第18話 魔法使いの弟子の話

 部屋の片付けが終わったら、いよいよベッド作り。

 屋外で寸法を測って切った木材を室内に持ち運び組み立てていく。本当は木くずが舞うから外で作業したいが、ドアの幅が狭いので断念した。

 箱型の枠組みを作り、その上にすのこ状に床板を敷いて釘で固定していく。


「へぇ、慣れたもんだね」


 遠巻きに眺めるノノに、レナロッテは得意げに、


「騎士は塹壕を掘ったり、砦を造ったりするから、建築の知識があるんだ」


「レナってなにかにつけて前職のアピールするよね。過去の栄光?」


「……まだ騎士辞めたつもりないんだけど」


 辛辣な子狐に、思わず眉間にシワを寄せる。

 レナロッテの回復は順調で、手足はよく動くし、日に日に包帯を巻く量も減っていっていた。


「そろそろ普通の服も着れそうですね。ノノ、今度街に行った時にレナロッテさんの服一式と靴を買ってきてください」


「はーい。もうじきレナを里に帰せるんですね。よかった。またお師様と二人でイチャラブ生活が始まりますね!」


 和やかに語る魔法使いの師弟に、女騎士はなんだか複雑な気分だ。自分でも妙だと思うが……この家から離れることを思うと、少し切なくなる。

 だが、そんな気持ちはおくびにも出さず、レナロッテは作業を続ける。


「そういえば、フォリウムとノノってどういう関係なんだ?」


 ふと思いついて尋ねてみる。ノノが主張するようなイチャラブな関係にはとても見えないのだが……。

 フォリウムはちょっときまり悪げに、


「ノノは……私の若気の至りでできた子でして」


「え!?」


 レナロッテは目を皿にする。


「ノノってフォリウムの子供だったのか!?」


「違います」


 驚愕に叫ぶ女騎士に、森の魔法使いはあっさり否定する。


「え? でも、若気の至って??」


 混乱するレナロッテに、フォリウムが説明する。


「ホムンクルスって知ってますか?」


「ホム……?」


「人のはらからではなく、培養瓶の中から生まれる魔導技術の人工生命体のことです。製造者という意味では、ノノは私の子供と呼んでもいいでしょう」


 こともなげに言われて、レナロッテは絶句する。


「じゃあ、ノノは……人間じゃないのか?」


 辛うじてそれだけ言葉を絞り出すと、


「人間であることに意味があるの?」


 当の本人があっけらかんと返す。


「普通に意思疎通ができて、日常生活に支障がないのに、ボクがなにかに『区分』されなきゃならない理由があるの?」


「……それもそうか」


 人外の発言には説得力があった。


「でも、その狐の尻尾と耳は? ホムンクルスって獣人なのか?」


 レナロッテのもっともな問いに、製造者は頬を掻く。


「いえ、それは、たまたま培養液の中に狐の毛が混じっていたというアクシデントで……」


 どこかで聞いたようなうっかりミスだった。


「いーじゃん、狐。ボクは気に入ってるよ」


 ノノは尻尾を振って自慢する。本人が喜んでいるのであれば、それでいいのだろう。


「世の中には、私の知らない世界がたくさんあるのだな」


 しみじみと感心する人間の女性に、


「自分も蛭になったくせに、なんで他人事みたいに語ってんの?」


 狐の子供が鋭いツッコミを入れた。

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