第7話 俺の認識と展開が追い付かない

[明日の更新はお休みです。次回は2/25投稿予定です]




 歪んだ視界は一秒も経てば元に戻った。だが、その景色は街道から変わっていた。アクアマリンのような見た目の石材が多くあしらわれた、豪華な内装の建物の中にいた。


「……??」


 先ほどから訳の分からないことの連続で、脳内処理が追い付かない。500年程のんびり暮らしていた俺には、情報過多すぎるっていうか……。


 あ、そうだ。レイにライとロイ、あと御者はどこだ?特にレイ以外の4人にはきちんと解毒を掛けないと、中和していたとはいえ、放っておくのはヤバい。

 そう思って立ち上がって見るが、レイ達の姿が見当たらない。


「どこに……」

「大丈夫、彼らは医務室に送ったから」


 声がして、振り返る。

 そこには、少女がいた。ボブヘアーは青紫色をしており、瞳の色は明るい、鮮やかな紫色。見た目から推測する年齢は高校生くらいだが、少女が鎧を着けて帯剣しているためか、もう少し上にも見える。


 そしてその声は、街道で最後に聞いた声と同じだ。


「えーっと……申し訳ないけど、誰?」

「あ、初対面だもんね。あたしはティファ・レトリード。一応『勇者』やってるよ。ついでに、キミ達を助けたのも、あたし!で、キミは?」

「あ、さっきはどうも。俺は、ヒルフェール・ケセド、ヒルフェだ。ただの魔族だよ」

「ヒルフェくんだね。魔族?人間にしか見えないけど?」


 そういえば、俺は魔族の中でもかなり人間に近い見た目なのらしい。確かに、翼を畳んでいなければ、ほとんど人間にしか見えない。

 レイ達と会ったときは翼を使って玄関まで行ったので、翼は広げたままだった。しかし、今は畳んだままだ。俺に翼は畳んだ状態だと、マントに見えなくもない。


 翼を軽く広げて見せる。


「これで納得して貰えた?」

「わわっ。ビックリした!けど、納得はしたよ」

「それは、どうも?」


 うーん、これまた元気な子だ。嫌いではないが、俺はどちらかと言えば巨……いや、この話はやめよう。いらない争いを生むかもしれない。


 と、いうか。こんなこと考えている場合ではない。


「そうだ。ここは、どこなんだ?」

「ここ?ここはハートフィルのお城。あたしの”座標変更ギフテッド・シィ”で連れてきたの。ヘイルに襲われてたでしょ?だから、たまたま巡回していたらレイから救難信号きて、それで、あたしが迎えに行ったの」


 ハートフィル……そうだ、目的地だったはずの場所だ。 

 いや待て。それ以上に、今は4人の解毒をしなければ。


「えっと……ティファ、さん?」

「ティファでいいよ!何?」

「医務室に連れて行って貰えないか?」

「お見舞い?うん、いいよ。ついてきて!」


▼▼▼


 思いのほかすんなりと案内して貰えたことに驚きつつも、医務室へとやってくる。城はどうもかなり広いようだったが、ところどころに仕掛けられた魔法陣に乗ると、一瞬で別の場所に飛ばしてくれるため、移動にはそこまで時間がかからなかった。


 医務室はなにやら慌しげだが、対応はしてくれるのか、女医さん……看護師さん?が来てくれた。


「ティファ様!ど、どうされましたでしょうか!」

「ヒルフェくんがね、レイ達のお見舞いに来たんだって」

「も、申し訳ありません。現在、毒素に侵された方々が多く……多忙なため……」

「毒素……ヘイルの、か?」

「は、はい!」


 話を聞いてみれば、普通の解毒魔法では取り除けず、延命処置くらいしかできないとのこと。ただ、レイだけは毒素を受けた形跡があるのに、完璧に解毒されていたため、後遺症がないかの確認のために医務室に突っ込まれたらしい。解析すれば、解毒につながるかも――――って、たぶんそれ、俺が解毒したやつじゃぁ……。


「ちなみに、ここに何人くらい患者がいるんだ?」

「えっと、およそ50名ほど……」


 【万象の閲覧者】、仮にレイが受けた毒と同じと仮定した場合、50人を治すのにどのくらいかかる?というか、できる?


《計算結果:同時治療の場合、4秒前後目安。可能》


 メッセージウインドウで表示される答え。【万象の閲覧者】、本当に便利だ。訊いたら答えてくれるが、人工知能とかいうよりは検索エンジンに近いため、なにかしらこちらから聞かなければならないのだが、別に苦ではない。調べ物は好きだし。


「ん、50人なら多分解毒できるな」

「な、なにをおっしゃって……?どなたかは存じ上げませんが、魔王ヘイルの毒は強力で」

「レイがいるんだろ?解毒したの俺だもん」

「えっと……?」

「ヒルフェくん、流石に嘘は……いや、待って?」


 ティファが何かを考えこむ。それから、合点がいったように手を叩いた。


「ナースさん、大丈夫。任せてもいいと思うよ」

「ですが……」

「だーいじょうぶ!あたしが保証するから!」

「ティファ様がそこまでおっしゃられるなら……」


 渋々、といった様子で看護師さんは通してくれた。

 医務室の中は人でいっぱいで、用意されているベッドに空きは見えず、全て患者で埋め尽くされている。患者の傍にいるのは、看護師か魔法使いっぽい人だけだ。おそらく、魔法使いっぽい方は解毒魔法をかけているのだろう。

 解毒魔法をかけられた患者は、一瞬表情を緩めるが、すぐにまた苦しみだしている。


 正直、治してしまってもいいのかというよくわからない懸念はあるが、そんなのは無視だ。


 一呼吸置き、【方解の魔】をまた起動する。


「ふう……”毒消去クリア・ギフト”」


 対象をこの部屋にいる患者全員に、そしてその全員の体から毒が消えるようにと思い描きながら、チカラを使う。

 すると、患者たちを薄緑の立方体が包み、数秒してから光ったと思えば、解毒は終わっていた。


 患者たちの表情は苦しむようなものではなくなっており、呼吸もしっかりと眠っている。

 

 看護師や魔法使い達は大驚き。まあそうだろうなぁと思う。逆の立場なら、俺だって同じようなこと思ってるもん。


 と、部屋の奥が騒がしい。何かと思えば、看護師たちに引き留められようとしながら、無理矢理、レイが明るい水色の髪を掴まれるのを除けながらやってきた。


「ヒルフェ様!今のは!」

「あ、レイ。大丈夫?」

「はい、私は大丈夫ですよ。大丈夫だというのに連れていかれて困っていたところだったので。それより、今のは」

「ちょっと解毒しただけだから、別に変なことはしてないぞ」

「そ、そうですか……っと、ティファ様もおられたのですね」

「うん。とりあえずさ、ヒルフェくんを王様達に引き合わせなきゃなんでしょ?」

「そうです。看護師の皆様、そういうことなので」


 レイがそういうや否や、俺をがしっと抱える。


「えっ」

「あ、レイ様?!ティファ様?!」

「私共は急ぎますので。それでは!」


 抱えられた俺は反応できず、そのままレイに抱えられたまま、どこかに運ばれていく。

 部屋を出る直前、興味全開の看護師さんのまなざしが見えた気がするが、きっと気のせいだろう。

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