美空家! ~イラストレーターの義母、コスプレイヤーの義姉、声優の義妹と一つ屋根の下でイチャラブ創作する話~

灯色ひろ

エピローグのようなプロローグ

第0話 湯けむりな美空家の乙女たち

 というわけで、打ち上げと称して家族揃っての温泉旅行に来たわけである。

 

「本当にすごいですね~♪ まさか、お部屋の中に家族みんなで入れるお風呂があるなんて~♪」

「しかも露天の温泉よ温泉っ! ゼータクに源泉掛け流し! そのうえ貸し切りとかサイコーじゃーん! うわー良い景色!」

「す、すごいね……夜雨やう、こういうの、創作の中でしか見たことないよ……。ヒノキの、良い匂いがするね……」


 カポーン、とでも音の鳴りそうな湯けむり旅情。

 高級旅館の一室に備えられたこの豪華な露天風呂からは、雄大な山々や川といった自然を目の当たりに出来て素晴らしいもんだ。そりゃあ部屋に入るなり大喜びした我が美空家女子メンバーの気持ちもわかる。そしてさっそく昼から風呂に入ることになったわけだが、部屋に案内してくれた仲居さんたちが「仲の良いご家族ですね」って最初に笑ってたのがちと恥ずかしい。

 が、今はそんなことどうでもいいくらいさらに俺は恥ずかしかった。

 そりゃそうだろ。


朝陽あさひちゃんも、楽しんでいますか~?」

「弟くんなにムズカシイ顔してんの? トイレ?」

「兄さん……? どうか、したの……?」


 ――義理の母親『まひる』さん

 ――義理の姉『ゆう

 ――義理の妹『夜雨』


 四人も入るとさすがにいっぱいいっぱいな浴槽の中で、三人が俺に身を寄せてこちらの顔を覗いてくる。


 全員裸だ。

 混浴だ。

 家のようにタオルすら巻いてない。頭に乗っけてるヤツくらいだ。


 そりゃそうだ温泉だし。家族風呂だし。

 家で夜雨と風呂入ってたときに二人が乱入してきたときのこと思い出すなぁ。

 家族だしさ、うん、まぁおかしくは……ないと思うが、そもそも男一人の家族構成でこんな混浴する家族っているのか? 妹はともかく母親と姉と一緒に入るか? しかも全員義理の家族だぞ。俺にはもう普通がわからん。


 つーか――肌色を見ないように必死に顔を背けて意味も無く空を眺めたり山々に思いを馳せてる俺の気持ちを察してくれ!


「あーわかったっ。弟くんさぁ、あたしたちをやらしー目で見てんでしょ? エッチな家族モノの同人誌みたいに!」

「ぶはっ!? ちょ、いきなりなに言ってんだ夕姉!」

「うわー当たりじゃーん。愛する家族をそんな風に見ちゃっていーけないんだー。同人そうさくと現実は別だよー? このえっちー♥」


 ニマニマと半笑いを浮かべながら、いつものように俺をからかい指でツンツンしてきて遊ぶ姉。ぐぬぬ、少しビビらせちゃろか!


「――ほっほう? んじゃあマジでやらしー目で見てやろうかね! どれ夕姉はどんくらい成長してるのかなぁ!?」

「へっ!? あっ、えっ! い、いやーそれはその…………えとっ、だ、だって心の準備とかあるしさ、その…………え? マ、マジなの……?」

「ほらな! そうやってすぐ照れて赤くなる純朴乙女なんだからおちょくってくんのやめろっての! ったく、ホント夕姉はさぁ」

「うふふ~♪ でも朝陽ちゃん、そんなに無理はしなくていいんですよ~。家族なんですから、もっとリラックスです~♪」

「ま、まひるさん……」

「夜雨も……いいよ? 兄さんには……ぜんぶ、見られても……いいから……ね?」

「夜雨まで……くっ。なんて可愛いことを言ってくれる優しい妹なんだ。世界一可愛いぞ……!」

「に、兄さん…………えへへ……」

「ママも朝陽ちゃんの世界一のママになりたいな~♪」

「もちろんまひるさんも世界一っす。って言うともう一人の母に悪いんで、同率一位ってことでいいですかね」

「あっ! ちょっと弟くんズルい! いつも二人ばっかり褒めちゃってさー! こんな世界一のお姉ちゃんがいながらなんてイケない弟くんなの! いいから褒めろとにかく褒めろー!」

「強引だなオイ! ちょ、さ、三人で押し寄せてこないでくれっ! そんな広くないから! あいたたた!」


 詰め寄られて背中が痛ぇ! けど俺の肩やら腕やらあちこちには『ぽよよん』や『ふわわん』や『むにむに』や『つるつる』といった柔らかな魅惑の感触が広がり、家族相手にそれはダメだろと思いながらも血の繋がらない相手なら仕方ないという気もするしイチャイチャしてもそれは自然というかいや仕方ないわけないだろ俺たちは家族だぞ義理でも家族なの!


 なんとか理性を保ちきった俺は叫ぶ。


「んだー! はいストップいったん落ち着いてくれッ! と、とにかくいったん離れて! んでここからは次作の話な! ハイ同人家族会議です!」

「わぁ~。朝陽ちゃん、もう次の構想があるんですか~? 聴かせて聴かせてほしいです~♪ 可愛い子は出るのかな~?」

「えっ、弟くんマジ? さっすが有名アニメ監督の息子じゃん! でどーゆー話にすんの? 衣装はどんなカンジになりそ?」

「兄さんの新しい作品……楽しみ……。夜雨も……また、ボイス収録がんばるね……♪」


 こういう話題を振ると、すぐに頭が創作モードに切り替わるのが俺の家族だ。それぞれが立派にプロとして活動しているクリエイターなのだからそういうものなんだろう。


 そして――


「いや、まだまったく決めてない! それをこれから考えるから、まひるさん、夕姉、夜雨の意見も聞かせてくれ。家族サークルなんだから、みんなで一緒に作るべきだろ? これはただの打ち上げじゃない、そのための創作合宿だっ!」


 そう言うと、まひるさんも夕姉も夜雨も揃って笑い、うなずいてくれる。


 俺――『美空朝陽』もまた、“同人家族”の一員としてこの人たちに並べるクリエイターになりたい。ならなきゃいけないよな!

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