姉と弟の、近くて遠い関係性を鮮やかに描きだす一作

 1話目を読んだとき、淡々とした語りの底に熱を孕んで沈んでいる感情があるなあ、と魅力を感じました。読み進めるうちに止まらなくなり、一気に読み終えました。ぜひ多くの方の目に読んでいただきたい作品です。

 姉と弟の恋愛。家族間・きょうだい間の恋愛は数多の小説で描かれてきましたが、本作は「禁断の愛」や「いけない関係」という通り一遍の表現を用いるのが憚られる深さを有しています。

 家族としての二人や日常生活の描写を挟みつつも、話数を経るごとに心の底で沈んでいた感情がゆっくりと浮かびあがり、変化を遂げる関係性が克明に綴られていきます。懊悩し、進み、止まり、互いへの感情をときに疑問視しては確かめていく姉と弟の姿は、もどかしくもあり切なくもあります。
 地の文で綴られる思いは会話で発露され、言葉を交わすことで別な形となってそれぞれの心に着地し、また悩んでいくふたり。じっくりと丁寧に描かれる心情描写は些細な感情の機微が鮮やかに描かれています。

 二人が互いに抱く感情を「愛」という一単語で表現するにはあまりに惜しく思います。二人の間に横たわる、絹糸のように細くもあり、それでいてしなやかに強く、相手を閉じ込めることもあれば背を押し、近づけては遠ざけてを繰り返す感情を、なんと表現するのがよいのかと読後じっと考え込みました。答えはまだ出ていません。しばらく出そうにないかもしれません。

 流れるように読みやすい文章、姉と弟それぞれの視点で描かれ、随所に散りばめられる家族という関係性に、最後まで心を乱されます。
 個人的に、三浦綾子さんの「氷点」が好きな方にはぜひ読んでいただきたい一作だと感じました。素敵な作品をありがとうございました。