟

〝どれだけ続くのこれ。

 っていうか飛躍しすぎでしょ。惚気? 惚気を聞かされてるの?〟

〝やはりそう思いますか? 後半ほぼ惚気のような内容で。いやね、真剣に言ってくるものですから多少その可能性もあるのかと思ってこうして聞いているわけですが〟


 ねこはため息が出た。


〝えぇ確かにサギから私に通信はあったわ。

 内容は恥ずかしくてどうしていいかわからないという、とっても初々しいものよ〟

〝あぁ………〟


 わにから脱力したような声が伝わり、ねこもそうでしょうと思う。


〝とりあえず問題ない。やりたきゃやれと言っては?〟

〝サギが死にそうですね〟

〝そもそもサギの言葉が足りないんじゃない?〟

〝……話術レベルは高いですが〟

〝肝心なところで全然発揮出来てないでしょ。絶対〟

〝でしょうねぇ……〟


 二人してため息が出た。


〝しょうがないわねぇ……わにさん、サギのいる場所の正確な座標わかる?〟

〝わかりますが、どうするのです?〟

〝言葉で伝えられないなら別のもので伝えるしかないじゃない。

 ほんと、私既婚者じゃないんだけど……なにやってるのかしら……〟

〝おや。まだなのですか〟

〝まだ。って、なに?〟

〝いえいえ。たこから聞きましたけど、そろそろかと〟

〝?〟

〝何でもありませんよ。それより、別のものとは?〟

〝ちょっと殿方には言えないわ。乙女の武器よ〟

〝はぁ。そうですか。まぁほどほどに〟

〝はいはい。それじゃあね〟


 通信を切って、再びため息を一つ。

 仕事部屋で魔道具の作成をしている最中だったのだが、変な通信のせいで進みそうになかった。

 もう今日は仕事は切り上げようと諦め、部屋を出て知り合いの侍女に声をかけ準備をしてもらう。

 その間にサギと通信し、ちゃんと言葉にして伝えているのか確認すると、案の定おどおどとしながらハッキリ言ってないと答えてきたので、しこたま叱った。

 そうしたら、でも、と控え目にそれこそ泣きそうな声でハッキリ言われてないしと伝えてきて、ヒトデお前もかと気が遠くなるねこ。

 じゃあサギだけが悪いわけじゃないわねと、しこたま叱った事を謝ると、サギはねこさーんと泣き出した。それを聞いて、あ、ヤバイと思うねこ。

 案の定、わにから通信が入ってきてヒトデが静かに噴火寸前だと伝えられた。

 どうせサギが泣いた事で狼狽えているのだろうと思い、とりあえずわににヒトデもちゃんと思いを言葉にするようにという事と、サギを泣かしたのはそもそもお前が原因だからな、という事を強調して伝えてもらった。

 そして侍女に頼んでいた物が届くと、それをサギに転送し、夜に二人だけで開けろとサギに厳命した。本当はサギに開けさせて準備をさせる予定だったが変更した。もうお前らそれで爆発しとけと投げた。

 とりあえずやる事をやって、どっと疲れが押し寄せてきたねこは、愚痴がてら夜になってから不幸ルームに入った。


===

不幸なねこ:

わにさん、いる?


不幸なわに:

いますよ。お疲れ様です。


不幸なねこ:

わにさんもね。


不幸なたこ:

何です? 二人で。


不幸なねこ:

ちょっとね、サギとヒトデがね。


不幸なたこ:

サギとヒトデ?


不幸なねこ:

二人の惚気に私とわにさんが巻き込まれたの。


不幸なたこ:

それは……なんというかご愁傷様です。


不幸なねこ:

ほんとよ。何で私とわにさんが橋渡しをしなきゃならないのよ……しかも結婚した後に。普通やるとしてもその前でしょ。


不幸なわに:

まぁまぁ。


不幸なねこ:

そんな事でラファトリシアに敵意でも向けられたらたまったものじゃないわよ。


不幸なたこ:

それはない……と、言い切れませんからねぇ。


不幸なねこ:

ゾッとしないわ。


不幸なえび:

ほーら、早く入ってこいって。


不幸ないぬ:

わかってる! わかってるから! 余計な事言うなよ!


不幸なねこ:

……なにやってるの? えび、うちにきてるの?


不幸なえび:

ちょっとなー。野暮用で。


不幸なねこ:

ふーん?


不幸ないぬ:

痛いって、わかってるって!


不幸なねこ:

あんたたち、何してんの?


不幸ないぬ:

ねこ!


不幸なねこ:

何。


不幸ないぬ:

俺と結婚してくれ!


不幸なねこ:

え、嫌。


不幸ないぬ:

えびーーーー!! たこーーーーー!!!


不幸なたこ:

っ……っく。っくっく。ちょ……ねこ、予想通り過ぎて笑いが……


不幸なえび:

見事なうち返しだ。


不幸なわに:

たこ、えび、いぬで遊んではいけませんよ。ねこにも失礼というものです。


不幸なたこ:

いえいえ。遊んでいるつもりはないですよ。

いぬがあんまりにもぐちぐち言うので、だったら見守っているから思いのたけを叫んでみろと言ったんです。まさかいきなり結婚とは思いませんでした。


不幸なえび:

やるかなー? とは、ちょっと思ってたがな。


不幸なねこ:

あのねぇ……あんたたち、しょうもない事してるんじゃないわよ。

だいたいそういう事をここで言わせるってどうなの? 普通は二人きりの時に言うものでしょ。


不幸なたこ:

二人きりだったら脈ありでしたかー。


不幸ないぬ:

!?


不幸なねこ:

一般的な常識を言っているのよ。


不幸なえび:

いぬは嫌いか?


不幸ないぬ:

!!


不幸なねこ:

別に嫌いじゃないわよ。脳筋でうざいけど。


不幸ないぬ:

!?!?


不幸なサギ:

ねこさーーーん!! なんちゅーもん送ってくるんですかーーーー!!!


不幸なヒトデ:

ねこ。デザインは良い。だが白が無いのが残念だ。今度商会を教えてくれ。


不幸なたこ:

……サギ? ヒトデ?


不幸なわに:

これは……ねこの言っていた?


不幸なえび:

……言うだけ言って消えたな。何をしたんだねこ。


不幸なねこ:

……頭痛い。


不幸ないぬ:

!? 大丈夫か!? サギと兄貴に何かされてんのか!?


不幸なねこ:

されてないわよ。させられたっていう方が正しいわよ。

===


 と、そこでねこの私室の周りが騒がしくなってきた。

 常に王城に詰めている生活なので、ねこの私室も当然城に用意されているのだが、その部屋の周りはそれなりの警備体制が敷かれている。それが騒がしくなるという事は、良からぬ事態が起きた可能性があった。

 夜中に何事なのよと思いながらもねこはローブを羽織って隣室の仕事部屋に出ようとした。


「ねこ!? 大丈夫か!」

「何が。っていうか騒がしかった原因はあんたか」


 いぬがバーンと扉を開いてねこに近づき、ケガしてないかとでもいうようにあちこち見ているが、その開いた扉の向こうにはいぬを止めきれなかったのであろう兵士や侍女達の姿が見えた。

 頭痛の種が増えたと、ねこは額に手をやり、彼らに問題ないからと手を振って下がらせる。


「何をさせられたんだ!?」

「いいから落ち着きなさい。座って」


 椅子に無理やり座らせて、魔法でお湯を沸かし備え付けているお茶のセットを出して二人分の紅茶を入れた。

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