第19話 輝く一振りの剣

 カチカチ鉱石の冒険から約1ヶ月。

 今日もアキューちゃんはおじさんに認めてもらうために、一生懸命武器作りに励んでいる。武器を作るのは奥の工房での仕事だから、最近あまり店先に出てこなくなっていて少し心配だ。


「ココ、アキューが心配なのはわかるが、ぼーっと歩いてると転んでしまうぞ」

「あはは、何もないところで転ぶなんて、そんな器用なことできないよ。リアナちゃんは心配性だなぁ」


 ゴン!


「ぐあっ!?」


 突然目の前に柱が現れてぶつかってしまった。


「器用だねー」

「顔面からいったな」


 うぉぉ痛い! どうして目の前にお店の柱があるんだろう!

 リアナちゃんとシャルちゃんは、見事に柱に激突した私を見て呆れて笑っていた。 


「ココは人の心配よりまず自分のことに集中しろ」

「だっで全然会えないんだよ、じんばいだよぉ」

「それだけがんばってるってことさー、心配より応援してあげよう」


 こうしてる今も、アキューちゃんはがんばって成長しようとしている。2人の言う通り私も負けないように私のことをがんばって、努力しているアキューちゃんをしっかり応援しなきゃ。


「うん、わかった」

「わかればよろしいー。じゃあココがまた柱に顔をぶつけないように、会えるかわかんないけどアキューの様子を見に行こうかー」

「もー、もうぶつけないよ!」


 私たちは冒険者ギルドから今日も平和なレルエネッグをのんびり歩いて、アキューちゃんの家である武器屋さんに向かった。

 入口の扉を開けて中に入ると、店内には誰の姿もなく武器たちが静かに並んでいるだけだった。


「今日はお休みなのかな?」

「いや、それなら入口にカギがかかってるはずだ」

「アキュー、おじさーんいるー?」


 シャルちゃんの呼びかけが聞こえたらしく、店の奥から店主のおじさんが急いで駆けつけてくれた。


「おぅ、嬢ちゃんたちかすまねぇな。少しばかりアキューを見ていてな、だがちょうど良かった。嬢ちゃんたち工房に来てくれねぇか」

「ちょうど良かった? 店主殿アキューに何かあったのか?」

「悪いほうじゃねぇから心配しなさんな。これから一本作るところでな、嬢ちゃんたちがいてくれるとアキューも気合が入るだろう」


 アキューちゃんが武器を作るところ!

 私には手伝うことができないけど応援ならできる!


 私たちはおじさんに連れられて武器を作るための工房へ行く。室内は小さな明かりだけなのに、真っ赤な炉のおかげで明るく熱い。何に使うのか私にはわからない道具がたくさんある。そんな工房の中にアキューちゃんは立っていた。


「……あ、みんな」

「アキューちゃん、応援にきたよ!」


 久しぶりに出会えたアキューちゃんに抱きつく。おじさんが頭を撫でる時は嫌そうにその手を払っていたけど、私が抱きついても嫌そうにしなかった。小さな体をぎゅーって抱きしめて、アキューちゃんが元気なのを実感する。


「……ココ、苦しい」

「ははは、許してやってくれ。ココはアキューと会えなかったのが寂しくて仕方なかったんだ」

「心配しすぎてお店の柱に顔面ぶつけるほどだからねー」

「シャルちゃんそれはかっこ悪いから教えなくていいよ!」


 みんなが楽しそうに笑う。

 アキューちゃんは相変わらず無表情だけど、私の背中に腕を回して背中をポンポンと叩いてくれた。


「んじゃアキュー、お前に教えたすべてを出し切って一振り完成させてみろ。但しこれまでと同じような、へっぽこなもん作りやがった時は、わかってるな?」

「……わかってる」


 鍛冶場へ行くアキューちゃんと離れてみんながいるところに戻る。

 大丈夫かな、ちゃんと作れるかな?


「アキュー最高の一振りを期待してるぞ」

「終わったらみんなで打ち上げのごはん食べにいくよー」

「アキューちゃん、がんばって!」


 各々応援の言葉を送るとアキューちゃんは、こっちを向いてぐっと親指を立てた手を突き出してこう言った。


「……みんながいてくれるから大丈夫」


 その後大きく深呼吸をして彼女は武器を造り始めた。

 炎が燃えている炉に、鉱石をいれている。あれは前回の冒険で私たちが採ってきたカチカチ鉱石だ。

 熱せられたカチカチ鉱石は赤い塊になって出てきた。


 今度は取り出したそれをハンマーで叩いて薄くして水の中へ。じゅーっという熱そうな音が、離れてる私たちにまで聞こえてきた。

 それからアキューちゃんは薄くなったカチカチ鉱石だったものを、ハンマーで叩き割って割れ目をじっとみていた。


「あれは何をしてるんですか?」

「良い武器を作るために、不純物が入っていないかチェックしてるんだ」


 おじさんの説明を聞きながらアキューちゃんの戦いを見つめる。

 不純物を取り除いた良いカチカチ鉱石の部分を、また炉に入れて熱する。それからまた赤くなったものを取り出して、ハンマーで何度も叩く。叩いたらまた炉の中へ、何度も何度も同じように繰り返していくうちに、カチカチ鉱石だったものは次第に長さを変えて長いくて平たい棒になった。


 がんばれアキューちゃん、がんばれー!

 邪魔をしないように声は出さず、それでもめいっぱい応援する。

 アキューちゃんが叩く度に、石だったものが武器へと生まれ変わっていく。


 私にはどうなるのが正解なのかわからないけど、きっと今までで一番の武器になっていってるはずだ!


「……ふむ」


 おじさんがその様子を厳しい表情で見ている。

 何か失敗をしたのかな心配だ……でも彼女の目はまだまだ燃えているから絶対に大丈夫。アキューちゃんを信じてこのまま見守ろう。


 ハンマーで叩いていた真っ赤な武器を、水に浸けてゆっくりと引き抜き、熱が冷めた武器を砥石で磨く。そうしてでこぼこだったカチカチ鉱石は、光を反射する綺麗な剣になった。


 アキューちゃんは剣をじっと見つめて小さく頷いた。

 それから持つところと刃と柄の境目の部分を丁寧に取り付けて、長い時間をかけて造られたアキューちゃんの剣が完成した。


「どれ、見せてみろ」

「……ん」


 おじさんがアキューちゃんから剣を受け取りその出来を確かめる。

 どうなんだろう、今までで一番の剣になったのかな?

 私たちが見守る中、剣を見ていたおじさんは静かに口を開いた。


「やっぱりひよっこには、完璧なもんは作れねぇか」


 え、不合格ってことなのかな?

 そんなアキューちゃん一生懸命がんばったのに!

 おじさんの言葉が悔しくて私たちは俯いて歯を食いしばる。


「でもまぁ、お前にしては上出来だ、後は自分を磨いて誰にも負けねぇ一人前の鍛冶師になってこい」

「……うん」


 え、あれ、合格……?

 顔を上げるとアキューちゃんが、いつものように無表情で親指を立てていた。

 合格ということは、アキューちゃんはおじさんに認められたってことだよね?

 おじさんと目が合うと優しい笑みを浮かべて頷いてくれた。


「や…………ったぁぁぁぁぁ!」

「人が悪いぞ店主殿、ダメなのかと思ったじゃないか!」

「おじさん合格ならもっと褒めてあげてよー」


 私たちはおじさんに一言文句を言ってから、一仕事終えたあとのアキューちゃんに抱きついた。小さい彼女は苦しそうにもぞもぞ動く中、私たちはアキューちゃんの合格を喜んだ。


もみくちゃにされながら彼女は穏やかな笑みを浮かべて呟いた。


「……みんなおまたせ」

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