第6話 彼女なりのお詫びの印

 私に気づいた突進ウサギは、頭を低くして様子を見ている。

 突進ウサギはこの姿勢になると危険なのだ。

 後ろ脚だけで地面を蹴って、突っ込んでくる突進がとにかく速い。

 それに結構痛いから注意が必要。


 どのタイミングで飛び出してくるか、わからないから気を引き締めないと。

 以前は攻撃を仕掛けようとした瞬間を狙われた。

 だから今回は先に攻撃をさせてから、反撃を……と思ったら突進ウサギの突進がおなかに直撃した。


「ぐぶふぉ!?」


 うぐぐ、考えてる時に攻撃とは卑怯な。

 そして相変わらずの速さと威力。

 突進ウサギはくるっと身を翻して元の位置に戻っていった。


 くそう、あの突進攻撃は防げそうにないなぁ。

 となると、やっぱりやられる前にやるしかない!

 いけぇ、突撃だー!


 だだだっと駆け出し突進ウサギに真正面から勝負を挑む。

 急に走り出した私に驚いたのか、突進ウサギはびくっと震えて固まっていた。

 チャンスだ。この機を逃してなるものか!

 私の突きが突進ウサギを捉えた。


 ぷすっと短剣が刺さった突進ウサギは、飛び上がって逃げだした。

 ぴょこぴょこ飛び跳ねて逃げる突進ウサギを、全力で追いかける。

 ここで逃げられるわけには!

 地面を蹴って飛びつき、がしっとまるまる太った突進ウサギの体を捕まえた。

 でもこれで終わりじゃない。

 街の平和のために倒さないといけないのだ!


 くるっと突進ウサギの体を回してこっちを向かせる。

 これで終わりにしよう突進ウサギ。

 この勝負私の勝ちだぁぁぁぁ!


「ふんぬぅお!」


 突進ウサギの頭に私の頭突きが炸裂する。

 ごつんという鈍い音と共に、突進ウサギはこてっと倒れた。


「や、やったぁ! 突進ウサギに勝てたぞ!」


 嬉しさに踊り出したい気分だけど今は非常時。踊るのは後にしなきゃ。

 そうだ、シャルちゃんは大丈夫だろうか?

 自分の戦いで頭がいっぱいだったから、彼女の様子を見てなかった。

 突貫ウサギと遭遇した場所に視線を移す。

 そこには満足そうな表情のシャルちゃんと、倒れた突貫ウサギの姿があった。


「シャルちゃん!」

「ココも倒したみたいだね。このウサギたちは後で回収して食べよう」

「待って、まだあと一羽残ってる!」


 最後の一羽の突進ウサギが、物陰から飛び出してシャルちゃんを狙う。

 彼女は大きいフォークとナイフを、構えなおして突進ウサギとすれ違った。

 一瞬の出来事だった。すれ違いざまにシャルちゃんが、フォークとナイフを振るうと突進ウサギは力なくぱたっと倒れてたのだ。


 すごい、これがふたつ星ランクの剣士の力!

 突進ウサギの速い突進を、避けながら攻撃したのがすごい。

 私だったら一撃食らってから反撃に移るところだ。

 シャルちゃんって強いんだなぁ。


「ほいっと、これでおしまい。じゃあ改めてこの子たちは後で回収するとして、他にもモンスターがいないか探したほうが良いね」

「じゃあまた風の精霊にお願いしてみるよ!」


 もう一度風の精霊たちに声をかけて、この辺りに徘徊しているモンスターがいないか探してもらった。

 風の精霊たちは路地を飛び回り、やがて私のところへ戻ってきた。

 みんな横に首を振っている。この辺りにはもうモンスターはいないようだ。


「いないみたいだね。んじゃリアナの様子を見に行こうか」

「うん、リアナちゃん大丈夫かなぁ」


 私たちはリアナちゃんたちが、首無し騎士と戦っている場所へと向かった。

 その場所へ到着したのは、ちょうど戦闘が終わった頃だった。

 戦闘を終えた男の人が私たちに気づいて声をかけてきた。


「おぉ、君たちも無事だったか。他にモンスターはいたか?」

「向こうにいた突貫ウサギは倒したよ」

「この辺りには他にもうモンスターはいないです」

「そうか。じゃあ君たちはお友達の介抱をしてやってくれ」


 そう言って指さした先に、放心状態のリアナちゃんが座り込んでいた。

 あれはもう魂が抜けてそうだなぁ。

 急いで彼女の側へ駆け寄った。


「リアナちゃん!」

「……頭がない首から飛び出した血が、血が……ぶしゅーって、ふふ、ふふふ」

「なんか壊れてるなー、まぁいいや連れて行こう」


 二人でリアナちゃんに肩を貸して、引きずるようにして歩いていく。

 幸いケガはしてないようなので安心した。

 冒険者ギルドへ向かって歩いていくと、ツーヘッドスネークがいた場所を通りかかった。

 こちらも討伐は終わっていたけど、男の人がケガをしてるみたいだった。

 シャルちゃんの言っていた通り、厄介なモンスターだったんだなぁ。

 ツーヘッドスネークと戦った二人にも、もうモンスターはいないと伝えた。

 後はリアナちゃんの意識が回復すれば一件落着だ。


 冒険者ギルドに戻るとシャルちゃんは、長いロープを借りてまたすぐに外へ出て行った。どうやら突貫ウサギを冒険者ギルドに運ぶためらしい。

 シャルちゃんが出て行った後、座らせていたリアナちゃんの意識が、ようやくこっちの世界へ帰ってきた。


「ん……ここは?」

「冒険者ギルドだよ。みんなの活躍のおかげでモンスターは退治されたよ」

「そうか……それは良かった。あれ、シャルは?」

「モンスターのお肉を取りにさっきの場所に行っちゃった」


 私の答えにリアナちゃんは不思議そうな顔をしている。

 何度か頭を振ってから彼女はもう一度質問してくる。


「肉を取りにって何のために……?」

「食べると美味しいって言ってたよ」


 リアナちゃんの顔色がまた悪くなってきた。

 今度は一体どうしたんだろう?


「まさかツーヘッドスネークと……首無し騎士の肉を食べるのか?」

「や、それはさすがに食べないと思うけど」

「そうか、良かった……そうだな冷静に考えればアンデッドや、蛇なんて食べないよな。それじゃあ一体何の肉を取りに行ったんだ?」


 私とシャルちゃんが戦った突貫ウサギのことを話すと、リアナちゃんは苦い表情をしていたが納得していた。

 リアナちゃんも食べたことがあるらしく、美味しいのは本当のようだった。


 その後私たちが冒険者ギルドで待機していると、他の場所に討伐に行った先輩冒険者のみんなが戻ってきた。

 他の場所にいたモンスターたちの鎮圧も、無事に終了したと報告していた。


 シャルちゃんが戻ってきたのは、更にしばらくしてからだった。

 彼女はロープで縛った突貫ウサギと、ツーヘッドスネークを引きずっていた。

 その姿を見たリアナちゃんは、顔を真っ青にしていた。


「ただいま、リアナ起きたんだね。ほら、今日の晩ごはん持ってきたよ」

「待て、突貫ウサギはまだわかる。でもとうしてツーヘッドスネークもいるんだ」

「え、どうしてって美味しそうだったから」


 美味しそう……かな?

 あんまり美味しそうには見えないけど、シャルちゃんの目にはどう映ってるんだろう。


「食べないぞ、私は絶対食べないからな」

「精がついて元気になるよ、多分。だから一緒に食べよう」

「嫌だ、食べない!」


 あ、そうか。

 シャルちゃんは苦手なモンスターと戦って、疲れているリアナちゃんを心配して、元気が出そうなお肉のツーヘッドスネークも持ってきたんだ。

 そういえば怖がるのをわかっていて、首無し騎士を押し付けた感じになってたもんね。シャルちゃんはそのお詫びがしたいのかもしれない。


 方法はむちゃくちゃだけど、シャルちゃんが優しい子だというのはわかった。

 それなら今はシャルちゃんの味方になろう!


「リアナちゃん一緒にツーヘッドスネークを食べよう!」

「んなっ!? お前はこっち側じゃなかったのかココ!」

「うん、正直食べたくはないけど、これは二人のためなの!」

「意味がわからないぞ!」


 シャルちゃんと目が合うと驚いた顔をしていた。

 きっと私が真意に気づいたことに、驚いたのだろうと勝手に推測しておく。

 すぐにシャルちゃんは笑顔になってリアナちゃんに迫る

 私も同じようにリアナちゃんの説得を続ける。


 こうして緊急クエストを終えた私たちはバカ騒ぎを続けた。

 まだ彼女の答えは聞いていないけど、もうシャルちゃんは私たちのパーティメンバーじゃないかなぁと思った。

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