人気者

彼には友人と呼べる人間が多い。

何処にいても、彼らには気軽によく声をかけられる。

だから、ぼっちで寂しいなどということも一度も経験したことが無い。

彼はそれを十分自覚していたし、それこそが密かな自慢でもあった。


「よお、田中。…あ、悪い。間違えたわ。お前って何か田中に似てるんだよな」

「いいよ、気にすんなって」


「ねえ、鈴木君。…あ、ごめんなさい。後ろから見たら鈴木君に見えちゃった」

「いや、大丈夫だよ。よく間違われるんだ。髪型かなぁ」


「次の問題は…お、目があったな。じゃ、山口。…ん、何だ?…あ、すまん、間違えた。いや、人間なんて歳取るとこんなもんだ」

「あはは」


彼は昔から他人に間違われることが多かったが、確かに容姿は平凡そのものであったから、さほど気にならなかった。

むしろ、間違われる田中や鈴木や山口や…その他大勢の奴らは、皆にその存在を認識されていないのだろうと憐んでいた位である。


そんな彼が、ある日事故であっさりとこの世を去った。

そして気づけば、まるでドラマや漫画の世界のように、自分亡き後の世界を空から見下ろしていた。

もうすぐ自分の葬式が始まるらしい。

一体どれだけの友人が悲しみ、集ってくれているだろう。

胸を躍らせながら、彼は斎場の中を覗いた。


「あいつ、こんな名前だったんだな」

「ていうかこんな顔だったっけ。よく思い出せないんだけど」

「それ、わかる!何か印象薄くて覚えらんないんだよな」

「俺、よくお前と見間違えてたわ。お前探してると大体その辺にいたしさ。悪いな、田中」

「気にすんな。もう間違えることもないだろ」


……。


認識されていなかったのは自分の方だったのか。

ようやく気づいた彼は、静かに斎場を抜け出すと、振り返らずに天に消えていった。

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