雹庫県ダンジョンアイランド

小狗丸

第1話

 全ての始まりは今から遥か昔、地球の誕生よりずっと昔に、こことは違う異世界で一人の魔術師がある魔法の道具を発明したことだった。


 それは対象の持つ力、あるいは対象の存在そのものを異世界に封印するという魔法の道具。


 魔法の道具は対象を取り込み封印すると、次元と時間の壁を超えて異世界へと移動し、その世界に住む人間に取り憑き魂と一体化。そしてその後、取り込んだ封印対象の力を使い、封印をより強固なものとする建造物に成長する機能を持っていた。


 人々はこの魔法の道具が成長した封印の為の建造物を「封院ダンジョン」、魔法の道具と一体化した人間を「封院所有者ダンジョンマスター」と呼んだ。


 魔術師が編み出した魔法の道具は様々な世界で量産されて使用され、数多くの封院が造られたが、後にある一つの事実が明らかになる。


 それは魔法の道具を発明した魔術師が予め定めていたのか、単なる偶然なのかは分からないが、対象を封印した魔法の道具は全て、一つの例外無くとある世界の地域に集まっていたこと。


 その場所の名前は仁本にほん雹庫ひょうご県。


 雹庫県で生まれ育った人間は千人に一人の確率で、異世界からやって来た魔法の道具と一体化して封院所有者となった。封院と封院所有者の登場により、雹庫県は世界中だけでなく多くの異世界からも注目されることになる。


 国や世界を問わず多くの人間が封院の力を求めて雹庫県に集まってきた結果、初めて封院の存在が確認されてから半世紀以上経った現在、雹庫は世界で唯一異世界との接点がある「異世界交流地域」として発展したのである。


 そして雹庫県の都市である降戸こうべ市。その南方の海に一つの巨大な人工島があった。


 人工島は最初、新しい貿易港と居住地にする予定だった。だが開発開始と封院が現れ始めたのが同時期であったことから、封院所有者の隔離場所と封院の研究の為の場所として開発され、今では異世界交流の中心地となりこう呼ばれるようになる。


 無数のダンジョンが存在する、世界で最も不思議で混沌とした人工島、「ダンジョンアイランド」と。


 雹庫県で発見された封院所有者は全員、このダンジョンアイランドに集められ、その数はすでに五千人を超えている。そして今日、また新たな封院所有者が一人、ダンジョンアイランドに訪れようとしていた。


 ⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎


 ダンジョンアイランドに入る道は、本土とダンジョンアイランドを繋ぐ一本の橋だけである。その橋の上を、細長い戦車を数台、縦に繋げたような重装甲と無数の重火器で武装した列車が走っていた。


 その武装列車は本土側で発見された封院所有者をダンジョンアイランドに送る時のみに使用される特別車両で、コンピューター制御の武装列車の車内には今回送られる封院所有者の男が一人乗っているだけであった。


「まさか俺が封院所有者となって、憧れのダンジョンアイランドに行けるだなんて……人生何があるか分からないな」


 武装列車唯一の乗客である封院所有者の男、黒栖くろす弩門どもんはこれからのダンジョンアイランドでの生活を想像して楽しそうに一人呟くのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る