第34話 系外惑星探査へ向けて

 ネルソンの搭乗していた機体は、トリプルDを大型化したものだった。その大質量を支える為、エビのような多脚の外観になったという。ユーロで開発中だった機体だが、コストがかかり過ぎる為、計画は中止されていた。WFAはその設計情報を盗み、秘かに建造していたのだという。


 ゲイ・ボルグの特攻でネルソンの計画は失敗した。ラバウルは中破し、クー・フーリンは轟沈してしまった。こちらの損害は軽微とは言えず、作戦が成功したとの実感はない。しかも、オレは真っ先に推進ユニットを撃ち抜かれ、早々に戦線を離脱していたのだ。自分の事をこれほど情けなく思ったことは今までなかった。


 しかし、秋山は生きている。心苦しいが、これはオレ達の勝ちだと言って差し支えないだろう。


 ここは病院船『フローレンス』内の病室になる。ラバウルが中破してしまったため、オレ達、トリプルDの護衛部隊はこちらへ移動していた。


 目の前に玲香がいる。

 最後まで踏ん張っていた彼女を褒めてやりたかったのだが、まだ眠っている。イジェクトが間に合わなかったのか未だ目覚めない。記録では衝突直前にイジェクトを完了していた。


 コンコン。


 ノックの音がした。秋山が病室に入ってきた。そして敬礼をする。オレも敬礼を返した。


「お疲れ様です。斉藤大尉」

「お前もな」

「玲香さんは?」

「まだ目覚めない」

「そうですか。守護天使とおしゃべりしているのかもしれないですね」

「そうかもな」

「きっとそうでしょう」


 そう言って秋山は玲香の手を握る。するとどうだろう。玲香が目を覚ましたのだ。


「あ、イケメン様。やだー恥ずかしい」


 そう言って秋山の手に頬ずりをする。


「ボク、誰かに会ってたんだよ。うーん。誰だったかな?」

「その人は守護天使って言ってなかったかな?」

「そうそう、守護天使って言ってた気がする。二人いたんだよね。男の子と女の子」

「子供だったの?」

「うーん。中学一生って感じだったかな? 思春期ちょっと前? 双子だった気がするよ」

「名前は覚えているかい?」

「うーん。フレイとフレイア。そう、フレイとフレイアって言ってたよ」

「そう。それは北欧神話の、双子の神様の名前だね」

「えへへへへ。何だか嬉しい。双子の神様がボクの守護天使だったなんて」

「良かったな」

「うん。ところでイケメン様。ちょっと聞きたいことがあるんですけど」

「何でしょうか」

「ボクにぶつけなくても良かったんじゃないですか? ボクはね。天然とか鈍感とか空気読めない奴とか、色々言われてますけど。そんなボクでもあれは傷つくよ。いやホント」

「申し訳ない」


 素直に頭を下げる秋山だった。


「玲香。そこまでにしろ。あの戦術は、ネルソンを出し抜く最高の作戦だった。お前も無事帰ってきた。文句を言う筋合いじゃないぞ」

「それはわかってる。ボク達が何をやっても通用しなかった相手にね。イケメン様だけが勝ったんだから。あの鬼手はね、普通は思いつかないよ。思いついたとしても理性が否定する。あ、そういえばフレイアもそうだって言ってた。女の子の方」

「守護天使はちゃんとわかってるんだ」

「うん。そう思うよ」


 守護天使。守護霊とも言うらしい。すべての人に一人ずつ存在していると聞いた。玲香の場合は二人付いているという事だろう。オレは今までそんな存在を信じたことはなかった。しかし、今、秋山と玲香の会話を聞いていると、今までの自分の認識は間違っていたのだと感じる。


 ネルソンの生死は確認されていない。彼もまた、義体を使用していると疑われているのだが、詳細は何もわかっていない。しかし、WFAの活動は沈静化していた為、ネルソンは死んだのだと噂されている。


 その後、系外惑星探査計画〝オケアノス〟は復活した。また、先の戦闘でゲイ・ボルグの有用性が確認された。その為、今後の小惑星破砕作戦はランスではなくゲイ・ボルグが中心となる。

 

 7年前のテロ事件の際に破損していた惑星探査船アキツシマは、既に修復が完了している。この度正式に、プロキシマケンタウリへ向かう探査船として決定された。月軌道上でもう一度、各部の点検と補修を行い、改めて訓練を行う。そして二年後に出発することが決定された。


 その乗組員も公募されたのだが、オレは応募していない。何故かというと、妻の紀里香がアキツシマ副長として選出されたからだ。オレは一時軍を離れ、家事と子守を引き受けることになった。

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