第14話 準備は大事

 



 週末前の放課後。

 校門の外で待ち合わせた俺と雪峰ゆきみねは、岩谷いわやが提案した海キャンプについて語りながら歩いていた。


 つか雪峰こいつも、今週末に迫る林間学校の話はしたがらないな。

 というか、思い出した。

 この林間学校、俺にとっても憂鬱ゆううつでしかない行事だということを。


 この私立楓花ふうか高校では、夏休み直前に全校生徒参加の林間学校が実施される。

 一年生から三年生までの六クラス、計十八クラスが混合となって班を作り、その班で二泊三日の野外活動をするという、少々変わった学校行事だ。

 班作りにはルールがあり、


 ・各班五人以上

 ・男女混合

 ・全学年の生徒がいること


 以上が班作りの条件となる。

 しかもこの班を、野外活動当日にぶっつけ本番で組まなくてはいけない。

 去年はたまたま、どの班にも入れなくて彷徨っているうちに何となく上級生に拾ってもらえたが……

 学校側は、どんな目的があってこんなシステムにしたのだろう。

 まったく、コミュ障には地獄でしかないルールだ。


「ねえ、師匠……」

「ん?」

「林間学校、一緒の班になってくださいね」

「……そう、だな」


 雪峰ゆきみねと組む事で、男女混合という条件は満たされる。

 さらに岩谷いわや初渕はつふち先輩も誘えれば、残る問題はひとつだけ。


 班に、一年生を入れる。


 これだけとなる。

 という事で、その旨を各人へとLINEを送っておく。

 すると岩谷いわやから速攻のレスが来た。


『おう、任せとけ』


 だとよ。

 続いて、一年生に誰か知り合いはいないかと訊いてみたが、これに関しては既読がついたのみだった。


 まあ、昨年の俺のような孤独な一年生を当日見つけるしかない、か。


 雪峰ゆきみねを横目で見ると、初渕はつふち先輩からのメッセージが届いたようで笑顔を浮かべている。


「今年の林間学校は、少し楽しくなりそう」


 そうなるといいな、お互いに。




 林間学校まであと二日に迫った放課後。

 またしても岩谷いわやに招集をかけられた。


「林間学校の作戦会議、やろうぜ」

「なんの作戦だよ……」

「だーかーらぁ、すずねぇ雪峰ゆきみねを他の班の奴らに取られないための作戦会議だよ」


 なるほど、訳が分からん。


「そんなの当日適当に動けばいいだろ」

「バッカお前、雪峰ゆきみねは学年一、いや学校一のビッ……美少女だぞ?」


 え、今お前、ビッチて言おうとしなかった?

 ぶん殴るぞ、雪峰ゆきみねが。

 ほらぁ、既にちょっと拳握っちゃってるもん。


「それに、すずねぇも案外人気者なんだぞ」

「そうなのか」

「ああ、なんでもマニア受けするとかで」


 横を見ろ岩谷いわや初渕はつふち先輩がアップを始めてるぞ?

 つかなんでピーカーブースタイルなんだよ。インファイターかよ初渕はつふち先輩。

 もうアレだ、岩谷いわやはデンプシーロールで思いっきり殴られればいいや。


「いや、初渕はつふち先輩も普通に可愛いだろ」


 不意に岩谷いわやに向けて溢したこの発言に、雪峰ゆきみねが反応してしまう。


初渕はつふち先輩、も?」

「……あ」


 気づいた時には既に遅い。


「それって、私も可愛いってこと? こと?」


 コトコトうるせぇな。


「客観的事実を述べたまでだ。お前も鏡見たことあるなら、自分の可愛さくらい把握済みだろうが」


 どうだ。

 反論しやすい様に、ほんのり逆ギレっほく言ってやったぞ。

 が、雪峰ゆきみねは真っ赤な顔をして俯いてしまった。

 ほれ、どうした、打ってこいよ。


「嫁にもわたしにも可愛いなんて、鹿角かづのはスケコマシ」


 ぽしょりと呟いて、アイスミルクティーをちゅーと飲むのは初渕はつふち先輩。

 それに反応して、雪峰ゆきみねがこちらを睨む。

 ちょっと待て。

 いつのまに俺は女性陣を敵に回してるのん?

 焦った俺は、向かいに座る岩谷いわやに助けろと目で訴える。

 その目を見た岩谷いわやが、ニヤニヤと笑った。


鹿角かづの、おまえもマニアだったグハァ!」


 はは、言い終わらないウチに初渕はつふち先輩に殴られてら。


 結局会議は、ただの雑談と強烈なボディーブローで終わった。

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