幕間 魔王ヘイル

[いつの間にやら、たくさんのフォロー、PV、☆になっていました。本当にありがとうございます。かなりの励みになっております。誤字も表現ミスも多い筆者ですが、ゆっくりとお付き合いいただければ幸いです。] 

[しばらく、火・木曜日は基本更新はお休みとさせていただきます。主に筆者の体力的な問題です。申し訳ございません。]




『魔王』――――その称号は、この世界でも、特別な実力者であることの証明。その称号を欲する魔物や魔人は多い。


 そもそもにおいて、魔族というのは種族名であるが、一般に人類の敵対者とされる――――というか、亜人よりも魔物寄りの種族の総称でもある。

 小鬼族ゴブリン牙鬼族オーガ蟲人族マンティス吸血鬼族ヴァンパイア等々。こういった種族たちが、”魔族”、もしくは”魔人”と称される。今ではほとんど見られなくなったが、純粋な”魔族”も存在するにはするが、それについては今はいいだろう。


 現在、魔王は7柱――――いや、8柱。うち半数は『総魔会議』により認定され、もう半数は『神託』により魔王と認定されている。



 ”冥延の魔王タナトス”ことヘイルは、前者の方法によって認められた魔王だ。

 暴力的で、傲慢で、刹那主義の快楽主義。毒素を操るスキルを保有し、思うがままに滅びを振りまく。


 ヘイルは、ごく最近の『総魔会議』に乗り込み、”鋼審の魔王サファイア”を魔王たちの目の前でフルボッコにすることによって無理矢理『魔王』と認めさるという荒業を成して、『魔王』となった。

 ”チカラを認められれば魔王となれる”――――いつ、どこから広まったのかは知らないが、魔人たちの間では有名な噂だ。ヘイルは、それを実行して見せたのだ。


 さて、そんなヘイル。滅ぼした国の城の王族の部屋を勝手に使いながら、窓辺で彼は今、最大限にイラついていた。


 原因は二つ。”誠天の勇者トパーズ”と、取り逃したあの魔族。


 狙いを付けたあの国は、決して脅威ではない。

 いや、確かに、あの国には噂には聞くほどの氷のチカラの使い手がいるらしいことは知っている。しかし、そんなものは怖くない。毒で先に無力化してしまえばどうとでもなる。

 軍もなかなか強い方だが、そんなのも関係ない。どうしてか着いてきている部下を使うまでもなく、その気になればヘイルだけで無力化できる。


 しかし、あの女勇者はダメだ。

 とにかく動きが速く、攻撃が当たらない。

 かといって無力化しようにも毒への耐性を持っているのか、効きが遅い。しかも、効き始めようとした途端に消える。何度か接敵して来る度、仕留め損ねて逃げられる。

 そのせいで、どうも、に感付かれた気がして、イライラする。


 それ以上に気に食わないのは、あの人間っぽい見た目の、長髪の魔族。

 

 暇だからと散歩させていたら、人間に交じって何か食ってる魔族を見つけたので、気に入らないのでまとめて苦しめてみようとしてみた。

 そしたらどうだ?毒は効かないし、ついでに苦しめようとした人間を一人も殺せなかったし、なんならあの女勇者が連れて行ってしまった。



『いんや?気分じゃないだけ。子供の相手は、『遊び』で十分だろ……っと』


「あーーーーークソ!!!なんなんだよアイツ!!」


 あの魔族の言葉を思い出し、だだをこねる子供のように部屋の中の物品に当たり散らす。

 毒の煙が発生し、殴られ割れた壺は急速に変色し、溶けていく。部屋の扉から漏れた毒煙でたまたま近くを通っていた魔人は倒れ、数秒苦しんだ後泡を吹いて白目を剥いてしまった。


 しばらく当たり散らし、部屋が見るも無残な姿になる頃に、突然ヘイルの動きがピタリと止まった。


 それから、頭を抑え、しばらく唸る。

 すると、紫色の肌は徐々に人間のものとおなじベージュ色へと変化していき、金髪は白銀へと色が抜け落ちていく。


 数秒間悶えた後、彼は強く瞑っていた目を開けた。その瞳だけは、同じ金色だった。


 彼はぼんやりと辺りを見回す。

 そして、部屋の惨状に気が付いて「ヒッ」と小さな悲鳴を上げた。


「なんで……あぅっ!」


 走る頭痛にまた頭を抑えながらも、ゆっくりと立ち上がる。


「えっと、外で迷って、それから……」


 記憶が抜け落ちている。まただ、また、なにか、おかしい。


 そう思いながらも、彼はぼんやりとする感覚のまま、部屋を出た。よくわからないまま、その辺りに転がっている死体で吐きそうになりながらも、城の屋上を目指していた。


 頭の中に響く声がうるさい。起きている間響くこの声は何なのだろうか。


 そもそも、自分は誰だったか――――そんなことすら思い出せないことに気が付かないまま、彼は屋上へと出た。



 朝日がまぶしい。

 庭園になっていたのであろう屋上の花壇は毒の沼地に変わっており、植物なんてものは生えていない。草人族すら生えていない。


 広い、しかし荒廃した屋上庭園で輝くのは朝日のみ。ぼんやりと眺めていると、ふいに人の気配がした。

 振り向くと、三つの人影。男が二人に女が一人。誰かはわからないが、ここから助け出してもらえる。とにかく、助けを求めなければ。


「あの……あぁぅっ!」


 助けを求める声を出そうとして、頭痛が強まる。ガンガンと警鐘のごとく鳴り響く痛みと声に悶えながら、また、意識が遠のいていく。


 意識が落ちる寸前に、男の、新緑の色をした目と合った。彼が認識できたのは、そこまでだった。

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