6月集

※ 3/8:21〜30をアップ


1


昼間の仕事をしている彼は、朝日が山にかかっている間に太陽に入り込み、夕陽が海に沈みきる前に太陽から出て来て、海を泳いで帰ってくる。



2


あの錆びた家は、決して手入れさることはなく、時々、音楽家が集まって来ては、家中からキーキー音を響かせると、ついついその奏でられた音楽に耳を傾けてしまう。



3


海辺にあるそのお店のかき氷は、ほのかにしょっぱくて、店の裏には流れ着いた流氷がつなぎとめられていた。



4


彼女の影は、近寄りがたいほどに暗い謎に包まれた宇宙のようなだが、未だ発見されていない輝かしい星を見つけるよ、と言った彼は、彼女と未来の光に向かって行った。



5


もくもくと昇る白い煙の中には、上の階段があって、黒い煙の中には、下りの階段がある。



6


氷で大陸がつながり、とても寒い日々だが、あちこちに可愛いペンギンがいて戯れていると、背後にシロクマがいた。



7


寝相の悪い彼女は、やはり今日も隣にはおらず、アパートの壁を突き破り、隣人の昨晩の残り鍋に顔を突っ込み、溺れる夢を見ていた。



8


彼は、昨日思いついたアイデアが思い出せず、昨日と同じ行動をとれば思い出せると思って家を出たが、ふと辺りを見て、世の中の多くの人が、何かを思い出そうとしているように思えた。



9


ティッシュ箱のティッシュを一枚引き抜こうとしても取れず、噛みつかれ、それは色のついたティッシュを作ろうとしている。



10


自動販売機で飲み物を買った彼に、愛をたくさん注いだことの礼として、それに見合った分の札束が出てきて、一人でいただくのは申し訳ないと、配り歩き始めた。



11


別れを告げようと、彼女が最後に放ったサヨナラの言葉が、一人歩きして、彼女よりも先に、彼女の身の回りのものを全て連れ去って、彼女の周りには何もない。



12


キノコ女は、髪型がキノコっぽいだけでなく、彼女が立ってできた影には、キノコが生えるので、彼女の旦那は家でキノコが食べ放題だと喜んでいる。



13


その上りしかない花柄のエスカレーターは、どこまでも続いて、まだ乗る勇気はなく、終着地点はきっと天国であると噂されている。



14


そのランプに火をつけると、辺りに花々を咲かせ、湧き立った香りに誘われて、蝶が集まり出し、それはそれは幻想的だが、少しするとあちこちから蜜を求めて蜂もやってくるので、危ないと思ったら火を消してください。



15


突如姿を現した目の見えない少女が吹く笛の音に、耳を奪われて目をつむり、いつの間にか音も少女の姿も消えていて、ただ、その少女のぼんやりとした姿だけが奪われた心と入れ替わりに残っている。



16


海岸に流れ着いた大量の旅行カバンは、どれも鍵がかかっていて、一つだけ鍵のかかっていないカバンの中には、大量の鍵が入っていた。



17


もらったチケットに書かれた番号の席に行くと、辺り一帯どれも同じ番号の席が並んでいるにも関わらず、その中の一席のみを人々は争っている。



18


畑に家のように大きな野菜ができ、ずっと成長し続けるので、中をくり抜いて住み始めていて、毎食かぶの料理ばかりではあるのだが。



19


いつどこで習得したかも忘れてしまい、思い出せない呪文に悩んでいた老魔道士が、適当に呪文をつぶやいていると、星が端から壊れ始めて行く。



20


一輪だけ月に咲いている花を取りに行った者が、帰ってくることはなく、それが宇宙人になるための試験だとは、まだ誰も知らない。



21


特別に、深夜解放された美術館で、飾られた絵画の人物たちがいつものくせで、一斉に瞬きをした。



22


自分の足跡を残したかった彼は、アスファルトの上を歩くのをやめ、土につけた跡は葉に隠され、砂漠では砂風に消されてしい、まだ固まっていないコンクリートに足を取られてその場から動けなくなり、銅像となった。



23


夜空の輝きが少なくなっているのは、宇宙人が星を盗んでいて、遠くの恋するエイリアンにあげている。



24


手に入れた見知らぬ惑星マップにある星にやってきた彼は、行く先々で、何も言っていないのに、こんな星に来るのだから暇人で、独り者、気まぐれな性格だと告げられ、否定はできず、マップをよく見ると図星のマップだった。



25


壁に穴が空いたかのように、見えないはずの向こう側の雲が見え、囚人の男は、その雲に突っ込むと牢を抜けることができたが、小さな雲の上で、雲流しにあっている。



26


彼女が手付かずの草原の草むしりをしていると、大地が怒ってひっくり返り、大地のヒゲを抜いてしまったらしく、家の小さな庭の草すら抜けなくなってしまった。



27


彼はまた一年の旅を終える家への帰り際、バス停で待っていると、止まった自分の時計に気づいて、電池を交換し、ふと思い立って、世界の止まった時間を動かしに行く旅に出た。



28


彼が時の止まった歯車にオイルをさすと、また滑らかに動き始め、地上の豊かな言葉を話す蜜花たちが、風になびいて、蜜を垂らす。



29


明日の天気予報は、一日中小隕石が降り続くらしく、かなり重く開きっぱなしの石の傘がよく売れている。



30


うだる暑さで、地中に眠っていたミイラが、寝ていられない、と包帯に汗を染み込ませてはい出てきて、冷房の効いたデパートで新しい包帯を探し回り、騒ぎになっている。

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