第9話 現状確認、作戦確認

「ちょっと待って、捕縛作戦?討伐作戦じゃなくて?」


 てっきり討伐作戦だと思っていた。脅威は討伐だと思っていたが……どうして捕獲なのだろうか。そう思って口に出してしまった。


「貴様っ!」

「よい。ならば、改めて現状を確認するのみだ。宰相ホギアよ、頼めるか」

「はっ、お任せ下さい」


 イブン王の右隣に座っていた男が、すごい剣幕で睨んできた。男は格好からして、騎士かなんかだろうか。

 それを王が諌め、騎士っぽい男と反対側のイブン王の隣に座っていた、黒髪の壮年の男性が立ち上がり、魔法か何かで空中にスクリーンのようなものを投影した。


 恐らく、周辺地形図とかそんな所だろう。


「現在、我々の状況は芳しくありません」


 宰相のホギアさんの説明曰く。


 現在のハートフィルの様子はよろしくない。王都・レイバットは人口およそ4000人の都市。しかし、その4分の1ほどが毒素にやられ、医療院や診療所に入院している。

 幸い、死人はあまりいないようだが、おそらく、ヘイルがわざと死なないような毒素を扱っているからだろう。


《【紫怨の毒】:紫延の煙

  ・体力と精神力を奪うことに特化した、持続性の高い毒。解毒難易度は高いが、致死性はない。》


「……うーん」


 話を聞きながら、もしやと思いつつあの時解析した毒の煙の情報を見ると、そんなことが書かれていた。

 医務室で解毒したものの情報も見れば『紫延の煙』と同等のものだった。

 直接戦力を削ぐというよりは、医療機関などを疲弊させることが目的なのだろうか。まあ、多分、「楽しいから」だけでやってそうだけど……。


「毒素を抜きに考えるならば、こちらが優勢です。人数は勿論のこと、”誠天の勇者トパーズ”たるティファ殿、”聖功の魔導士ラピスラズリ”である宮廷魔術師・レイ殿を筆頭として、他に冒険者など名だたる強者がおられます故、戦力的にはなんら問題はありません。ですが……」

「アイツの毒素のせいで手出しできないんだよねー。あたしの【毒耐性】のスキルも貫通してくるし」


《スキル:【毒軽減】【毒半減】【毒耐性】【毒無効】

  ・「毒」属性に対する抵抗を可能にする。「軽減」が最も抵抗量が低く、一定条件で上位スキルに進化する。【毒無効】が最上位。》


 気になって【万象の閲覧者】にかけてみたが、なるほど、耐性系もあるのね。

 耐性でダメってんなら、無効じゃないとダメなのだろう。「貫通してくる」という言葉が引っかかるが、それを今考える時間ではない。


「まあ、その毒素をどうにかするために呼ばれたのが俺……って認識でいい?」

「そういうわけです。思いの外、あっさり承諾してくださって助かりました」


 レイがそう言う。なんだろう、本当にレイって口調の割に敬意がない気がする。まあ、あってもなくても俺はどっちでもいいんだけど……。


「こほん。とにかく、今回の作戦を説明しますので、兵士長メイデア殿、頼みました」

「任された。では、ヘイル捕縛作戦についてだが――――」


 イブン王の右隣りに座っていた、さっき睨んできた男が立ち上がり、詳細説明を始めた。


▼▼▼


「――――以上となる。質問のある者は?」


 説明が終わる。ちょこちょこレイとティファから補足説明をもらっていたため、割と理解はできている。


 ざっくり言うと、まず俺が「状態異常浄化」を付与し、その後雑兵をハートフィルの兵士や、雇った冒険者たちが抑え、ヘイルをティファ、レイ、俺の3人でぶっ叩きに行く感じだ。


 ヘイルの軍勢は、数自体は脅威ではない。一人一人が毒素環境下で強化されるチカラを持つため、ヘイルの展開する毒素環境下において、強いのだ。「特定地形状態で強くなる」敵という、ギミック戦のような感じなので、俺がギミックを剥がさなければ始まらない。


 そもそもにおいて、この世界の人口は(生前の世界と比べると)圧倒的に少ない。そのため、必然的に質が必要となってくる。「魔法」と「スキル」が存在するのだから、なおさらだ。一人一人がなかなかに強い。

 冒険者というのも、ある意味傭兵のような感じなのだというのは、ティファからの説明だ。


 だが、聞きたいことはある。


「質問。ヘイル”捕縛”作戦ってのはどういうこと?」


 これが一番聞きたい。どうして「捕縛」なのだろうかということに、一度も説明がなかったのだ。



「それについてはねー、あたしが説明するよー?」


 立ち上がったのは、ティファだ。先ほどまでの話を聞く限り、何度かヘイルとは対峙しているらしい。しかし、毒素にやられ切る前に撤退していたため、致命傷を与えることができたことはないのだとか。


 曰く――――ってか、【解放の魔】と【万象の閲覧者】で確認もしたのだが、ティファの所有するスキルの中に、【心眼・真】というものがある。俺の【解放の魔】と同じく、解析系のスキルだ。

 「対象の状態変化」などを読み取ることができるスキルだそうなのだが、それでヘイルを視た時、反応がのだそうだ。


「反応が2つ?」

「うん。あたしも見間違いかと思ったんだけど……似たような事例を見たことがあったから、気づけたの」


 曰く、ティファは『勇者』であるが『冒険者』でもあるため、世界を巡って旅をしている。

 ハートフィルに来る前に立ち寄ったとある村で、村人が突然暴れ狂う事件があったそうだ。


 原因、は村の近くに封じられていた死霊によるものだった。

 ティファが言うには、その死霊に憑かれた村人を視たときと、ヘイルの状態が全く同じだったそうだ。


「だから、捕縛して、憑いている何かを剥がそうってわけなの。提案したとき、結構「甘すぎだ」とか言われたけど、王様がおっけーしてくれたから、捕縛作戦になったの」

「捕縛方法に関しては先ほども説明がありましたが、私が何とかしますので。ヒルフェ様には、回復と浄化を頼みます」


 状況は、いわゆる「大きなイベントの終盤」といったあたりか。俺は、解けないギミックを解いてくれるイベントキャラクターといったところだろうか。だから、だいぶ色々進んでいるのだろう。


「決行は、明日の早朝。これ以上質問がなければ、仕舞いとして始めようと思いますが、王よ、どうでしょう」


「よかろう。イブン・レイバット・ハートフィルの名において、許可しよう」

「はっ。では、今回の作戦会議は終了とする!」


 いやー、うん。なんだろう。とんとん拍子で進む会議に、なんとなく不安を覚えた俺は悪くない……と思う。ちょこちょこ俺のチカラについて疑いの目は向いていたが、医務室のことを確認するや否や信じてもらえたのはよかった。


 とにかく、今日は決行場所の近くまで行き、休息をとることとなったのだった。

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