第17話 発見は偶然から

 ◇発見は偶然から……?

 ギィィンッ!

 静かな森には似合わない大きな金属音が響き合う。度重なる大きな音に驚いた小鳥たちは逃げていく。

「なかなかやるようになったね!でももっと土地を利用しよう!」

 ルネの攻撃を辛うじてだが凌げるようにはなってきた。俺とルネは力関係が互角なのか、それとも俺の刃の当て方が良いのか悪いのかもよく分からないが、俺達は吹き飛ばされる。

 それでもルネと俺との距離が離れた所はルネの『デュアルヒート』が狙い撃つ……はずなのだが。

「おい、テイラー魔法はどうしたんだ?」

 先ほどからテイラーは幾度も魔法の発動が失敗している。

「テイラーちゃんさっきからどうしたんだろ。さっきは上手くいってたのになぁ……」

テイラーの不調に気がかりに思った俺達は一度稽古を中断し、テイラーへと駆け寄った。

「ご、ごめん、なんか魔法だけを発動すると反って難しくなるんだよね。本当にごめん。あたしのせいで中断させちゃって」

「いや、それは全然良いんだ。寧ろお前の体調とかそういうんじゃなくって良かったぜ」

 テイラーは俺に何とか笑みを浮かべているが、俺はそれ以上テイラーに何を言えばいいのか分からなかった。テイラーは悔し気に俯いたまま、その碧眼には涙が浮かんでいたから。

 ポツッ、ポツッと雨粒が俺の腕に当たる。

「雨だ」

 そう気づいたときには既に大雨は俺らの元へと押し寄せてきていた。

 大雨に飲み込まれた俺達一同は全速力で小屋のあるところへと走り出した。

「はぁはぁはぁ……くそ、びしょ濡れだ」

「はぁはぁはぁ……僕もだよ……」

「はぁはぁはぁ……小屋があっただけでもマシってもんでしょ」

 三人して水浴びでもしたのかと言うほどに濡れた顔をお互い見合わせ俺達は揃いも揃って「フフッ」と苦笑してしまう。

「ルネ、お前濡れると誰かわからないくらい変わるよな?」

「ひどっ!そんな変わらないでしょ。ってかテイラーちゃん、なんか凄いえっちだよね」

「なにえっちって⁉」

「テイラーちゃん、だって自分の服も見てみれば?」

 俺は初めから気づいていたのだが、テイラーの服は濡れた影響で所々服の下が透けて見えているのだ。だから俺は決してテイラーと目を合わさない。殺されるから。

「アンディ、なんで目逸らしてんの?疚しいことないなら目くらい見ようよ」

 無意味でした。俺は即座にこの場から逃げ出そうとするが、靴が濡れていたせいで滑り、顔面からすっ転ぶ。

「他人と目も合わさられないような目は要らないよね?要らないね」

「ま、まてこれは不可抗力だ!俺は悪くない!仮に見たとしても俺悪くないよね⁉」

「見た可能性があるかもしれないからだよ」

「ルネ!おい、ルネ止めろ!お前の撒いた種だぞ!テイラーもストップ!ストッ!」

 そう言いかけたとき時にはテイラーの指は既に俺の目の前に迫って、そのまま俺は目潰しの計に処されることとなった。

 三者三様に他人を謎に蹴落とし合うという構図が発生したが、結局は俺がテイラーにしばかれるという展開でこの事件は幕を下ろした。

 目潰しの痛みが落ち着いてきた当たりで瞼を開けると俺の目はしっかりと機能していた。

 俺は近くにあった椅子に腰かけるとテイラーに魔法のことについて尋ねた。

「それでテイラー、どうして魔法が使えなくなったとか分かるか?」

「それが分かったら苦労しないって言いたいけど、薄っすらと原因は分かってるんだ。多分使わないようにしてるあの魔法が『デュアルヒート』とかに関わってるんだと思う」

 まぁ、そうだわな。そうじゃなきゃ普段は二つの魔法を使用していたものを魔法を一つに減らしたのに難しく感じる理由が無い。

「ルネはこの問題どう考えてるんだ?」

「この世界の魔法には模倣魔法っていうのがあるんだよね」

 なんだよそれ、そんな魔法があるなら初めから言ってくれればいいのに。そうすればテイラーもこんなに悩む必要ないじゃないか。

「でもこの魔法は非常に難度の高い魔法で、上級魔法の更に上に君臨する最上級魔法に属する魔法なんだ。それに模倣魔法は飽くまで模倣であって本物じゃない。だからこそ威力、効果、どれもが本物の劣化版になるっていうぶっちゃけ凄くコスパの悪い魔法なんだよ。でもテイラーちゃんが撃った『デュアルヒート』は間違いなく本物に差し迫る威力だった。だから僕にも全然分からない。魔法を組み合わせでも見た目だけならそれっぽくはなるけど威力ばかりはどうにもならないし……」

 俺はルネの考えが何故かどこか見落としている気がしながらも自分でもそれが分からないまま時間だけが過ぎ去っていく。

「結論を焦って出してもこの雨が止まない限り何もできないし、暫くはのんびりしようよ」

 テイラーはそう言うと、うーんと声を漏らしながら腕を高く上げて伸びをした。

俺もテイラーに倣って体を伸ばしながらふと外に広がっている草原を見た。外の雨は益々を勢いを強くし、小屋に当たる風で小屋全体が響いている。

「こりゃ今日は止まなそうだねぇ。下手したら明日の稽古もどうかなぁ」

 ルネが心配そうに言うのも無理はない。今日の次点でテイラーの魔法、俺の戦い方と問題はまだ残っている。

「この仮に明日晴れても土砂崩れでもなんでも事故が起きてると結構キツイかもな。ルネ、明日の稽古は午前中だけにしないか?」

 このまま二日丸々稽古を行ってなにかトラブルでもあって、回り道でもさせられたら食料が底を尽き兼ねないという懸念があるからだ。それにそうせこの雨の量では明日の午前中に馬車を動かしてもぬかるんだ山道に足を取られて真面に歩けはしないだろう。

「残念だけどそうしたほうが賢明だね」

ルネも渋々ながらだが了承した俺はホッと一息つき、自分のポッケを弄ると探していたギルドカードがあった。雨で濡れたので破けたりふやけたりしてないかと不安ではあったのだが、その程度でどうにかなってしまうような代物でも無いらしい。そうは言ってもギルドカード自体は濡れているので俺は水滴を手で拭い取った。

————権=改竄

(あれ、今俺何か言った?そもそも俺が言っていたのか?)

 その時、俺の視界に数多の数字、文字が視界いっぱいに広がる。

「おうわぁっ‼」

 余りに驚いた光景であったが為に変な声が出て、椅子からもひっくり返り頭を打つ始末。余りの惨状にテイラーとルネもドン引きの様である。

「ど、どしたん?アンディ君。頭大丈夫」

 多分俺の頭の怪我は無いかと心配してくれてるんだと思うが、この際だと本当に俺の頭の中身ヤバくねと言われてる気がしてならない。まぁ確かに頭はヤバいかもしれないな。

 事実、俺の目の前には依然として数字と文字が表示されている。いや、これは唯の数字と文字ではないこれは全て俺のギルドカードに書かれている内容だ。

「おい、ルネ、今目の前にステータスが見えるだろ」

「何言ってるのアンディ、そんなもの何も無いでしょ」

 テイラーは俺の視界に映る物が見えていないらしい。

「待って!アンディ君見えるの?ステータス」

 俺はゴクリと唾を呑み込みながら頷く。

「どうやって、どうやったらそれ、そのステータス見えるようになった?」

 話が滞るルネからは俺のこの事態が如何に異常なことかが窺える。

「さっき、ギルドカードを指で拭ったら見えるようになった」

 俺はそう言って、視界に映る色々なステータスに手を翳した。だが実態の無いものには当然触れることはできない。それでも俺が手を翳し続け、『クラス』のところへと手を動かすと突如画面に変化が出た。

「ルネ、クラスのところに手をやったらなんか『ブレーダー』ってのと『NPC』ってやつが出てきたんだけど……」

「僕に訊かれてもこんなこと初めてなんだから分かるわけないでしょ。とりあえず『ブレーダー』で良いと思うけど……」

 誰もこの先の展開は分からないが、俺はええいままよと『ブレーダー』を選択する。

 すると、俺の視界には何も無くなっていた。

「どうだった……?」

 テイラーが恐る恐る俺に訊くが答えは何も分からない。俺は慌てて自分のギルドカードへ視界を戻す。


 アンドリュー・アインザック

 クラス:ブレーダー

 Lv.45

 体力:50 攻撃:46 防御:65 スピード:52 スタミナ:54 魔力:0


 なんかめっちゃ強化されてるんですけど……

「アンディ君、めっちゃ強化されてるし。それでテイラーちゃんできそう?」

「いや。全然できないよ。アンディどうやってやった?」

 俺はテイラーに手で拭くように動かすだけだと説明し、テイラーもその通りにやるが一向に出来る気配が無い。

「ちょっと貸してみ?」

 俺はそういってテイラーのギルドカードを借りるとさっきのように手を動かしていると、

「ギヤァッ⁉」

 っというマンドラゴラのような悲鳴に横を振り返るとそこにはテイラーが尻もちを付けていた。

「おい、テイラー大丈夫か?今なんか凄い雄叫びが聞こえたんだけど」

「だ、大丈夫。それより出てきたよ!これがアンディの言ってたやつだね」

 テイラーは一瞬赤面していたが、それ以上に目の前の光景への驚きにその全てを持っていかれていた。

「えーっと、ソーサラーを選択で良いんだよね?」

 テイラーは俺がしていたように手を動かして、クラスの変更を行う。

 テイラーがクラスの変更がずっとできなかったのは何故なのだろう。やはり、俺のラプラスの眼が関係しているのか。何にしても終わり良ければ全て良しとも言うし、また暇なときにでも考えることにしよう。

「——これでよしっと。多分、もう終わったと思う」

 俺達は集まって、テイラーのギルドカードを確認する。


 テイラー・クランド

 クラス:ソーサラー

 Lv.40

 体力:30 攻撃:35 防御:28 スピード:38 スタミナ:36 魔力:90


「魔力高すぎだろ!他の能力値は低いのに魔力だけ可笑しくない?」

 俺はその数値の高さに誰もが思うだろう本音をぶちまけた。

「ソーサラーは基本的には魔力は高くてそれ以外の能力は低くなる傾向があるけど、確かにここまで差が出てくるのは珍しいかも。でも魔力が高ければ、それを利用して肉体の強化もできるからその辺は安心していいと思うよ」

 え、マジで?俺魔力以外は全部俺の方が高いぜ。って思ってたのにここから更に高くなるの?レベルも同じだったら完全に力負けするやんけ。

 そうなったら普段は蹴られても極められても耐えられる俺もそうなってしまえば死ぬやもしれない。これからは細心の注意が必要だな。

「ところで君らもプレイヤーになったことだし、なんか視界に変わったものが見えるようになったりしてない?」

「なんか見えるか?俺はさっきまでと何も変わってないんだけど」

「あたしも何も見えないし、さっきまでと変わりはないよ」

俺もテイラーも目の前には何も変化はない。ルネは俺達の様子を見ると少し残念そうな顔を見せた。

「そっかぁ、そりゃ残念。もしかしたらそこから色んな確認とか期待してたんだけど。そうすれば二人の強みをもっと引き出せると思ったんだけどなぁ」

 ルネやテイラーだけじゃなく、俺もいつもよりマイナスな思考になってる気がする。雨だと気が憂鬱になるとよく言うけど、それは思い込みだと思ってはいたけど、意外と間違ってないのかもなぁ。

「そうだ、アンディはちょっと外出てってくれない?」

 え?と俺はテイラーからの突然の追放宣言に困惑する。

「待って、俺何かした?追い出されること何もしてなくない?」

「あたし達着替えるから出てけって事」

 それなら納得だ。暫く馬小屋にでも居て、馬と一緒に温まっていよう。

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