久しぶりの帰郷と、旧友との再会と

久野真一

第1話 美少女な幼馴染とイケメン幼馴染が焦れったい

新太しんたの帰郷にカンパーイ!」

「新ちゃんの帰郷にカンパーイ!」


 真新しい2LDKのリビングに、かちゃんと、ガラスコップの音が鳴り響く。

 声の主は、小学校の頃からの付き合いである原田人志はらだひとし

 同じく小学校の頃からの付き合いである金山梢かなやまこずえ

 美男美女が並ぶと絵になる、と心の中で思う。


 僕は深谷新太ふかやしんた

 この春から社会人になる、大学を卒業したばかりの22歳。

 元は大阪出身で、東京の大学に4年間通っていた。

 それが、この春、就職先が大阪になったので、晴れて帰郷となった。


「で、どうや、新太?久しぶりの大阪は」


 人志が、グイッと一息でビールを飲み干して、声をかけてくる。


「いやー、やっぱ僕には大阪があってるね」


 もう、すっかり標準語が板についてしまった。


「そういえば、新ちゃん、いつも寂しそうやったよね」


 梢が嬉しそうな顔で僕を見つめて来る。寂しそう、か。


「そうやったんかもね。ま、これからは地元同士。改めてよろしくな」

「しかし……改めて聞くのもなんやけど、東京の4年間はどうやった?新太」


 早くももう一杯とコップにビールを注ぎながら、尋ねられる。


「まあ、楽しかったかな。サークル仲間もいっぱい出来たし」


 東京で過ごした4年間を思い出す。やりたい事があって、目指した大学だ。

 サークルでの日々も楽しかったし、学園祭を盛り上げた日々も忘れられない。

 ただ、そんな風景にこいつらが居なかったのは、少しだけ寂しかった。


「人志の方こそ、どうだった?」

「俺も楽しかったわ。新太みたいに頭よーなかったから、単位ギリやったけど」


 自虐ネタをだしてくるのもいつも通り。


「人志君は単に出席日数足らんかったせいやと思うけどね」


 梢がツッコミを入れるのも、見慣れた、それでいて少し懐かしい光景。


「僕も同感。人志は実力出せば、楽勝だったでしょ」


 人志は、一見してクール系美男子な顔立ちに似合わず、お調子者なところがある。

 親しみやすいとか、ギャップ萌えだとか、昔から人気があった。

 頭が良くないと自虐するけど、鋭い洞察力を併せ持っているし、性格も良い。

 オールマイティーになんでも出来る奴というのが、僕から見た彼の評価だ。


「よせやい。そんなに誉めても、なんもでえへんで?」


 赤ら顔で、豪快に笑う人志は何やら照れくさそうだ。


「それに、実力ちゅうと、やっぱ、梢に比べるとな……」


 と、人志は話を梢に向ける。


「わ、私は、ちょい教授に気に入られただけやって」


 否定の意味で、首を横に振る梢。

 彼女は、170cm近くの長身に、スレンダーな体型、やや鋭い目つきが特徴だ。

 クール美人といった風貌だけど、昔から大人しい気質で、頭が良かった。


 梢は就職するつもりだったけど、研究室の教授の勧めで大学院に進学。

 研究室の教授が、手放すのは惜しいと思うくらいの逸材ということだ。


「梢は謙遜し過ぎやって」

「謙遜やない。本音やって」


 褒める人志に照れる梢。そんな二人の様子は、少し可愛らしい。


 しかし、いつ、本題に入ろうかな。

 今は大阪に帰郷した僕を祝うささやかな宴が行われている最中。

 でも、僕には別の狙いがあった。

 それは、人志と梢をくっつけること。

 この二人、端からみてわかるくらいの大の仲良しである。

 しかし、僕が在学中も一向にくっつく気配がなかった。


◆◆◆◆


 人志と梢は本当にお似合いだ、とずっと前から思っていた。

 早くくっつかないかなというのが僕の率直な願いだった。

 だから、長期休みで帰郷したときに、個別に探りを入れてみたことがある。

 

 人志はといえば。


「うーん。俺はまだ恋愛とかええよ」


 と一見あっさりした返事だった。


「人志の事だから、告白さんざんされてるでしょ。いい人居なかったの?」

「ろくに知らん子から告白されてもなあ」


 そう。人志は大変モテる。

 だから、そっち方面から話を探りを入れてみようとするも、この様子。


「じゃあ、梢はどう?よく知ってるし、いい娘でしょ」


 しかし、直接彼女の名前を出してみたところ、


「お前何言うとんねん!梢みたいないい娘に俺は勿体ないちゅうもんやって!」


 慌てて否定しにかかる人志。


「ふーん。なんだか、珍しく、慌ててるじゃない?」


 この反応を見て、僕は確信した。人志は梢を好いている、と。


「あ、慌てとらんって。ただ、本当に梢はいい娘やから」


 口を割る気はない、か。なら。


「その割には、こないだ水族館デートしてた時は楽しそうだったけど?」


 と言っているけど、ブラフだ。

 4年も一緒に居れば、近くのデートスポットは行き尽くしてるだろう。

 水族館は二人とも好きだし、きっと行っているだろうという推測。


「ちょ、新太がなんで知っとるんや!」

「帰省した時にさ、ちょっと水族館行きたくなったんだよ」

「新太、昔からよーわからん行動するけど、まさかあの時におったとは……」

「なら、認めるんだね?」

「しゃーない。その通り。俺は梢の事が好きなんや。でも……」

「わかってる。秘密にしといて、って事でしょ?」

「ま、新太ならそこは守ってくれると思っとるで」

「大丈夫。信用してよ」


 といいつつも、心の中でほくそ笑む。

 いざ、くっつける時の最後の手段として使おう、と。


 一方、お相手である梢の気持ちも重要だ。

 だから、別途確認したこともあった。


「梢はさ、彼氏って居ないの?」

「私は、まだ、恋愛とかは……」

「でも、梢も結構告白されたことあるでしょ?」

「あんまりよー知らない人に告白されても……」


 そんな、あっさりとした返事だった。

 梢もモテるというのに、とても一途な事で。


「人志はどう?昔から知ってるし、いい奴なのはよく知ってるよね?」


 仕方なく、人志の名前を出して見たところ、


「ちょ、ちょちょちょ。なんで、人志君の名前が出てくるん?」

「そんなムキに否定しなくても。候補としてありかなって思っただけだって」

「人志君はいい人やけど、あくまで仲のいい友達!」

「ほんとに?以前、水族館でデートしてたの見たことがあるんだけど」

「え、ええ?なんで、新ちゃんがそれを……」


 語るに落ちるという奴だ。

 人志との会話で水族館は確定だから、使ってみただけのこと。


「以前、帰省した時にフラっとね」

「新ちゃんもまたよーわからん行動するね」

「それはともかく。やっぱり好きなんでしょ?」

「バレてるならしゃーないね。そうよ。好きなんよ」


 顔を赤らめて、とても恥ずかしそうな梢。

 こんな表情をされたら、人志ならずとも、イチコロだろう。


「言って欲しくなさそうだから、僕からは秘密にしておくよ」

「そうして?だいたい、脈があるんかもわからんのやし」


 自信なさげに言う梢だけど、もうこれで材料は揃った。

 後はどう料理するか、だけだ。


 昔から行動が読めないと言われている僕だけど、とてもウキウキして来た。

 どうすれば、この二人をうまいことくっつけられるか。

 こんな事を考えてるから、もう一人のあの娘に呆れられるんだろうな。


◇◇◇◇


 まあ、証拠は抑えたとはいえ、4年間の大学生活でもくっつかなかったのも事実。

 素直でないというより、奥手というのが近いだろうか。

 僕一人だと少し荷が重い。そろそろ、助っ人が来る頃かな?なんて思っていると。

 ピーンポーン、ピーンポーン。インターフォンの音が鳴った。


「愛。お疲れ様。彼氏とのデートはもう終わった?」


 と問うてみれば、


「彼氏さんはとっても変わり者なので、いつも困りますよ」


 どこか、嬉しそうな、でも、諦めたような声が返ってきた。


☆☆☆☆1話あとがき☆☆☆☆

というわけで、新作短編(中編規模かも)を公開してみました。

今回は、主人公が二人をくっつける、という、いつもと少し違う物語です。

と言っても、ノリはいつも通りなので、楽しんでいただけると嬉しいです。

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