第17話 台風の目かと思った

[なんとか持ち直したので再開です。そして、いつの間にか☆200越え……えっ、200越え?あ、あ、ありがとうございます!]




 悲鳴の方へ駆けつけると、そこには大きな魔物がいた。

 額に一本角のある、ウサギとカブトムシをムカデをベースに混ぜたような見た目の魔物が、その場所で収穫をしていた男女2人を襲っていた。

 男は女を守るように、護身用であろうナイフを構えて魔物の前に立ちはだかっていた。


「リ、リジュはやらせんぞ!」

「ロメア!無理しないで!」


 村の中でも最も若い夫婦だ。今日は子供を村長に預け、収穫に参加しているとのことだったっけ。アップチュリンの収穫は村の一大イベントだし。


 しかし、あの魔物は確か、森のなかでもかなりの深部に生息する魔物の群れの長だったはずだ。どうしてここまで?


 いや、まずはとにかく助けないと。まずは俺に気を引き付けて、だ。


「おい!大丈夫――――」


「行くです」


 「大丈夫か」と言い切る前に、ヘイルが動いた。

 俊敏な動きで魔物の前に躍り出たかと思えば拳を構え、一歩踏み出しながら真っ直ぐに……殴った。正拳突きというやつだろうか。

 真正面から殴られた魔物は、衝撃で少し吹き飛ぶ。あの魔物の装甲って、かなり硬かったはずなんだけど?


 その隙を逃さないように、ヘイルはラッシュを叩きこむ。その時、衝撃で持ち上がった魔物の尾、ムカデの尻尾みたいなそれに、誰かが捕まっているのが見えた。このままだと、多分ヘイルのラッシュに巻き込まれる。

 とは言っても、邪魔するのもなんだかな……というわけで、その捕まっている人物に回復を掛けることにした。持続回復、リジェネというやつだ。

 ちなみに、つい先日の大規模バフとか回復のおかげか、この程度なら詠唱はいらないようになっていた。ソースは【万象の閲覧者】だ。便利。


「あー、とりあえず、奥さん連れて逃げてて。一応、後で診るからさ」

「あ、ああ!そうさせてもらう!」


 ロメアさんはリジュさんを連れて、村の方へと向かった。これで良し。あとは、ヘイルとあの捕まってる人だけだが……そちらは問題なさそうだ。

 ちょこちょこヘイルの攻撃に巻き込まれかけているが、俺のかけてる回復の方が大きいためか、別段ダメージを負った様子はない。



 と、見ているうちに、跳躍したヘイルの強烈な一撃が決め手となり、魔物は倒れた。

 ヘイルは軽くスタッと着地して、一息つく。ただ、そこで自分が何をやっていたのかに気が付き、怯えたようにこちらへ来た。


「せ、先生、ぼ、僕、あの、その……」

「落ち着け。大丈夫か?」

「ご、ごめん、あ、けほっ!」

「あーあー、悪いことしたわけじゃないんだから落ち着けって。毒、少し回ってるし解毒するから……」


 ヘイルの背中をさすりながら、解毒と回復を掛ける。すると、落ち着いてきたのか、深呼吸をした。


「そ、その……ごめんなさい……やれることって、思って、その……」

「だから大丈夫だって。むしろ、ありがとな。俺だと時間がかかってたし、助かった」

「せ、先生……」

「落ち着いたか?」

「は、はい!えっと……あの、その魔物は、いったい?」


 若干うろ覚えな節もあるので、視界の端に閲覧者のメッセージウインドウを出しながら解説する。


「バグミラージって魔物だ。ほら、この辺りにウサギっぽい魔物がいるだろ?」

「います、ですね……えっ、もしかして」

「そのもしかして、だ。バグミラージの生体の中でも、群れの長になる個体がああなる。変体過程は……むっちゃグロいから見ないことをおすすめするぞ。いやほんとに……」


 むかーし、一回間違って森の奥の方に迷い込んだことがあったのだが、その時に丁度変体風景を見てしまったことがある。すっごいグロかった。

 かわいらしい一本角のウサギが、内側から引き裂かれるかのようにメキメキと音を立てながら、ムカデベースのあのヤッバイ姿に変わっていっていた。怖かった。


「まあでも、見た目とか戦闘力の割に、賢くて温厚な種族なんだぜ。ちなみに、目の色でどの群れの長か判別できるんだよな。昔会ったアイツは確か、青色だったな」

「なるほど……えっと、じゃあ、このバグミラージさんは……?」


 倒れたバグミラージに近寄り、目の色を確認する。色は赤。……赤?


「バグミラージって、赤い目は存在しないはずなんだけど……?」


 【解放の魔】と【万象の閲覧者】を使い、バグミラージの状態を解析する。


《解析結果:バグミラージ・ロード

 種族名:蜈蚣角兎バグミラージ

 状態:死亡・負化

 所持スキル:【睡眠毒】【熱源探知】》


「『負化』……?」

「あ、せ、先生!人が……」

「ん?あ、ああ!」


 そうだ。忘れてた。なんか人捕まってたんだ。


 バグミラージの尾の近くまで行くと、気絶している男がいた。リジェネを掛けていたためか、外傷などは見当たらない。

 男はマントや鎧を纏っており、ぱっと見の印象は「壮年の騎士」とかそんな感じだ。白髪交じりの暗い緑色の髪は、しっかりと撫でつけられている。


 バグミラージの処理については、後でなんとかしよう。レイにでも手伝ってもらうか。


 とりあえず男を運ぼうと思い、背負おうとした……のだが。


「おっも……って、いっててててて!翼、翼に鎧食い込む!」

「あわわわ……よ、鎧を脱がせますです」

「そうだな。えーっと、ここがこうで……」

「あ、そ、そこはこうです……で、ここをこう、で……」

「良く知ってるな……すごいな」

「え、えへへ……こ、これでできました。鎧は僕が持ちます、です」

「ありがとな」


 インナー姿になった男を背負い、ヘイルが鎧を抱えると、村の方へ向かった。




……『死亡』状態にあるバグミラージが一瞬ピクリと動いたことに、俺達は気が付かなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る