第14話 満たされぬ欲求

 帰宅すると部屋は真っ暗だった。

 瀬奈は玄関の電気をつけた。


「ただいまー」

 声をかけたが返事はなかった。

 亮太は帰っているはずの時間だった。


 部屋に入るとソファーから寝息が聞こえた。

 亮太はブランケットに包まれ、顔だけすっぽりと出していた。

 まるでブランケットの中で暮らす、か弱い生き物のようだった。

 瀬奈はかがんで、その寝顔を覗き込んだ。

 玄関から漏れた明かりを浴びた亮太の顔は、微かな光でもくっきりと陰影を生んでいた。

 綺麗に浮きあがった鼻筋を舐めるように見つめながら、瀬奈は深く溜め息をついた。


 二週間、無休で働き続けた。

 この生活が続けば金は確実に貯まる。

 だけど続ける気力をすでに失いつつあった。

 働き通しで、亮太と同じ家で暮らしているとは思えないくらいに話をしていなかった。

 それは、亮太も前に比べ、働きに出る事が多くなったからでもある。

 金銭面だけで考えればいい事だった。

 でも瀬奈は、寂しくてたまらなかった。

 彼との時間を増やさないと、自分自身を見失いそうだった。


 生きているって、実感出来るセックスがしたい。


 七時間も性的な事ばかり繰り返してきたのに、瀬奈は無性にセックスがしたくなった。

 ストレスを発散させたいのか、寂しさを埋めたいのか。

 他人の性処理ばかりして、満たされることのない欲求が浮き彫りになってしまったのか。

 身体の中で渦まく性欲の強さに、瀬奈は戸惑った。

 しつこいというほどプレイした後で、家に帰ってまで欲するなんて考えられなかった。

 眠る亮太を見つめながら、瀬奈はそっとワンピースの裾を捲り上げ、ストッキングを下ろした。

 パンツの中に手を滑らせると、少し湿っていた。


 彼氏だから起こしてお願いしてもよかったのかもしれない。

 だけど、瀬奈は自信がなかった。


 客が女の体を求めてくる温度は、亮太のセックスを上回ることが多かった。

 客以上に、亮太は自分と身体を交わすのを喜んでくれるだろうか?

 あしらわれたり、面倒くさそうな顔をされたら、心が割れてしまいそうだった。


 瀬奈は彼の顔を見つめながら、しずかにしずかに指を動かし続けた。

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