助言
「でもさー、どっからどう見ても、あんた普通の人じゃん」
テディは、面倒くさげにアイノを見た。
「私、自分が何を書きたいのか、わからないんです」
「そんなもんは自分で考えるのが普通でしょう?」
しっしと片手を振られたが、アイノは踏ん張った。
「テディさんは、どうやって自分のダンスを作っていったかお聞かせ願いませんんでしょうか」
でないと帰れません! と息巻くアイノ。
「うーん? あんた、あたしの話を参考にするつもり?」
テディはちらりと面白そうな顔をした。
アイノは今誰もいない石舞台の上に立っていた。
(あなたの中から自然に出てくる言葉、それが、あなたが伝えたいことなんじゃないかしら)
テディは、自分のこれまでの経歴を詳しく話してくれた。
子どもの頃から、歌うこと、踊ることが大好きだったこと。
いつしか、口紅やお化粧をすることに興味を持つようになったこと。
男性にしか好意を抱けないことに気づき、苦しんだこと。
(辛いことがたくさんあった。いじめ、差別。でもね、あたしが幸運だったのは、家族や両親が、理解し、応援してくれたことよ)
それからテディは、ダンスや歌のレッスンに通わせてもらえるようになり、自分でも音楽をつくるようになった。
(自分の気持ちや、辛かったことを音楽にしたの。そうしたら、たくさんの人が聞いてくれた)
誰かに聞いて欲しかったとか、そういう他者からの賞賛は最初から求めていない。ただ、自分の思いを、本心を、心からの叫びを歌にし、踊りにしたのだ。
(その行為は、あたしを救ってくれたわ)
思いを芸術の昇華する。それが、あんたにできる?
それは、茨の道かもしれない。
他者からの評価を気にするならば。
でも、自分の思いにまっすぐに向き合うならば、あんたを救ってくれるかもしれない。
テディはそう言っていた。
(もし、みんながここで聞いているとしたら)
目を瞑って想像する。
あたしは何を言いたいだろう。
日々の中で、理不尽や呪いがたくさんある。
でも、自分のために生きよう。
自分の願いのために生きよう。
それがあなたの人生なのだから。
(あたしが言いたいのは、そういうこと)
自分が相当に反発心の強い人間だということが、だんだんわかってきた。
長女の役割、家を背負う役割、村の将来。
それをそこに生まれたという理由から担わないといけないんだろうか。
また、担わないと、悪いことが起きるんだろうか。
「おきないと、あたしは思う」
なにか聞きたいことがあったら、自分の心にきく。これもテディが教えてくれたことだった。
「伝えたいことがあったから、あたしは書きたかったんだわ」
大丈夫だよ。
アイノの本心が、そう答えた。
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