司書の夢 ~My destination✻私の目的地~

ゆうき

第一章

アイノ

鯨を神様と祀っている、イサナ一族。

アイノはその一族の娘だ。

父は、もともと凄腕の漁師だったが、漁で足を負傷してしまい、いまはほぼ寝たきりの状態だ。

母はどこか幼く、アイノに自らの母の面影を重ねてくる。

二つ下の妹は、自由奔放にみえる。

母も妹には甘く、アイノには辛い言葉をなげかけるも、妹のハナには優しい。

 アイノは、イサナ一族の娘であり、この父テハの娘だ。

落ちぶれてしまった家を建て直すことが、長女であるアイノに求められている。

漁に出れない父と、働き手としては頼りない母。そして妹を守らなければいけない。

 母は言う。

「お前は早く結婚して。どこか裕福なうちに入って。好きな人と一緒になりたいという気持ちがあるんでしょう。

でも結婚はそんな甘くないから。男は女を騙すから。お前も相手を騙して結婚してもらいなさい」

 アイノは、幼いから、何度もこのような言葉を聞かされてきた。

  恋愛の結婚は不幸になる。それは、果たして本当なのだろうか……?

 その答えを、アイノは知る由もない。一番身近なお手本が、見合い結婚をした自分の両親なのだから。



「んー、でもさ、あたしは見合いは嫌だなー」

 きっぱりそう言ったのは、友人のイヨである。美人で話も面白いイヨは、はっきりいって村の男たちの憧れだ。

「でも、家のために決めないといけないでしょ?」

 結婚は、当人どうしの問題だけじゃないんだし、というアイノの言葉を聞いても、同じ長女であるはずのイヨは、まったく意に介せず、といった顔をしている。

「あたしの人生なんだから、ね」

 さも当然、と言った顔のイヨが、アイノは心底羨ましかった。

(もしもうちが落ちぶれてなかったら、あたしは自分の好きなように生きていけるんだろうか)

 自分を頼る両親。両親に巻き込まれてしまいそうな妹。

 そういういうものがなかったら、どうなっていたのだろう。


 夕刻、アイノは一人砂浜に腰を降ろしていた。

 波の音。柔らかい風。

(あたしが幸せでいたら、喜ばない人がいるからな)

 それはまぎれもない母親のことである。

 なにかにつけて、自身の恵まれなかった幼少期の話をして、アイノやハナが恵まれていると言ってくる。そんなこと、子どもの自分たちに言われても、どうしようもない話なのに。

(まず、あの人が幸せになってくれないと、あたしは幸せになれないのかな)

 なにはどうあれ、母である。

 幸せでいて欲しいと思うのは当然のことではないか?

(家族が幸せであることは、確かにあたしの幸せである)


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