第6話 底辺の戦い2

 お嬢様は僕が背負っていたリュックサックから敷き物とティーカップを取り出して休憩し始めた。


 あんな物、いつの間に入れたんだろう……


 お嬢様は『黄金の瓢箪ひょうたん』から湯気の出る液体をティーカップに注いで優雅に飲んでいる。


 どうも紅茶みたいだ。いい香りがしてきた。


「その瓢箪はどういう性能なんですか?」


「飲み物が保管出来るだけよ。中身が入れた時の状態で保管されるのよ。だから紅茶がいつでも出来立てね。素晴らしい性能だわ」


 そうかな!? 全く戦闘に役に立たない様な……


「モッシュ、あなたは私の事が分かっている様で分かってないみたいね。私は紅茶を飲むと心地良くなるのよ」


 つまり……


 心地良くなると陶酔しやすいって事か!


「美しい服も同じよ。私の強さをより引き出してくれるわ」


 話をしているとスライム3匹がまたポップしてしまった。


 ボコ! ベシ!ベシ! ボコ! ベシ!ベシ!


「スライムは弱すぎるから全てが弱点と言えるけど、打撃に多少弱いわ。棍棒は良い選択ね」


 打撃のスペシャリストはモンクじゃないですか……


 冷静に分析してないで戦って欲しい


 少し力が弱くなって来たかな?


 でもスライム3匹を何とか倒した!


「ヒール!」


 一応、ダメージを回復しておく。


 ほんの少しだけ体が楽になった


「飲み物の効果が切れてきたみたいです」


「そう。この部屋は5分ポップみたいだから、効果時間は5分位ね。今度は敵がポップしてから飲みなさい」


 お嬢様は僕の背負っていたリュックサックから本を取り出して読書を始めた。


 なんで僕のリュックサックに入れているんですか……


 またスライム3匹が現れた!


 慌てて水筒から飲み物を飲む。


 ボコ!ベシ!ボコ!ベシ!ボコ!ベシ!ボコ!


 あれれ? 何だか強くなったのかな?


 倒すのが早くなったみたいだ。


「レベル上がっているみたいね。冒険者カードを確認して」


 冒険者カードを見るとレベルの表記が2になっていた!


「やりました! レベルが上がってます!」


「私も上がっているわ」


 え? お嬢様は見ているだけなのに……


「レベルが上がったからスキルを使える回数が増えるはずよね?」


「あ、そうですね。1回増えたはずです」


「リュックサックの横にぶら下げている『コップ』に経験値アップの飲み物を出してみて」


 そんな飲み物出来るのかな……


 バケツ、じゃなくて『コップ』を両手に持ってっと


「見た目と味に気をつけるのよ?」


 おっと、危なかった! 


 練習していた紅茶味にしてみよう。でも熱いのは嫌だからアイスティーにしよっと。


「経験値アップの飲み物出ろ!」


 『コップ』にアイスティーが出た。


「それを水筒に入れなさい」


 お嬢様はそう言って僕のリュックサックから水筒を出した。


 あれ? ちょっと水筒の色が違う……


 空の水筒だ


 どれだけ知らない間に物を入れたんですか!


 水筒に『経験値アップ』のアイスティーを移し替えた。


「レベルが上がった時にスキル回数がリセットされているかもしれないわ。次はダメージ回復の飲み物を出して」


 もう言われるがままにやってみる。


「ダメージ回復の飲み物出ろ!」


 『コップ』に緑色のドロっとした液体が出た……


「モッシュ……あなたね……まあいいわ。これも訓練ね」


 見た目と味をイメージするのを忘れてしまった……


 お嬢様はまたリュックサックから水筒を取り出してくれた。どれだけ水筒を入れているんだろうか……


 お馬鹿な事をしてしまったので黙って移し替える。


「これで戦闘用に3種類の飲み物が出来たわね。この調子でいろんな飲み物を作るのよ」


 お嬢様は経験値アップのアイスティーをカップに注いで飲んでいる。


「ほら、あなたも飲みなさい。敵がポップするわよ」


 慌てて経験値アップのアイスティーとダメージ回復の飲み物を飲む。


 アイスティーは中々の味だ。次はダメージ回復だね……


 ううう……不味い……


 口の中がおかしな苦さで吐き気がしてきた。


 アイスティーを後にすれば良かった……


 お嬢様が冷たい目で見ている……


 スライム3匹が現れた!


 ボコボコと棍棒で叩いて倒していく。ダメージが回復して更に動きが良くなったみたいだ!


 たまに冒険者カードを確認しながらスライムを倒す。


「お嬢様! レベル3になりましたよ」


「今日はここまでにしましょう」


 冒険者ギルド協会に行って魔石を換金する。


「これなら今日の食事代は何とかなりそうね。さっき買った『コップ』で全財産使ってしまったのよ。これからはあなたの頑張り次第ね」


「えええ? ギルドハウスを売ったお金があるでしょう?」


「あんなの改築費で無くなったわよ。明日からはもう少し稼いでね」


 スライムを倒して稼げるお金なんてちょっとしか無い。市場で安い食材を購入してギルドハウスに帰った。


「しばらく食事は私が作るわね」


「ええ? 作れるんですか?」


「さあ? さっき本で確認したから出来ると思うわ」


 ちょっと時間は掛かったけど美味しいトマトクリームパスタを作ってくれた。


「とても美味しいです。お嬢様」


「ねえ、モッシュ。やっぱりハウスの中くらいは名前で呼んで欲しいわ。それに普通に喋って……お願い」


「わ、分かったよ、ミンフィー。とても美味しいね」


「ふふふ。ありがと。モッシュ」


 何だかこうしていると子供の頃に戻ったみたいだ。


「それから、もうひとつお願いがあるの。私がお風呂から出たら呼ぶから部屋に来てね」


 えええ!!!

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