第2章

第9話 同級生からの誘い!?

「ねえねえ、月島くん」


 ねねが転校してきてから、まだ二日しかたっていないが、俺は一大イベントに臨んでいる。


「月島くんって面白い人だったんだね~」


「そうそう、大声出したり、お腹痛いって仮病したり~」


「おまけに屁理屈で強引にねねちゃんを保健室に連れていくしさ」


 ねねが転校してきたときに俺が行った言動によって、クラスメイトの俺へのイメージがガラリと変わった。


 おかげで、俺は今女子に囲まれている始末。


 おまけに、仮病と屁理屈に気づくなんてエスパーかよ……


「ほんとにお腹痛かったよ、ねねも保健室で見てただろう?」


「そうだね、はらわたが煮えくり返ってたわ」


 とりあえず仮病だと思われるのがいやで、隣のねねに援護射撃してもらおうとしたが、どうやらねねは不機嫌。


「そうそう、はらわたが煮えくり返ったくらいお腹痛かったってことだよね? ねねはまだ日本語に慣れてないから、変なこと言っちゃって、ははは」


 腕を摘ままれた。すごく痛い。


 これくらいは許してほしい。君が来てから俺の生活環境がだいぶ破壊されたからな。


「やっぱ月島くんって面白い~」


 それは少し違うと思うけど、クールで近寄りにくいと思われるよりマシか。


「私、前から月島くんと話がしたかったんだよね。でも、ほら、月島くんって話しにくいって思ってたから」


「俺は普通ですよ」


「なんで敬語? やっぱ面白い~」


 千奈美以外の女子と話すの慣れてないから、つい敬語でしゃべっちゃった。


 てか、なんでもうけるんだね。


 ねね、なぜ俺を摘まんでいる指にさらに力を入れる?




「またね、月島くん」


「また話そうね」


 始業のチャイムが鳴って、女子たちがやっと去っていく。


 俺はどちらかというと不慣れな会話で疲れた気がする。


「鼻の下伸ばしてる……」


「伸ばしてない」


「ふーんだ!」


「仕方ないじゃん。彼女たちから来たんだもん」


「彼女!?」


「そっちじゃないよ!」


 ぷぅと頬を膨らませても無駄だ。だって俺は悪くないもん。ちなみに、耳を立たせるのもね。


「ねねだって、男子に囲まれてたじゃん」


「えー、嫉妬してくれるんだー、へー」


「違うし。てか、ねねの日本語なんでそんなにうまいの?」


「知りたい? 知りたいよね~ 実はね、にゃんこ星人の耳はしゃべる人の伝えようとしてることを感じ取れるんだよ」


「そういう設定?」


「設定っていうな」


「ごめんごめん」


「だから、日本語勉強するのは簡単だったよ。うちのメイド日本語しゃべれるし、教えてもらったの」


「へー」


「返事が適当!」


 さっき自分も「へー」って言ったくせに……


「はいはい」


「もー」


「ほら、授業始まるよ」


「ごまかさないで」


 とりあえず授業に集中しよう。


 さすがに空腹に勝てず、ねねに合わせてツナばっかり食ってたら、集中力が上がった気がする。なら、これを勉強に活かさない手はない。


 DHA恐るべし。


「ねえってば」


「先生に注意されるよ」


「またはぐらかしてるー」


「姫野さん、私語は慎んでください」


 ほら、言わんこっちゃない。


「はーい」


 すごい嫌そう。


 ねねは露骨に不機嫌そうな顔をしていた。




「お腹すいた! 魚食べたい!」


 放課後になったとたん、ねねは欲望を精一杯口にした。 


「まだ夕飯まで時間があるよ」


「誠人くんは分かってないな~」


 もったいぶってるのはちょっとうざいかも。


「学生には買い食いという特権があるのだ!」


「それでも姫様なの?」


「今は人妻じゃ!」


 頼むから、学校でこのフレーズはやめてくれ……


「月島くんってやはり人妻に興味があるのかな」


 ほらみろ。


 って、早乙女さん?


 気づいたら、早乙女さんは鞄を両手で持って、俺の後ろに立っていた。


「どうしたの? 私おばけじゃないよ?」


 否定するところおかしくない? って言いたい気持ちをぐっとこらえて俺はゆっくりと説明する。


「いや、その、早乙女さんとはあんまり話したことないから」


「私もみんなみたいに月島くんと話してみたくて」


「涼子ちゃんまで!?」


 ねねは眼球が飛び出そうな勢いで早乙女さんを見つめていた。


「その、前は隣の席だったし、一度話してみたい気持ちは昔からあったから……」


「そうなんだ。なら大丈夫ね」


 なにが大丈夫なのかよくわからない。てか、ねねの判断基準自体がわからない。


「早乙女さんと話してみたいのは俺も同じだけど、ねねはお腹すいてて……」


「月島くんは姫野さんにやさしいのね」


 心なしか、早乙女さんは少し寂しそうに見えた。


「全然だよ。ただ、このままにしておくとうるさくなるから」


「そこも自覚ないのね」


「ちょっと、ちょっと、私めっちゃディスられてない?」


「「ディスってないよ?」」


 なぜか早乙女さんとはもった。


「なんか私ってだだをこねる子って言い方だったじゃん」


「違うの?」


 俺は本気で聞き返した。


「違うし。なんなら、私はちゃんと大人ってことを証明しよう」


「どうやって?」


「うーん、そうだ! 誠人くんはこのまま早乙女さんと話してていいよ~ 私一人で食べ物買いに行くから。なんせ私はお・と・なだから」


「大人は買い食いしないよ」


「うるさい!」


 一番うるさいやつにうるさいって言われるのは地味にショック。




 疾風のごとく、ねねは鞄を持って走って教室を出た。よほどお腹すいてるのか、それとも食い意地張ってるだけなのか。


 残りは俺と早乙女さんだけ。ちょっと気まずい。

 

 とりあえず誤解だけは解いておこう。


「あの、早乙女さん、俺、人妻とかに興味ないから」


「そうか……よかった」


 よかったって、なにがよかったの?


「でも、いきなり話してみたいって言われても何話せば分からないもんだね、ははは」


 笑顔を作るつもりが、苦笑いになってしまった気がする。


「それなら、べ、勉強を教えてくれませんか?」


「えっ?」


 早乙女さんの唐突の提案に、俺は少し耳を疑った。


「その、勉強を……」


「俺そんなに成績よくないよ?」


「でも、数学は得意でしょう?」


 なんで知ってる?


「得意って程じゃないけど、俺でよかったら授業のあといつでも聞いていいよ?」


「その、今私の家に来てもらえないかな?」


 ええええええええええええええええええっ!


「ええええええええええええええええええっ!」


 やばい、心の声を口に出してしまった。


「あっ! そのちがくて……ただ、今日の宿題を、お、教えてほしくて……あと、家だとゆっくり話もできるかなって」


 あのおとなしい早乙女さんからいきなり家に来ないかって言われて、正直かなりびっくりした。


 確かに、これは仲良くなれるチャンスだ。


 でも、女の子の家って千奈美のにしか行ったことないし……


 どうしよう。


「……分かった」


 俺は、ちょっとだけ、友達が欲しいのかも。

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