第26話 漆黒のトリプルD

「斉藤大尉、お迎えに上がりました」

「ご苦労」


 お互いに敬礼をする。ここでは玲香もきちんと敬礼していた。


「早速キャンプ地にご案内します。ここから2000メートル程の地点となります」

「そんなに近くて大丈夫なのか?」

「電磁波シールドを展開しています。光学、電波、赤外線からは完全に遮断します」

「よくそんな装備が調達できたな」

「ええ、装備は調達出来ましたが、残念ながら人員は……」

「新兵ばかりなんだよね」

「そうです。遠山上等兵、言葉遣いには気を付けなさい」


 と言いながらオレを睨むニコル中尉である。教育が悪いと言いたいのだろう。米国人だが肌は褐色で黒髪だ。鋭い目つきは歴戦の勇者を思わせる。グラマスな体形をしており、華奢な玲香とは対照的だ。


「気を付けろ」


 オレの一言に、玲香は「はーい」と気のない返事をする。

 外には軍用車両と若い白人兵士が二人待機していた。


 二人はジャクソン曹長とウッドハウス上等兵と名乗った。


 若い兵士の運転でキャンプに到着する。見えないカーテンをくぐりキャンプ内に入った。バリオンよりかなり細身のレプトンが、既に2機配置されていた。胸部のコクピットは開き、整備員が乗り込んで調整作業中だった。2機とも真っ黒に塗装されている。右肩に、鷹をかたどった機動攻撃軍のマーキングが施してある。左肩には機体番号001と002がつけられている。001がオレ、002が玲香だろう。


「ねえ大尉どの。機体コードはどうしますか?」

「ああ、そうだな。黒い機体なんでクロ01マルヒトとクロ02マルフタでいく」

「それ嫌だな~。もう少し恰好のいいのにしましょうよ。例えば、ポジトロンとエレクトロンとか?」

「それだとくっついたら対消滅するぞ。余計な事は考えなくていい。もう決定だ」

「つまんないの」

「関係ない。いい加減に興味本位で任務に口を出すな。この馬鹿者」

「また馬鹿って言った」


 そこへ整備班の隊員がやってきた。お互いに敬礼する。


「自分はトリプルD整備班の高原曹長であります。装備に関しての報告であります。まず01まるひとの方ですが、右肩に76ミリ速射砲、左肩に120ミリ対戦車誘導弾を装着しております。120ミリ滑腔砲かっこうほうを右手に、47ミリサブマシンガンを左手に装備。背中にシールドと実剣、左右の腰にレーザーソードと47ミリ拳銃を予備に。02まるふたの方は実剣を4本、レーザーソードを4本。シールドは重量が増す為、装備しません。全て斉藤少佐の指示でありますが、ご希望があれば今から変更できます。また、DDシステムの調整を済ませたいので今からお願いできますでしょうか」

「うはー! 実剣4本だってさ、萌えるう~。これは思いっきりやれって事だね。実剣はよく切れるけど折れちゃうからね。えへへへへ」


 確かに、玲香の扱うトリプルDの実剣はレーザーソードよりも切れる。正確な理由はわかっていないのだが、霊的な能力を剣に込めることができるのではないかと考えられている。

 オレ達はそれぞれの機体に乗り込み調整を始めた。その時ニコル中尉から通信が入った。


「斉藤大尉。敵に動きがみられます。構成はトリプルDと思われる機体が5機。パワードスーツが15機です。大部隊です。例の工事現場からこちらへ直行しています。およそ10分で接触します」

「分かった。オレが出て牽制する。航空支援を要請しろ。それと、バリオンを中隊規模で要請」

「了解。病院の避難は?」

「時間が無い。外へ出るとかえって危険だ。パワードスーツ部隊は病院を守れ」

「了解しました」

「曹長、起動しろ」

「了解」


 リアクターが起動し機体に火が灯る。AIが立ち上がり挨拶をする。


「私はレプトンA0198搭載の……」

「お前は今からツバキだ。即登録しろ」

「了解しました。私は只今よりツバキです。戦術データリンク展開しました。目標確認」


 正面のパネルにマップと敵の陣容が表示される。刻々とここへ近づいて来ている。


「クロ02まるふた、攻撃はトリプルDを優先しろ。俺を抜いて来た奴を容赦なく叩き切れ」

「私が後詰ですか?」

「エースは最後に控えておくものだ。分かったか」

「わっかりましたぁ~」


 玲香はそう言って実剣を二本抜き、それをブンブンと振り回す。

 こちらの予想を上回る大部隊だ。これに、ガンシップが加われば勝ち目はない。攻撃は夜間を想定していたが、敵はこちらの準備が整う前の奇襲に踏み切った。トリプルDの比率は2対5で圧倒的に不利。内部に敵の協力者がいるのは間違いないだろう。


 オレは道路上でレプトンを走らせる。ここで速度と距離を稼ぎ敵の側面を叩くつもりだ。路面のアスファルトが剥がれていくがそんな事には構っていられない。


「接触まで150秒」


 AIのツバキがカウントを始めた。

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