第18話 1日目 夕食の準備開始

 


「役割分担を固定しようと思う」


 コテージに戻った俺は、皆が集うダイニングで宣言した。



「ついては、みんなの特性や出来ることを教えて欲しい」


「オレぁ、アレだ。力仕事だな。あと焚き火は任せろ」


「わたしは、万能。ただし体力は無い」


「ボクは……あんまり取り柄が無い、です」


「わたしはぁ、可愛いのが特技ですっ」


 完全になめてるな。


「……わかった。では役割分担を決める。異論があったら言ってくれ」


 野外炊飯の場合は、

 力仕事は、俺と岩谷いわや

 調理担当は、俺、大門だいもん先輩、そして雪峰ゆきみね


「一年生は大門だいもん先輩に付いて、手が足りない場所にヘルプ。これでいいか? 異論反論あれば──」

「あたし、せんぱいと一緒がいいです〜」


 全員の視線が、羽生はにゅうに集まる。

 雪峰ゆきみねは烈火のごとく。

 大門だいもん先輩は氷のように冷たく。

 新井は、様子を窺うように怯えて。

 しかし意外なことに、脳筋の直情型だと思っていた岩谷いわやは、冷静な目で羽生はにゅうを見ていた。


「理由を聞こうか」


 皆の顔を一巡した俺は、あらためて一年生、羽生はにゅうエマに問う。


「もっちろん、せんぱいがイケメンだからじゃないですかー」


 は……?

 なんだその理由。

 大前提として、俺はまったくイケメンなどではない。

 つか顔面偏差値なら一年の新井くんの方が、中性的だけどずっと上だ。

 岩谷いわやだって、強面こわもてだが顔は整っている方だ。


「お前は……美的感覚がどうかしてるのか?」


 大真面目に訊ねると、何故か岩谷いわやが突然大笑いし始めた。


「ぶぁっはっは。やっぱガクは面白いな!」

「そうね、真顔で言うところなんて秀逸だわ」


 なんだ?

 なにが面白かったんだ?


「ガクよ、オメーは充分イケメンだぞ」

「ん。なかなか良い男。でも羽生はにゅうさんの異議は却下」

「なんでですかぁ!?」


 羽生はにゅうエマの叫びは霧となって消えた。


 そしてもうすぐ第二ラウンド、野外炊飯が始まる。

 が、俺が重要視していたのは、食材の配給だけだ。

 これ以降の競争に参加するつもりは無い。

 あとは粛々と課題をクリアしていくのみだ。




雪峰ゆきみね、わかってるな?」

「……不本意だけど、わかってる」


 レンガ造りのかまどの前。

 雪峰ゆきみねは、すーはーと深呼吸をして、決意を固める。

 そして、


「ターボライター、点火!」


 俺が持ってきた着火剤をターボライターで炙る。


「うう……ごめんね、ファイターちゃん」


 ファイターというのは、雪峰ゆきみねが愛用しているファイヤースターターの愛称だそうだ。

 理由を聞いたら「響き」と答えられた時の俺のマヌケ面は、雪峰ゆきみねに爆笑された黒歴史だ。


「さて、オレの出番だな」


 何故かシャツを脱いだ岩谷いわやが、筋肉ムキムキのタンクトップの胸をピクピクと揺らす。


「お、っぱいですか! っぱいなんですか!?」


 何故か持ち場を離れてここにいる一年女子、羽生はにゅうが目をピカリと光らせる。

 こいつまさか、の者か。


「せんぱいみたいな細マッチョも良きですけど、やはり筋肉ムキムキ雄っぱいは王道ですなぁグフグフじゅるり」


 身長二メートル近いタンクトップ筋肉美に、羽生はにゅうエマは鼻息を荒くさせ、なんならちょっとヨダレが垂れてる。

 その光景を射抜くような鋭い眼差しで見つめるのは、筋肉巨神兵の年上幼馴染であらせられる万能ロリ先輩、大門だいもんすずだ。

 大門だいもん先輩は、ザッザッと湿った土を蹴るように羽生はにゅうに歩み寄る。

 さすがに異変に気づいた羽生も、筋肉鑑賞を中断して身構える。


「な、なんですかチミっこ先輩……」

「貴様……」

「な、なんですかーやだなーこわいなー」


 自分で持ち込んだ焚き火台をセットしつつ、一触即発の様相を呈す二人を見遣る。

 目をそらしてセリフ棒読みの羽生の目の前、大門だいもん先輩はちっちゃく仁王立ち。


「──雄尻おしりはどうした」

「だっ、大好物であります!」

「同志!」


 大門だいもん先輩と羽生は、学年を超えた固い握手で結ばれた。

 ──ってなんだこれ。





 とまあ、とりあえず夕食の準備が始まった。


「やはり筋肉にはブーメランぱんつでしょうかー」

「いやいやフンドシも捨てがたい」

「和物ですか! 素晴らしいですー」


 レンガのかまどの前、下ごしらえをしながら知らない世界の話で盛り上がるのは、ある一点において奇跡的な合意を果たした大門だいもん先輩と羽生はにゅう


「ほれ、嫁にも筋肉の素晴らしさを教えて進ぜよう。まずは大臀筋だいでんきんから」


 すっかり打ち解けたのは良いのだが、一緒に料理を担当する雪峰ゆきみねは、さっきからしきりに視線をこちらに向けてくる。

 仕方ない、助けるか。。


雪峰ゆきみね、ちょっとこっちへ」


 夕食は、キャンプの定番でもあるカレーだ。

 ただ、それだけだと雪峰ゆきみねの修行には足りないと感じた。


「なんですかー師匠」

「食後のデザート、作ってみないか?」


 俺は、スマートフォンで検索したとあるレシピを雪峰ゆきみねに見せた。


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