第6話 娘の発言

5 娘の発言


 わたしは嫁いでから、一年に一度だけ実家に帰っていました。

 その度に、幸せそうな家族を見ていました。

 父さんは家族に対して優しそうに接していました。

 ところがどっこい、私の嫁ぎ先に引き取ったら、メチャクチャでした。叫び散らすわ暴れるわ、こっちの頭がおかしくなりそうでした。こんなのと一緒にいたら、そりゃあ倒れるわと思いました。まだわたしは実の子供だから言い返せるからいいけど、嫁いできた人ならどうしようもなかったと思います。本当に弟の妻には申し訳ないことをしたと思います。でも、まさかこんなにひどいとは思いませんでした。小さい時に少しは思っていたのですが、離れて暮らすうちに忘れていたようです。それか、年を取ってから悪化したのか。とにかく、父さんはメチャクチャでした。

 分析して思ったことが、父さんは小心者であるということです。だから外では強い言えないから優しい人に見えるのです。わたしが一年に一度帰るときは夫とかもいるから本性を出さなかったのでしょう。そして、家の中にいるときは自分が一番となって横柄な態度を取るようになるのでしょう。私のところに来た時も最初は大人しかったのですが、数日経ってからは態度が悪くなっていました。

 それでも実家じゃないと暮らしにくいのか、いつも実家に帰りたいと言っていました。しかし、ここで実家に返したら再び弟の家庭がメチャクチャになることは火を見るより明らかなことでした。だからわたしは意地でも実家に帰しませんでした。その度に暴れるのですが、わたしは思いっきり喧嘩してやりました。

 そしてわたしは、老人ホームに入ることを勧めました。同じくらいの年の人たちと交流を持った方がいいと思ったからです。それと別の本心としては、こんなメチャクチャな人にこれ以上家で暴れられたら困るからというものもありました。わたしは父さんに老人ホームに入ってもらおうと思いました。

 すると、父さんは暴れるではないですか。そんな年寄りの行くところに行きたくない、と。年寄りのくせに言うのです。わたしはそこでまた喧嘩しました。そしてほぼ力尽くで老人ホームに入れまいた。老人ホームでは父さんよりも若い人が何人もいて、むしろ父さんが年長なくらいでした。

 老人ホームでの父さんがどんなものかは施設の人から聞くだけでしたが、おそらく暴れていたのだと思います。最初はおとなしくしていたが、徐々に慣れてきたら暴れ始めるという、わたしのところに来たときと同じことだと思います。施設の人はそんなことは言っていなかったのですが、仕事だから悪く言えなかっただけだと思います。あの父さんのことだから、絶対に暴れていたでしょう。

 そして少しずつ痴呆症も進み、あるときに風呂場で怪我をして車椅子生活になりました。少しずつ弱っていきまして、更に体調不良で倒れて入院しました。それから数日経って亡くなりました。でもまぁ、大往生だと思います。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る