第4話 新たな出発は肉へと続く

 リアナちゃんと出会って一夜が過ぎた。

 あの後、翌日つまり今日のお昼に、会う約束をした私たちは冒険者ギルドで落ち合った

 今日私たちがこうしてまた一緒にいるのは、パーティについて話し合うためだ。

 勢いで彼女は私のパーティメンバーだと言ってしまったからね。

 だからちゃんとリアナちゃんの答えを聞かないと。


「改めてお礼を言わせてくれ。昨日は本当にありがとう」

「えへへ、元気になったみたいで良かったです」


 昨夜に比べて顔色も良いし声にも張りがある。

 これならもう心配はいらないだろう。


「特に私をパーティメンバーだと言ってくれた時は、その、すごく嬉しかった」


 頬を赤くして少し俯くリアナちゃんの仕草が可愛い。

 おっと見惚れてる場合じゃなかった。

 パーティ、そうパーティについて話さねば。


「あの、リアナちゃんさえ良ければ、本当に私たちで新しいパーティを組んで一緒に冒険したいな、なんて思うんですが」

「私たちの新しいパーティ……」


 何かを考えるようにリアナちゃんが視線を落とす。

 やっぱり実際にパーティを組むのは難しいのだろうか。

 私は彼女とパーティが組めると嬉しいんだけどなぁ。

 なんて言っても可愛いし!


「ココさんは、私と一緒のパーティで、嫌じゃないのか?」

「全然嫌じゃないけど、どうしてですか?」

「だって私は昨夜を思い出してもらうとわかる通り、一部モンスターが苦手だ。騎士として非常に恥ずかしいが、怖いものは怖い。だから一緒のパーティになったとしても、役に立てるかわからない」


 リアナちゃんは自信なさげに俯く。

 昨夜のゾンビと戦った時の彼女を思い出す。

 確かに怖がってたけどゾンビの群れを倒したのは、他でもないリアナちゃん自身だ。役に立たないなんてことはないと思う。


「私もゾンビ怖かったしお互い様です」

「次はココさんを危険な目に、遭わせてしまうかもしれないんだぞ?」

「その時はその時です。力を合わせてなんとかしましょう!」


 ずずいと前に出てリアナちゃんの手を両手で包み込む。

 すると彼女は目に涙を浮かべて頷いた。


「……ありがとう」

「もしも怖いモンスターと遭遇したら、一緒に逃げましょう!」

「逃げ……騎士としてそういうわけにはいかないが……」

「大丈夫です、逃げましょう! 戦略的撤退!」


 私の力強い説得が届いたのか、リアナちゃんはおかしそうに笑いだした。


「はは、ははは、そうだな。うん、わかった、その時は逃げよう。後から怖さを克服してまた戦えばいいんだから」

「うん!」


 今ここに新たなパーティが誕生した!

 その名も……って、名前はまだなかった。

 でもリアナちゃんとパーティが組めたのがすごく嬉しい!

 今日はお祝いをしないと。

 よまわりの花採取クエストの報酬ももらってるからね!


「じゃあ、改めてよろしくお願いします!」

「敬語は使わなくていい。私たちはもう仲間であり友達なんだから」

「わかった! 私のこともココでいいよ!」


 お互いに頷きあって、仲間としての友達としての挨拶を交わす。


「うん、これからよろしく頼む。ココ」

「こちらこそよろしくね、リアナちゃん!」


 どこからともなくパチパチと手を叩く音が聞こえてくる。

 私たちは疑問に思い冒険者ギルドを見回してみる。

 なんと受付けのお姉さんや先輩冒険者の方々が、拍手をして私たちを見ていた。

 どうやら一部始終を見られていたようだ。

 リアナちゃんの顔がどんどん真っ赤になっていく。


 更に先輩冒険者のみんなと、受付けのお姉さんが声を掛けてきた。


「君たちはきっと良いパーティになるだろう。がんばるんだぞ!」

「良い場面を見させてもらった。俺たちも初心を思い出さなくてはな」

「冒険者ギルドはいつでも、あなたたちの力になりますからね!」


 リアナちゃんが耳まで赤くなった顔で私を見る。

 彼女が何かを訴えてきている!

 わかってるよ、リアナちゃん!

 私は彼女の心の声を聞いて頷き、両腕を高く突き上げた。


「みんな、ありがとう! ありがとーうっ!」


 私の声に合わせて拍手がより一層大きくなった。

 どう、これで良いリアナちゃん!?

 彼女のほうへ向き直ると、涙目で首をぶんぶん横に振っている。

 おぉ、感無量という様子。

 その後しばらく喝采は続きやがて落ち着いた頃、リアナちゃんはなぜかぐったりして座り込んでいた。


「楽しかったね、リアナちゃん!」

「し、死ぬほど恥ずかしかった……」

「あれ、恥ずかしかったんだ。私はてっきりもっと盛り上げてって、訴えかけてきてるとばかり」

「違う! すごく恥ずかしかった! 恥ずかしかった……けど、こうやってみんなに応援してもらえるのは、悪い気はしないな」


 リアナちゃんは涙を拭うと、くすくす笑って立ち上がった。

 段々笑顔が増えてきているのが嬉しい。

 この調子でどんどん楽しいことをしていきたいな。


「今の騒ぎでどっと疲れたから、酒場に行って一休みしないか」

「そうだね、私も喉乾いちゃった!」


 私たちは二人並んで冒険者ギルド地下の酒場へと向かう。

 途中ですれ違う冒険者たちが、がんばれよと応援してくれた。

 そう言われる度に顔を真っ赤にして、お辞儀するリアナちゃんが可愛かった。


 地下の酒場は昼食時だからか冒険者が多かった。

 空いてるテーブルはなく座れる場所がない。


「満席だな。まぁ飲み物だけなら立ってても飲めるか」

「それか相席をお願いするかだね。そことか」


 近くのテーブルが目につき指さす。

 テーブルいっぱいに乗せられた料理のお皿。

 その上に乗っている料理を、むっしゃむっしゃと食べる一人の女の子。

 すごく美味しそうに、そして幸せそうに食べている。

 なんだろう。昨日もこの光景を見た気がする。

 デジャブってやつだろうか。


「な、何かすごいのがいるな」


 小声でリアナちゃんが耳打ちしてくる。

 うんうんと頷いてまたその子に目を向ける。

 ピンクがかった明るい髪のショートボブの女の子だ。

 美味しそうに食べている姿を見ていると女の子と目が合った。

 彼女は私たちをじーっと見つめたまま骨付き肉に齧りついた。


 あ、デジャブじゃない!

 昨日も同じテーブルで、この子は骨付き肉を食べていた!

 記憶に残っている少女の様子思い出す。

 もしかして昨日からずっと食べてるのかな?

 そんなわけないか、ともかく相席しても良いか聞いてみよう。


「あの、ここご一緒してもいいですか?」

「むしゃむしゃ……うん、いいよー」

「良かった、ありがとう!」

「すまない、助かる」


 女の子と向き合うかたちで、私とリアナちゃんが座る。

 私たちはウェイトレスさんを呼んで、オレンジジュースを注文した。

 ジュースを待っている間、むしゃむしゃ料理を食べている女の子から視線が外せなかった。それはリアナちゃんも同じようで、じっと彼女の食べっぷりを眺めていた。


 そういえばこの子の真似をして、昨日のパンを大きめにしたんだっけ。

 豪快には食べられなかったけども、あのパンのおかげでリアナちゃんを探しに行くきっかけができたんだから、この子には感謝するべきかもしれない。


 少し待って運ばれてきたオレンジジュースを手に、私とリアナちゃんはパーティ結成を祝い乾杯した。


「私たちの新しいパーティの結成と出発を祝して! かんぱーい!」


 ごくごくと飲み込んだオレンジジュースがすごく美味しい。

 リアナちゃんも完全に笑顔を取り戻していて楽しそうだ。

 その様子を見ていたお肉の女の子が声をかけてきた。


「二人はパーティを組んだばかりなんだ?」

「うん、そうですよ。さっき上で結成したばかりです!」

「あー、他の冒険者たちが話してた結成したての、熱いパーティってもしかして二人のこと? 楽しそうで羨ましいな」


 さっきの出来事だけど、ちょっとした噂になってるみたいだ。

 リアナちゃんは恥ずかしそうにまた顔を赤くしていた。

 女の子は優しい眼差しを、私たちに向けて骨付き肉を頬張った。


「ここで知り合ったのも何かの縁だし、名前を聞いても良いですか?」

「ひいよ。あたひはひゃる・あんぶれひあ」

「リアナ・グランセルだ。とりあえず肉を飲み込んでから話してくれ」


 リアナちゃんの言葉にひゃる・あんぶれひあさんは、お肉をよく噛んで飲み込んだ。そしてもう一度自己紹介をしてくれた。


「あたしはシャル・アンブレシア。ふたつ星ランクの剣士だよ」

「ふたつ星! 先輩冒険者だ……! あ、私はココ・ミラノート。冒険者にはなったばかりです。よろしくお願いします!」

「あー、敬語はやめて。背中がむずがゆくなるから」

「あ、うん、じゃあ敬語はなしで。よろしくシャルちゃん!」


 リアナちゃんもシャルちゃんも敬語が苦手っぽい。

 冒険者って堅苦しいの苦手なイメージあるからね。

 彼女たちもきっとそうなんだろう。


「では、お近づきの印に一緒に肉料理を食べよう」


 シャルちゃんはウェイトレスさんを呼んで、肉料理大盛りを注文した。

 テーブルの上のお皿の数を数えてリアナちゃんは呆れるていた。


「何かすごいのと知り合ってしまったな」

「うん、そうだね。でも悪い子じゃなさそう」

「その通り、悪い子じゃないから、安心して一緒に肉料理を食べよう」


 冒険者ギルドの酒場での出会い。

 シャルちゃんとの出会いはきっと偶然じゃない。

 きっと私たちのパーティが彼女を引き寄せたんだ。

 なぜかそんな気がしていた。

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