第6話

 …………うん?


 ここは、どこだ?


 ふと気がついた俺がいた場所は静かで暗い何もない空間で、まるで黒い液体に沈んでる気分なった。


 状況が変わった時の癖として自分の身体を確かめると俺は死ぬ前の身体に戻っており、しかも傭兵時代の装備を持っているのが暗闇の中にいるはずなのにわかる。


 いろいろ不思議だが、まずは秋臣あきおみを探すために歩き出す。


 さしあたっての目的地は、この暗闇の中で遠くに微かに見える光だな。


◆◆◆◆◆


秋臣あきおみ……」


 光はやはり秋臣あきおみの魂で、今にも消えそうな弱々しい状態で膝を抱えて眠っている。


 俺が話しかける事で消えてしまうのでは? という考えがチラッと浮かぶが、それでも秋臣あきおみをこのままにしておけないから話しかけた。


秋臣あきおみ、システィーゾには勝ったぞ」


 システィーゾの名前を口にしたら、この暗闇の空間がグアンと揺れる。


 やはりここは秋臣あきおみの中ーー精神世界と言えば良いのか?ーーのようだな。


 この暗闇の空間が秋臣あきおみの精神世界で、今の精神状態を表しているとすればどれほど追い詰められて絶望していたんだ?


 お前には誰の助けもなかったのか?


秋臣あきおみ、俺の言葉が聞こえている前提で話すぞ。俺はお前の記憶から、お前が家を追い出された事はわかっている。そして、いろいろ努力して家族に認められようとしたが、叶わず心が折れたのもわかってる」


 俺が話を続けていくと秋臣あきおみの寝顔が辛そうに歪んだので、秋臣あきおみのそばに屈み頭を撫でる。


「お前の経験はお前だけのものだから、俺からこれまでのお前に対して軽々しく何かを言う事はできない。だが、これだけは言える。秋臣あきおみ、今はゆっくり静かに休め。そうすれば、いつかは再び立ち上がれる時が来る。その間のお前の身体は俺が守るから安心しろ」


 秋臣あきおみの目から一筋の涙が流れ、フッと身体から力が抜けた。


 …………お前には、こんな当たり前の事を言ってくれる奴もいなかったんだな。


「ああ、そうだ。静かに休めと言っておいて何だが、俺は死ぬ前から騒動に巻き込まれやすいみたいでな、うるさくしてしまうかもしれん。それについては先に謝っておく。すまん」


 秋臣あきおみからは特に反応はないが、なんとなく俺の言葉を聞いてる感じがする。


 これなら何度も話しかけるなり、そばにいれば話せるようになるかもしれない。


「また来る。今はこう言っておこう。おやすみ。ゆっくり眠れ」

「…………ぅ」


 俺の意識が遠ざかる時に本当に小さな声が聞こえた気がした。


◆◆◆◆◆


 目を覚ました俺は治療室の天井を見つめながら考える。


 あの小さな声は秋臣あきおみだったのか?


 いや、そうに違いない。


 秋臣あきおみ、いつかお前がこの身体を動かし、俺が精神世界からその様子を見る日が来る事を楽しみにしているぞ。


 俺はベットに寝た状態で天井に右手を伸ばし掌に黒い木刀を出現させてつかむ。


 秋臣あきおみの記憶の中にある触れた事のある武器を寸分違わず出現させるこの能力を、俺がごく自然に使えるのだから間違いなく能力を共有している。


 ……俺は秋臣あきおみから記憶と能力が共有しているとするなら、秋臣あきおみは俺の何を共有しているのだろうか?


 秋臣あきおみには俺の戦場での血塗れの記憶をあまり共有してほしくはないが、口で教えるのが難しい戦いの呼吸と言えるような感覚を共有しているなら、必ず秋臣あきおみの宝になるから、ぜひ自分のものにしてほしい。


 また精神世界で秋臣あきおみに会った時に話してみるとしよう。




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

◎後書き

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