第27話 見守ってやろう
ヒマリを町へ向かわせたウサギはパラサイトとの交戦を続けていた。
連続で襲いかかるパラサイトの攻撃を、ウサギは軽やかにまるで踊るように避けていく。
標的を捉えられないパラサイトは少しばかり苛立ちを見せていて、その攻撃は苛烈さを増していく。
しかし、やけくそで直線的な動きをウサギは完璧に見切っており、触れることさえ敵わない。
「〝エリアシフト〟」
一体のパラサイトの懐にウサギは瞬間移動する。
『グゥヴォァ!?』
「まずは一体」
ウサギは低くかがんだ状態から、パラサイトの胸部を手刀で突き刺した。
『グギィ!』
サラサラと砂のように溶け落ちていくパラサイトを尻目にウサギは一息ついた。
(多少、体は鈍っていますが問題はありませんね)
ウサギは手に残る感覚を振り払うような仕草を見せる。
彼女の使用する魔法は『空間心象魔法』。
自身を任意の場所に移動させたり、相手を空間に固定する事を得意としている。
彼女の実力は二つ名は所持していないながらも、彼等と同等の戦闘能力を有しており、特に一対一の戦いにおいては右に出る者はそうそういない。
(どうやら、町の方でも出現しているようですし――さっさと終わらせましょうか)
対峙するパラサイトは残り四体。
一体ずつ仕留めていくのが面倒になったウサギは右手に
「行きますよ――〝エリアイーター〟」
そんな最中、ウサギの後方から人影が飛び出し、パラサイトの一体を殴りつけた。
「どらっしゃぁぁぁぁぁ!」
鈍い音を響かせながら殴られたパラサイトは数メートルほど吹き飛んでいく。
突然現れたその人影はウサギの方へ振り返ると声を掛けた。
「よう、ウサギ」
「――紗希さん、あなたでしたか」
人影の正体は紗希であった。
彼女もまた、こちらの空間へ飛ばされたが、状況を瞬時に判断し、紡が向かうであろうヒマリの元へは向かわず、こちらへ駆けつけた。
「なんだよ~、もっと喜べよ~。アタシが来たからにはもう安心だぜ」
紗希はウサギへ近寄るよと笑いながら彼女の肩をバンバンと叩く。
そんな紗希にウサギは辟易としているようだった。
「別に私は助けて貰わなくても大丈夫だったのですが……町の方は大丈夫なんですか?」
「ああ。うちのバカ弟子がヒマリの方へ向かったから、ひとまずは大丈夫だろ」
「あなたが来た時点で、どうせ紡さんも参戦したんだろうとは思っていましたが……取りあえず、こちらを倒してしまいましょうか。紗希さんは左の二対をお願いしますよ」
「全員相手にしても構わねぇがな」
ウサギ達はパラサイトの方へと構え直し、砕けた空気を締め直す。
二人は同時にそれぞれの標的へと飛びかかり戦闘を開始する。
「久々だなぁ! オラァ!」
『グゥヴォヴォォ!』
二対同時に相手しながらも、紗希は敵の攻撃を華麗に捌き、打撃を加えていく。
彼女も夜式一刀流は一通り習得しているが、それを使わずともこのくらいの相手に使う必要はないと一気にトドメを刺す。
「フン!」
紗希は素手でパラサイトを圧倒し、一瞬で片付けた。
振り返れば、ウサギも戦闘を終わらしたようだった。
「ほ~。ウサギも結構やるじゃん」
「これくらい当然です。私はクレア様の右腕ですから――では、私達も町へと向かいましょうか。かなりの数の気配を感じますし、覚醒個体が何を企んでいるか分かりませんから」
「そっちの方は心配しなくていいぜ」
「……どういう意味ですか?」
「紡が何とかしてくれるよ」
「しかし、魔法の使えない彼では――」
「それも問題なし! 今のアイツならきっとこの町を守ってくれるさ」
そう自信に満ちあふれた顔で言い放つ紗希の言葉には妙な説得力があった。
「――そうですか。あなたがそこまで言うのなら、それなりに勝算はあるのでしょう。一機関員として、一般人に任せるのは不本意ですが、今は彼の事を信じるしましょうか」
「ああ。これを乗り超えれば、紡はもっと成長できる。だから、見守ってやろう」
「ハァ……。それでは、紡さんが自分の戦いに集中できるように私達は露払いに専念するとしましょうか」
そうして二人はその場をあとにして、残りの敵の討伐に向かった。
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