第3話1-3:友達はできないな

「――それで、本当はどうしてわかったのですか?」

「そんなの、常識から推測しただけよ。簡単なことでしょ?」

「推測するのは得意なのですか?」

「苦手よ。すごく苦手。でも、そんな苦手な私から見てもわかるくらい簡単よ」

「そんなに簡単だったのですか?」

「そうよ。あなたが真面目で常識人だから、尚更よ」

「僕は真面目ですが、常識人ではないのですけど」

「そうなの? どうして?」

「周りに馴染めていないからです。常識人だったらクラスで孤立することなくみんなと談笑したりするでしょ? だから僕は常識人ではないのです」


 僕は自分の恥部をさらけ出すことで、顔を両手で隠したくなるような恥ずかしさにゆっくりと泳いでくるサメのごとく襲われました。相手に聞かれたわけではなく自分からさらけ出してしまったことに、カナヅチなのに海に出てしまったかのごとく滑稽な笑いものの恥ずかしい心境です。僕は今の発言をなかったことにしたい衝動にかられました。


「それは常識人かどうかとは別の問題よ。あなたにコミュニケーション能力が無いだけで、その状況を分かっているのは常識人よ。あなたは胸を張っていいわ、常識人であってコミュニケーション能力がないだけよ」


 僕は胸をしぼませました。一つのフォローのために別のアンフォローを用意してきた折り鶴女子は生まれたての赤ん坊のように悪げがなさそうな顔でした。けなしているわけではなく正直に述べているだけであり、よけいに傷つくことでした。


「そうですね。気をつけます」

「別に気をつけることじゃないわ。そのままでいいんじゃない?」

「いいのですか? 普通、僕みたいな友達のいない人は良くないといわれますけど」

「そう言うけど直さないのは、本心から直そうと思っていないからでしょ?」


 僕は心臓を銀の釘で打ち込まれたドラキュラのように苦しくなりました。嘘で繕った防護服で守っていた本心をいきなり刺激され、血反吐を我慢するのがギリギリの震えが全身に起こりました。折り鶴女子に言葉を投げるのが怖くなりました。


「そうですね。たしかにそうかもしれません。僕は友達ができなくてもいいと思っているのかもしれません」

「あなたは揺れているのね。友達を作ったほうがいいという常識と、友達ができない状況との間を。私とは違って」

「君は違うのですか? ということは友達ができなくてもいいと思っているのですか?」

「そうよ。よくわかったわね、友達を作りたいという立場でないことを」

「それは、まぁ、見ていたらわかります」


 ボケなのかと一瞬思いましたが、ボケはボケでも天然ボケだと呆れました。折り鶴の女子は先程から不思議ちゃんのような言動をしているので、勉強ができなければやばい人認定するところでした。そういえばよく聞く言葉で、天才と狂人は紙一重というものがあり、それを体現したしたものだろうか?


「たしかに私は友達なんか要らないという立場よ。しかし、周りは強がりだとか気味が悪いだとか勝手に価値観を押し付けてくるわ」

「それはそうでしょ。漫画やラノベの主人公じゃあるまいし」

「そうなの? というか、ラノベって何?」


 ライトノベルを知らないんだ。まぁ、知っているのを当たり前で話した僕が悪いか。折り鶴少女の表情を崩さず困った雰囲気だけを出しています。


「ライトノベルというものがあるんです。軽い小説という意味です」

「ふーん。それで、どうして私が軽い小説の主人公なのよ?」


 軽い小説って……


「その分野では、友達がいない主人公が多いのです。そして、友達ができると人間強度が下がるだとか、周りに迷惑をかけないためにわざと友達を作らないだとか、周りのレベルが低すぎるだとか言うのです。だから、似ているなぁーっと」

「そのとおりでしょ?」

「え? いや、この場合は強がりが普通です。友達がいないことから目をそらして、本気で思っていないのです。本気にしないでください」

「え? でも、本当にそうだと思うわ。何が変なの?」


 この人は物語から出てきた人だろうか?それとも世間知らずなのだろうか?僕は後者であってくれと切に願いました。


「君、もしかして常識がないの?」

「さぁ。もしかしたらそうかもしれないわ。勉強になったわ、ありがとう」


 頭は下げるがサバサバとした態度でした。僕が言うのも何だが、これは友達はできないなと思いました。そして、自分も周りからそう見られているのかと思うと、恥ずかしい。

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