第12話 ドキドキラブコメ選択肢ターイム!
「スルスルスル~……じゃあ~ん♪」
とか効果音をつけながら夕姉が取り出したモノは、何やら2枚の細長い紙――チケットらしきものだった。
「チケット? つーかどっから出しとんじゃい!」
「こういうのやってみたかったんだー。へへ、ドキッとしたでしょ?」
「ま、まさか……そのためだけに仕込んできたのか!?」
「んっふふっ。お姉ちゃんくらいのサイズなら出来ちゃうんですわぁ。ねぇねぇびっくりした? ドキドキしたでしょ? わかるよーだってそんなジロジロお姉ちゃんの胸の谷間見て…………ってか、そ、そんなじっと見られるとハズいんだけど……」
「だから照れるならそういうことやるなって! そのためにわざわざがんばって早起きしたの!? アホなの!?」
「アホってなによー! お姉ちゃんのセクシーショット見られてホントは内心ほくほくしてるクセに! どうせ夜になったらさっきの思い出してさ! その、そのぉっ……ひとりでさっ、あ、あ~~~っ!」
「妙なこと口走ろうとして勝手にセンシティブ自爆しやがった……」
赤くなった顔を隠すようにしゃがみ込む夕姉。もはや夕姉の“センシティブ自爆”には慣れたもんだが、なぜ毎回懲りないのだろう。
ウブなくせにこういうことをしたがる姉に辟易しつつ、俺も実は照れていたのがバレないようにさっさと話を戻す。
「あーもうそれはいいから。それで? それ何のチケットなんだよ」
「あ――そうそうあのねっ!」
すぐに立ち上がって復活する夕姉。そのチケットを俺の前にバッと差し向ける。
「これ、『セーブイン遊園地』の無料チケット! 最近リニューアルしてめっちゃキレイになってるしさ、ちょうど日曜だしさっ、今日辺り取材がてらどうかなーって」
「取材? 遊園地に? しかも今日かよ」
「弟くんが書いてるの家族の話じゃん? だったらうちも家族でお出掛けしてさ、楽しく遊んでたらなんかひらめくかもしれないじゃん。お姉ちゃんマジナイスアイディアでしょ!」
「あー、なるほど……」
「このために早起きしてあげたの! 感謝してよねもー!」
ちょっと納得してしまう俺。
うーむ、遊園地なんて小学生の頃以来行ってないな。最後は確か両親とだった気がするが、あのときもアニメのオールアップ直後かなんかで二人とも割としんどそうだったなぁ。ろくな思い出がねぇぞ。
「けど急な話だなぁ。なんで今日なん?」
「チケットの有効期限が今日までだからじゃーん」
「マジかよ。ん、じゃあまぁせっかくだから行くか? チケットももったいないし、わざわざ早起きまでしてくれたわけだしな」
「イエーイ決定~! じゃ、朝ご飯食べて『マジアイ』観たら出発ね!」
両手を伸ばしてチケットを掲げる夕姉のヘソが覗く。せっかく誘ってくれたわけだし、夕姉の気遣いを無碍にすることもないしな。
とか思って感心していたら、夕姉が2枚のチケットを顔の前に持ってきてちょっぴり目を細めた。
「それでは弟くんっ、ここでドキドキラブコメ選択肢ターイム!」
「ドキドキラブコメ選択肢タイム!?」
「チケットは2枚あります。ママとよるちゃんはまだ起きてきていません。今ならキレイでカワイイお姉ちゃんと二人っきりのデートにすることもできまーす」
「は!? デ、デート!?」
「家族で行くために二人を起こしに行きますか? それとも二人にはナイショでお姉ちゃんとヒミツのデートをしちゃいますか? しんきんぐたーいむ♪」
夕姉が身体を左右に揺らしながら謎の軽快なBGMを口ずさむ。足でリズムさえ取っていた。
「いやいやちょっと待て! なんだよこのゲームは! ああ! BGMのテンポを上げるな! 俺を焦らして遊ぶな! ニマニマすな!」
「制限時間を過ぎたら家族全員の好感度が下がりまーす。は・や・く、選んでね~♪」
「だーくそっ! ああもうわかったよ! 家族! 家族四人で行きます!」
「ファイナルアンサー?」
「はいはいファイナル! もう古いからなそれ! そもそも正解とかねぇだろ!」
「ぴぴ~! 弟くんの選択肢によって、家族全員の好感度が上がりました~! あーでも残念。お姉ちゃんの親愛度は下がっちゃいましたぁ。んもう、これじゃお姉ちゃんルート入れなくなっちゃうよ~? 次の誕生日イベントではマジちゃんと贈り物してよね!」
「無駄に設定が凝ってやがる! つーか夕姉……もともと四人で行くつもりだったろ!」
「ぎくり。――あっ!」
夕姉が動揺した隙に2枚のチケットを奪い取る俺。そして自分の想像が正しかったことを確認する。
「ほれみろ。このチケット1枚で2人まで使えるヤツじゃんか。それに今日はまひるさんも夜雨も仕事休みだって言ってたろ。始めからそのつもりだったくせに俺を弄びやがって!」
「えっへへへ! バレちった。でもさっすが弟くん! お姉ちゃんの考えることがわかっちゃうんだね~?」
「ったく、朝から勘弁してくれよな」
チケットを夕姉に返す。
夕姉はそれを受け取ると――少し気恥ずかしそうに上目遣いに俺を見た。
「でもね……弟くんが二人きりのデートを選ぶんなら、あたしは、それでもよかったよ?」
「え……」
声を失う俺。
夕姉はチケットで顔を隠していたが、すぐにじわじわ赤くなり、両手で顔をパタパタと扇ぎだした。
「あ、これやば……やっぱナシナシ! 今のハズい! うわ~ダメダメ! あーもうハズい!」
「は、はぁ~~~? だから照れるならやるんじゃねぇっての! 俺まで一瞬ドキッとしただろうが!」
「だってヒロインぽいこと言ってみたいじゃん! 弟くんだってたまには主人公ぽいセリフ言えっつーのー! アニメ監督の息子が情けなーい!」
「現実とアニメを混同するんじゃねぇええええ!」
こうして俺と夕姉が朝からギャーギャー騒いでいる声で起きてしまったのか、いつの間にかリビングの入り口に立っていたまひるさんと夜雨が寝ぼけ眼で呆然とした顔をしていたのだった。
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