第26話 大量殺戮者の末路
「被告ディリオン・ジェミニアーニに判決を言い渡す。オッポ村、ブルルーラ、デルグラムの街の住人を囮にし、これを壊滅させ、デポルカの街に大きな被害をもたらした。518名の命を奪った罪は非常に大きい。――よって死刑とする」
街の人々から、歓声が響き渡る。
「なんでだよおおおおおお! ただ追われて逃げただけじゃないかよおおおおお!」
ディリオンは泣き叫ぶ。
「なお、街の復興の為、ジェミニアーニ家の資産は全て没収とする」
「それだけはご勘弁をおおおおお! 息子はどうでもいいんで、ワシの財産だけはあああああ!」
ディリオンの父が泣き叫び、さらに大きな歓声が巻き起こる。
どうしてこうなってしまったのか……。
エクレア達は無事に生き延び、三人揃ってデポルカの街に向け出発した。
途中ドラゴンに襲われた村や街の人々を助けたのだが、その際にディリオンがドラゴンを引き連れていた事が判明する。
三人はデポルカの街に到着後、ゲラシウスにこれを報告した。
彼は「絶対に他言してはならん!」と三人にきつく命じる。
しかしバルバラは酒場で酔った勢いでベラベラと喋り、ボグダンは目に付いた衛兵全員に通報し、エクレアはレイにこの事を伝えた。
これに怒ったレイはラペルト伯に話をし、裁判をおこなう事となった。
証人は多数いた。
ディリオンに撥ねられた少女。
「僕の代わりに死ね!」と言われた中年女性。
「この街で三つ目だ!」という発言を聞いていた衛兵など、ディリオンが黒である事を証明するのは十分すぎるほどだった。
「やめろ! やめてくれえええ! 僕は氷の貴公子ディリオンだぞ! 貴族なんだぞ!」
処刑人に抱えられ、ディリオンは処刑台の上に連れて行かれる。
「誰か僕を助けてくれえええ! ――エクレア! エクレアじゃないか! 君の火炎魔法で僕を助けておくれよ!」
処刑人は無言で、斬首台の上にディリオンの頭を乗せる。
「おお! バルバラ! 君もいたのか! 早くこいつに<
処刑人は斧を振りかぶった。
「おい、冗談だろ! 僕がこんな終わり――」
ディリオンの首が、ゴロゴロと処刑台の上を転がる。
広場は歓声に包まれた。
「さようなら、ディリオン様……」
エクレアは身をひるがえし、広場を静かに去った。
* * *
「ギルド長、業者が来ました」
「おお、そうか!」
グスターボに呼ばれたゲラシウスは、ギルド長室を出た。
一階に落ちた岩が邪魔で、業務に支障をきたしていたのだが、ギルドメンバーの力だけではどうにもならない。
ラペルト伯に、岩の撤去の為の人員を送ってもらう事を要請したが、「ゲラシウス、君のギルドは一番後回しだ。理由は分かるね?」と言われた。
「こんにちは。クッキー・マジシャンズの者です。岩の撤去に来ました」
「――レイ!?」
ギルドメンバー達が驚く。
レイより後にこのギルドに入った者達は、彼の死人のような顔しか見ていないので、あれがレイ・パラッシュだと分からなかったのだろう。
「ゲラシウス、だから言っただろう? あのレッサードラゴンは殺すなと。金と名声しか考えなかった結果がこれだ。反省するんだな」
「なんだその口の利き方は!? 失せろ、ゴミカスが! <
しかし、レイはびくともしなかった。<
「――今のは立派な傷害だぞ? いいのか? 俺は、お前のとこのギルドメンバーを二人殺しているんだぞ……?」
「ひ、ひい……!」
レイの氷のような冷たい眼に射抜かれ、ゲラシウスは尻もちをつく。
あいつは、こんな目をできる男だったか?
「……さて、どうする? 別にこのまま、帰ってもいいんだが……?」
「ギ、ギルド長……!」
グスターボが哀願するような眼で、ゲラシウスを見る。
よく見ると、他のギルドメンバー達も同じ事をしていた。
「うぐぐぐぐぐ……! くそお! やってくれ……!」
「――了解」
レイはゆっくりと岩を持ち上げ、外の空き地に投げ捨てた。
「うおおおおおお! すげえええええ!」
「レイってあんな事ができたんだ!」
「レーイ! レーイ!」とギルドメンバーから歓声が沸く。
「おのれええええ……!」
本当に気に食わない奴だ。
あのゴミは一々こちらを下げる事をしてくる。
「殺さなくても良かったものを殺したのです。名誉な事ではありません」
奴はそう言って、ドラゴンスレイヤーの称号授与を辞退した。
ラペルト伯は彼の言葉に感動し、全魔術師ギルドに「今一度、本当に対象のモンスターは討伐するべきなのかを熟考するように」と触れを出した。
デポルカの街は、この話で持ち切りだ。
愚民どもはレイの誠実な人柄をたたえ、吟遊詩人は奴の詩まで作り、街中で堂々と歌っていやがる。
反対に俺は、今回の事件の犯人として、徹底的にこき下ろされた。
家には石が投げ込まれ、壁に「人殺し」「クズ」「馬鹿」「死ね」「包茎」などとラクガキをされる。
妻と娘は「もうあなたとは一緒にいたくありません!」と言って、実家に戻ってしまった。
「……それもこれも、全部あいつのせいだあああああ!」
ゲラシウスの怒号に反応した者は、グスターボだけだった。
ギルドメンバー達は、レイと岩の元に行ってしまっている。
「貴様らあああああ!! さっさとガレキを撤去せぬかあああああ!!」
喉を傷めるほどの音量で叫び、ようやくメンバー達がのろのろと戻って来た。
「工房の復旧を最優先でおこなえ! マジックポーションをさっさと生産するのだ!」
「ギルド長……そ、それが……」
グスターボが気まずそうな顔をしている。
「なんだね……?」
「ボンゴとチーがいなくなりました……」
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これにて「氷の貴公子ディリオン」編終了となります。
小説家になろうの原稿をコピペすると改行がおかしくなる事に、今気が付きました。全話修正済みです。
ご不便をかけて申し訳ありませんでした。
来週3月5日(金)から小説家になろう様で新連載を開始する予定です。
悪徳錬金付呪店を追放された錬金付呪師が、その店を倒産させる経営をメインにしたざまぁものとなります。
ぜひご一読していただければなと思います。
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