第10話3-3:突き放し

「あなたは、恥ずかしがり屋なのかもしれないけど、恥ずかしいと思うことを隠す癖があるのね。周りを気にしすぎよ」

「そうかもしれませんが、それは皆も同じですよ」

「昨日の検証を続ける前に1つ言っておくわ。そういう自意識過剰というものは最近になってできたものらしいわ。最近といっても、100年以上前かららしいけど。昔は村とかから出たりせず1つの場所で一生暮らすのが普通だから周りとの違いを意識せずに済んだのよ。それが今となったらいろいろな人と出会うから、他人と違う自分を意識せざるを得なかったのよ。例えば学校がそうね。いろいろな人が来るでしょ?だからあなたのように自意識過剰になるのは仕方ないわ」

「……それは、僕を突き放すためにわざと難しい話をしているのですか?」

「これは違うわ。ただ単に知識を言っただけよ。突き放す時と言い方とか違うでしょ?」


 同じだよ。さも当たり前のように言われても。昨日の難しい話は突き放すためだと言われても説得力がありません。


「違いがわからないのですが、どこで見分ければいいのでしょうか?」

「――愛があれば見分けられるわ」

「はぁ、努力してみます」


 これは突き放しているとすぐに見分けがつきました。表向きは謙虚に対応しましたが、裏向きは横柄に悪態をつくところです。僕に比べて折り鶴女子は裏表がない正直な人だと思い、少し羨ましかったです。


「それで、昨日の帰るときはどういう意図だったの?私が自転車を取りに行く時とかはぼーっとしていたけど」

「あれは、自分が間違っていると思って困っていたのです。君に僕と一緒に帰るつもりがなくさっさと雲隠れしたと思って、帰りはどうしようかと悩んでいたのです。寄り道して遊ぶかさっさと帰るかでした」

「それで、私が戻ってきたときはどうだったの?」

「嬉しかったですよ。自分は間違っていなかったんだと分かりましたし。でも、それと同時に困りました。何の話をしたらいいのかわからなくて」

「なるほど、信じるわ。正直でよろしい」


 なぜか上から目線で言われていました。折り鶴女子と話すときは初めから見下されていたことを今になって思い出しました。あれ、ちょっと待てよ、どうしてこんな人を内心いいと好意を抱いたのだろうか?


「それからは、会話をつなげようと必死でした。何を話したかわかりません。覚えていないところもありますけど、根本的に話の内容についていけませんでした」

「難しい話だったかしら。まぁ、そういうふうに意図して話したからね」

「それで、今日になっても君と話をしようとしました。すると、君は僕と話をするのが嫌なふうでした。しかも、僕が君に好意を持っていると勘違いしているのです。僕はそれに難儀しているのです」


 僕は実際に難儀していましたし、実際に勘違いしていました。目の前で天守閣のように威圧感のある無機質な表情で居座る折り鶴女子は、言動に難があり好意を持つには難しい相手に感じます。今までこの女子と付き合った人たちは苦労したのだと思い、成仏のために手を合わせたい気持ちでした。


「ふーん。あまり嘘をついているようには感じないわ。じゃあ、あなたは私と友達になりたいだけで、付き合いたいわけではないのね」


 折り鶴女子の声は心霊の声のように消え入りそうでもあり脳に響くものでもある聞こえ方をしました。僕の思考がそうであるよう視聴覚できるものが砂嵐の歪みと雑音と苦味と砂っぽさと痛みに侵食されていました。僕は自意識過剰だとしても、急に何かに脅迫されている神経に縛われていました。

 腰から何かがぬらりと入り、そのまま背筋を這うように上がって行き、そのまま頭蓋の周りを衛生のようにぐるぐると回る感覚です。それをどうにかしようと体をむずむずさせてもその意識上の何かは居座り続けるだけどころか増殖と分裂を行い、体中に小さな虫のような感覚が汗のように流れていく感覚が襲います。僕はもう体を感覚が無いものに代替させたい気持ちに走り、その考えに至ったのは肩こりがひどすぎてこりだけを取り出して潰すことができないかと思った時以来でした。


「はい、僕は君と付き合いたいわけではないのです」

「たしかにそうね。今のあなたはそういうふうには見えないわ」

「わかるのですか?」


 僕は体中を走る虫唾を我慢しながら息が荒れていました。折り鶴女子は虫なんか届かない所に安全に飛んでいるかのように静かな呼吸でした。どうやら、僕と折り鶴女子との間には虫の大群により遮断された川のような大きな障害があるようです。


「わかるわよ。だって、恋する男はつまらないもの」


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