ペンフレンド3

【雨音の君へ】


ごきげんよう。

今年の梅雨は長いね。

こんなに長い梅雨はなんと三十二年ぶりだそうだよ。

梅雨明けが待ち遠しいような、このまま涼しいままでも良いような気持ちだ。

君は元気にしているかい。


この前は家にお邪魔させて貰ってありがとう。

君の慣れ親しんだ場所を見られてよかったよ。


君は先の手紙で私に、なぜ私が急に君の家に来たのか、なぜあんなことを言い出したのかと聞いたね。

それに対しては、私にも明白な答えがあるわけではないんだ。


ただ、前回合ったとき、君がいつもと少し違うような気がした。

だから気になって、会いに行ったというだけだ。


しかし――――あのとき私が取った行動があれでよかったのか、ということは、未だに甚だ疑問だ。


実際、私もあのとき、なぜ君にあんな提案をしたのかよくわからない。

君に元気になって欲しくて必死だったのかも知れないね。


話は変わるが、君と出会ったきっかけは、君が道ばたで倒れていたことだったね。

君と出会えたことは幸運な出来事だったが、熱中症は危険だから、今年は十分に気をつけてくれたまえよ。


水分補給はもちろん、たとえ食欲がなくても、きちんとご飯を食べることが健康への道らしい。


そうだ。ところで、君の好きな食べ物はなんだい?






【そき姉へ】


えっと、あの時の行動って胸揉んだこと?

あれでよかったかって?


そんなのいいに決まってんじゃん。


つか、やっぱ俺のこと心配してたんだな。

なんかそうかなと思ってたけど。


んな必要ねえから、っていいたいとこだけど、正直あんときは結構参ってた。


夜、公園で飲んでたら、前もめたことのある奴らに会って慌てて逃げたり、

寝るとこねえから友達のアラタっつーやつの家に泊めてもらったら

今度は襲われそーになったりしてさ。

(となりの部屋に他の奴もいるのにだぜ?

マジ狂ってるよあいつ)

ふざけんなっつって家から出てさ、明け方までコンビニはしごしたりして始発で帰ったけどマジ眠くてきつかった。


まぁそんな話はいい。

気にしてくれてありがと。


好きな食べもんは、カップラーメンのシーフード味とブラックサンダー。

コンビニ行くとつい買っちまう。

安いし。

最近のブームはチョコチップクッキー。

あんまり種類がねえのが困るとこ。


そき姉は?

ケーキとかフルーツとか好きなんだっけ?

でもとりあえず、食えないもんなかったよな?


あ、そうそう。この前おじさんとおばさんがこっち来たんだ。

母さんの兄さんと、その嫁さんね。


んでお土産に地元のふっといネギ死ぬほど置いてった。

なんか一応有名なネギらしいけど有名なネギでもネギはネギだからさ、

一度にこんなに貰っても……って母さんがぼやいてた。

そき姉いる?いらねえか。ネギとか。






【虫の音の君へ】


ごきげんよう。

雨が降らなくなったなと思ったら、途端に暑くなってきたね。

湿気は少々うっとうしいが、梅雨明けの草木は青々としていて、本当に美しい。

君の方の調子はどうだい。


あの時は、折り合いのあわない相手と鉢合わせたり、襲われそうになったりしたのだね。


大変だったね。

近くにやっかいな人間がいるというのは困りものだね。

なるべく一人では歩き回らないように……と言っても、

君はすでにもうそうしているだろうが。


ネギか、私はネギも好きだよ。

スイーツも好きだが。

というか君の言うとおり、とくに好き嫌いはない。

でもあえて選ぶとしたら、焼き肉かな。

真っ白いご飯と焼いた肉、みたいな組み合わせが好きだ。


閑話休題。

実は君に、また謝らなければいけないことがある。


たいしたことはないから心配しないで欲しいんだが、

今、私は入院している。

そして、いつ退院できるかのめどがまだ立っていないんだ。

問題はそこで、次に君に会うはずだった日には間に合わない可能性が高い。

本当にすまない。


また涼しくなったら会ってくれるかい?

君にまた会えるのを、心から楽しみにしているよ。

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