はずれスキル『神ゲー』のせいで追放されたオッサン、覚醒してJK魔女と小学生聖女に溺愛される人生に 追放した勇者パーティたちの人生が『クソゲー』になって、お願いだから元に戻してくれと土下座されています

佐藤謙羊

第1話

 ……俺の人生は、どうやら『クソゲー』だったらしい。


 小学校に入る前の『スキル授与』において、俺は女神から『神ゲー』という聞いたこともないスキルを授かった。


 普通、スキルというのは商売や産業にまつわるものが一般的だ。

 中には剣技や魔術をはじめとする戦闘系のスキルもあるのだが、それらは『あたりスキル』と言われていて、一攫千金の冒険者や、衛兵や兵士になることができる。


 さらに『神スキル』と呼ばれる優れた戦闘スキルを持つ者は、『勇者』や『賢者』などの上級職に就くことができ、それだけで皆からの尊敬が得られるんだ。


 そして……たいしたことのないスキルは『はずれスキル』と呼ばれ、バカにされる。

 たとえば、ゆでたエビを早く綺麗に剥ける『エビ剥き』のスキルや、ヒヨコの雄と雌が瞬時にわかる『ヒヨコ雌雄鑑定』などだ。


 俺が授かった『神ゲー』は、既存のスキル区分のどれにも当てはまらなかった。

 なぜならば、こんな奇妙な名前のスキルは今までになかったから。


 最初は、『神』とスキル名に冠されているのだから、『神スキル』に違いないと誰もが思っていた。

 幼い俺は各国の王から引っ張りだこになり、一族の誇りともてはやされた。


 おかげで、大国でいちばんの勇者小学校に通うことができた。

 俺の人生において、この時が最初で最後のピークだったと思う


 俺は最高の勇者となるべく勉学や運動に励んだのだが、いくらやっても何ひとつうまくできず、すぐに落ちこぼれた。


 まわりの勇者の卵たちは与えられたスキルを駆使し、幼いながらにしてモンスターと渡り合えるだけの力を付けているのに……。

 俺の『神ゲー』スキルはどうやったら効果が発揮されるのかもわからず、そもそもこのスキルが何なのかもわからないままだった。


 さらに俺はなぜか、いくら鍛えても、いくら勉強しても、『成長』というものを一切しなかった。

 いくら戦っても、最弱モンスターの『サプライム』に勝つのがやっとだし、頭はずっとバカのまま。


 当然のように俺はついていけなくなり、勇者中学に上がる前に中退させられる。

 俺は勇者一族の生まれだったが、そのとき同時に勘当された。


 最終学歴が小学校のうえに孤独の身になってしまったが、俺は冒険者になる夢をあきらめきれなかった。

 まだ若いのだから、がんばればなんとかなると、勇者小学校の時のコネを活かして勇者パーティに入れてもらった。


 パーティの中で実戦経験を積めば、そのうち芽がでるんじゃないかと思ったんだ。

 でも……俺の身体ガタイは大きくなっていても、体力や知力は小学生時代のまま。


 そのため、俺は戦闘ではまるで役に立たず、荷物持ちをするしかなかった。

 俺はなぜかいくら走っても少し休んだらすぐに回復し、荷物をいくらでも持てるという不思議な力があった。


 もしかしたらこれが『神ゲー』スキルなのかと思ったが、そんな地味な効果は『はずれスキル』でしかない。

 結局、どの勇者パーティでも役立たず扱いされ、しばらくすると追放されてしまった。


 勇者パーティを点々としているうちに、とうとう俺を受け入れてくれる勇者パーティはなくなってしまう。

 俺はやむなくランクを落とし、勇者のいない冒険者パーティに所属し、荷物持ちを続けた。


 この時の俺はもう止め時を見失っていて、冒険者という肩書きにしがみつくの必死だった。

 小学生のパーティにも土下座して入れてもらい、金を払ってパーティに入れてもらったこともある。


 しかしそれも、長くは続かなかった。


「お前、今日でお払い箱な。若くてイキのいい荷物持ち雇ったからさ」


「私たちみたいな明るいパーティにオッサンみたいな陰気くさいのは合わないんだよね」


「そーそ! オッサンもいい加減、荷物持ち引退したら?」


 最低のFランクパーティにまで、とうとう三くだり半を突きつけられてしまったんだ。


 俺はその時、必死にしがみついていた『冒険者』という名の崖から突き落とされた気がした。

 いや、むしろとっくの昔に谷底に落下していたのに、気付いていなかっただけかもしれない。


 俺は若者たちからはオッサンと呼ばれ、「ああはなりたくないよね~」と蔑まれる、最底辺の人間になっていた。


 失意のどん底に落ちてようやく、俺は冒険者を引退する。

 ぬかるみのなかを必死に這いずり回り、さんざんもがき苦しんでもなお、わずかな光明ひとつ見いだせない人生だった。


 それからの俺は、エビ剥きのアルバイトをして、わずかな稼ぎを得て暮らすようになる。

 毎晩遅くまで働いて、ボロアパートに戻って安酒をあおり、気を失うように眠る日々を送っていた。


 そしていよいよ、そのアルバイトもクビになってしまった。

 なぜならば、『エビ剥き』のスキルを持った新人が入ってきたからだ。


 新しい仕事も見つけられず、有り金も尽き……。

 いよいよアパートも追い出される日が近づいてきて……。


 俺は、俺のクソみたいな人生を、自分の手で降ろすことに決めた。


 拾ってきたロープを天井の梁に吊るし、輪っかの形をつくる。

 踏み台に上ってその輪っかに首を通し、踏み台を蹴っ飛ばせば……。


 すべてにさよならだ。


 霞む視界のなか、ようやく安らかな終わりが訪れるのだと、俺は思った。

 しかし目の間には、へんなのが飛び回っていた。


「わあっ!? 旦那、なにしてはるん!?

 ブランコ遊びやったら首やないで! 尻でやるもんやで!

 そないなことしたら死んでまうよ!?」


 ソイツは見た目以上のへんな言葉遣いで、俺のまわりを飛んでいた。


 俺を迎えにきた天使かと思ったが、それにしては小さい。

 羽音は昆虫みたいにブンブンうるさいが、昆虫にしてはデカすぎる。


 薄れゆく意識のなか、そんなことを考えていたら、


 ……ブチッ!


 とロープが切れ、俺は床に盛大に尻もちをついた。

 四つん這いになってゲホゲホとむせる俺のそばに、そのへんな生き物が降りてくる。


「ああよかった、まだ生きてるみたいやな!

 チュートリアルが始まる前に死ぬなんて、前代未聞やで!」


「げほっ! ごほっ! な……なんだ、お前は……?」


「なんやって、見てわかるやろ!」


「き、キモい、昆虫……?」


「こんなラブリーな昆虫、おってたまるか! ハッチかい! 母をたずねて三千里すっぞオラァ!

 ワイは妖精や! プロゴルファー妖精や!」


 自らを妖精と名乗るその生き物は、俺の目の前でずいと胸を張る。


 妖精って、人間をそのまま縮小したようなスマートな外見だって小学校で習った。

 しかしいま目の前にいるヤツは、頭がでかくて身体が小さい2頭身。


 幼い顔だちで目がでかく、髪色とお揃いの緑色のドレスを着ている女の子だった。


「なんやなんや、初めてね○どろいどを見たみたいな顔しおって!

 そんなにワイがラブリーかい!」


 見ようによってはたしかに愛らしく見えなくもないが、へんなしゃべり方のせいで台無しだった。

 俺はなんとコメントしていかわからず、


「お、お前……プロゴルファーっていうのか? なんか変な名前だな……」


 すると、妖精はすぽーんとすっ飛んだ。


「そんなわけあるかい! ワイの名前はテュリス! オトモ妖精テュリスや!」


「オトモ妖精……?」


「うぃ、そうや! 旦那を導くために未来からやってきた猫型ロボットや!

 さっそくチュートリアルを始めるとするかい!」


「チュートリアル? なんだそれ?」


 テュリスは俺の目の前に現れてからというもの、まくしたてる一方。


 しかも言っていることの半分以上が意味不明。

 しかし次に彼女が発したことは、俺にとっては聞き捨てならぬものだった。


「旦那、『神ゲー』のスキルを持ってるんやろ? だったら『チュートリアル』から始めるのは当然やんか」

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