第2話 義理の母親『まひる』さん
俺の家族は、みんな変だ。
そんな我が美空家で一番早く起きるのは、基本的に高校生になったばかりの俺である。
一階の静かなキッチンに一人。広いリビングの大きな窓が取り込む朝日はレースカーテンで柔らかな光になる。
俺は自らアイロンを掛けたパリパリのYシャツの上に、魔法少女系アニメ『マジカルラビリンス☆レティ』のプリント柄が恥ずかしくも慣れたエプロンを着けて、四人分の簡単な朝食を作る。今日はスパムと目玉焼きに簡単なサラダ。味噌汁はインスタントで楽をした。
「さて、じゃあ一人ずつ呼びに行くか」
まず向かうのは、一階にある母の仕事部屋。朝食を作って家族を起こしに行くのも毎朝の日課だ。
ノックをしてドアノブに手を掛ける。
「まひるさん。朝でーす」
ドアを開くと、大きなデスクの前で一つに結ったふわふわの銀髪が揺れた。
「あぁ~朝陽ちゃん~。おはようございまぁす。もう、あさ~?」
「さようにございます。また徹夜で仕事してたんですか? ちゃんと休まないとだめですよ。どぞ、コーヒーです」
「わぁ~ありがとう~♪ ちょくちょく仮眠挟んでますから大丈夫ですよ~。それに、みんなが学校に行ったらお昼寝いっぱいしちゃうから~♪ ……ん~、朝陽ちゃんのコーヒー美味しいなぁ~♪」
ほわわん笑顔で手渡したコーヒーを飲むまひるさん。この人はいつもこんな感じだ。
見渡すと、まひるさんの部屋には多くの本が溢れている。目立つのは漫画やライトノベル、アニメのムック本、風景の写真集や人体デッサンの本、美術関係の資料。そして大量の“薄い本”――いわゆる同人誌というやつだ。その多くが成人向け同人誌である。ちなみにすべて男性向けでいわゆる
そして机の上には仕事道具である大型の液晶ペンタブレット。二台並ぶ大型モニターには塗り途中の女性キャラクターの姿が描かれていた。一人は格好いい女騎士みたいな子で、もう一人は修道女みたいな子だ。これはファンタジーかな。
「新作ですか?」
「うんうん~。大賞を獲ったラノベの表紙なんです~。表紙は一番大切なだから、気合い入れないとですよ~♪」
両手をぐっと握り、脇を締めて可愛らしいポーズをとるまひるさん。とても立派なお胸様がむぎゅうと腕に挟まれて少し目のやり場に困る。
――『美空まひる』さん。俺の義理の母親だ。
綺麗な白銀色の髪と青っぽい瞳、明るい笑顔が印象的な、いつもニコニコしている穏やかな性格の人だ。今のところ怒ったところは一度も見たことがない。名前の通りれっきとした日本人だが、母親がスウェーデンの人らしく、うちの家具もあれこれがスウェーデン製の物だ。
その容姿はまさに絶世の美女。深窓の令嬢といった装いであり、一緒に買い物に行ったとき店員さんに女子大学生と間違えられたことがあるのも納得の若々しさだ。とても高校生の娘がいる人には見えない。常に上品なのは箱入りのお嬢様育ちゆえのものらしい。
「にしても……やっぱりまひるさんの絵はすげぇなぁ」
「いつも褒めてくれてありがとう~朝陽ちゃん♪」
モニターの制作中イラストに感動する俺。
そんなまひるさんは、プロのイラストレーター『
俺は、そんなまひるさんこそ紛れもなく天才であると思っている。小さな頃から好きなイラストレーターさんだったから、この家に来たばかりの頃はめちゃくちゃ驚いたものだ。その腕前は美空家の子どもたちを育てるために必死の努力で培われたものであるとわかる。とにかくすごい人なのだ。
義理の母親――とはいえ親父とはもう離婚しているわけだから厳密には違うのだが、今でも一緒に暮らしている“家族”であることには変わりない。
「とりあえず、朝ご飯食べましょうか。まひるさんのはスクランブルエッグにしました」
「わぁ~い♪ 朝陽ちゃん大好き~♪」
椅子から立ってぎゅう~っと無邪気に抱きついてくる愛情表現豊かなまひるさん。いつものことだがドキッとするのでやめてほしいがやめてほしいと言うとしょんぼりしてしまうので言えないんだよなぁ。いやまぁ俺も嬉しいんだけど……。
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