第9話 ラッキーすけべの通り雨

 丹後くんは色んなことを教えてくれた。


 妹ちゃんがいること、中学生の頃は剣道部だったこと、カレーライスが好物だということ、実はダンスに興味があること、暇なときはYouTubeとかを見ているということ。


 特に妹ちゃんの話は多かった。

 手を焼いているけれど大好きなんだということが伝わってくる。

 せっかく得た丹後くん情報を忘れないようメモを取りたかったけど、さすがに引かれそうなのでやめておいた。


「あっ……」


 丹後くんが窓の外を見て驚いた顔になる。

 振り返るといつの間にか雨が降り出していた。

 通り雨らしく雨脚は結構強い。


「洗濯物取り込まなきゃ」

「手伝うよ」

「ありがとう。助かる」


 ベランダに出て急いで取り込む。

 早くしなくちゃせっかく洗濯したのにびしょ濡れになってしまう!


「取りあえず部屋の中に放り込んでくれたらいいから。あとは私が畳むんで」

「分かった」

「あ、それはっ……」


 丹後くんは下着をまとめて干しているハンガーに手を伸ばしていた。

 さすがにそれを見られるのは恥ずかしすぎる!


「それはいいから!」


 慌てて阻止しようと飛び込んだ。


「わっ!?」

「へ?」


 勢い余って丹後くんにぶつかる。

 丹後くんの手はムギュッと私の胸を掴んでいた。


「きゃああっ!?」

「ご、ごめん! 急いでたから、つい」

「ううん。いきなり飛び出した私が悪いから」


 おっぱい、触られちゃった……

 でも私よりも丹後くんの方が顔を真っ赤なんじゃないだろうか?

 そう思うくらい、赤面していた。


「大丈夫!? なにがあったの奏!」


 ドンドンとドアを叩く音が聞こえる。

 しまった……

 隣の部屋で蘭花さんがこちらの様子を伺ってくれていたのを忘れていた。




「それはとんだラッキーすけべだったね」


 事情を説明すると蘭花さんはニマニマと笑って私たちを見る。


「ラ、ラッキーすけべって……あれは事故ですから!」

「そうですよ。丹後くんはそんな疚しい考えなんてない人です!」

「そもそも一瞬でしたし、本当に胸を触ったのかも分かりませんから!」

「でも柔らかかったんでしょ?」

「そ、それは、まあ……」


 つい勢いで答えてしまったのだろう。

 丹後くんは口を押さえて顔を赤くした。


 蘭花さんはこうやって相手から本音

 を吐き出させるのが上手い。

 私もこんな作戦で丹後くんが好きだということを白状させられた。


「奏はこんな清楚な顔して結構おっぱい大きいから」

「ちょ、蘭花さんっ」


 丹後くんはもじもじしながら横目でチラッとこちらを見てきたので咄嗟に胸を隠す。

 ……やっぱり男の子は大きい方が嬉しいのかな?

 バストアップマッサージをあとで検索してみよう。


 一騒動を経て、ようやく突如現れた蘭花さんが何者なのかを丹後くんに説明した。


「なるほど。蘭花さんは奏さんのお姉さんみたいな存在なんですね」

「はい。改めまして、隣の部屋に住んでる右京うきょう蘭花です。よろしくね」

「大学生なんですか?」

「そう。大学二年生だから君たちの三歳年上ということになるね」

「よろしくお願いします」

「こちらこそ。丹後くんのことは奏からよく聞いてます」

「奏さんから?」

「もう、蘭花さんっ」


 思わず声が上擦ってしまった。


「奏が感情を表せるようになるのを手伝ってくれてるんでしょ?」

「はい。俺なんかに出来るのか分からないけど、奏さんと一緒に頑張ってます」

「優しい! よかったね、奏」


 蘭花さんは心底嬉しそうな目をして頷いている。


「私も心配していたの。この部屋だと多少表情も変化があるんだけど、一歩外に出ると顔が固まっちゃうから」

「やっぱり。俺も思いました。この部屋にいるときはいつもより表情が豊かだなって」

「自分では自覚ないんだけど。たぶん落ち着くからなんだと思う。実家にいるときよりもこの部屋の方が落ち着くし」

「それなら頻繁に丹後くんに来てもらえばいいんじゃない? いきなり外で表情豊かにするっていうのも難しいし、まずはこの家で慣らしていくの」

「で、でも一人暮らしの女の子の家に頻繁にお邪魔するっていうのは……」

「それがいい。丹後くんに来てもらえると私も助かる」

「そ、そう?」


 丹後くんに色々料理を食べてもらおう!

 それに一緒に映画を見たり、たまにお散歩に行ったり。

 雰囲気がそうなれば、その、キスくらいなら……


「どうしたの、奏さん? ぽーっとして?」

「ううん。なんでもない」


 危ない。また妄想が溢れてしまっていた。

 他の人なら見逃すところでも丹後くんは私の心の中を読んでくるから気を付けないと。


「ところで丹後くん、彼女はいるのかしら?」

「い、いえ……いません」

「カッコいいからモテるんじゃない?」

「まさか。生まれてこのかた彼女なんていたことないですよ」


 蘭花さんは私が聞きたくても聞けなかったことをぐいぐい質問してくれる。

 丹後くんはたじたじだ。


「本当に?」

「ほ、本当ですっ……てか顔近いですよ、蘭花さん」

「蘭花さん、丹後くんが困ってます」


 二人の顔がくっつきそうで焦る。

 蘭花さんは私の顔を見てニヤニヤ笑っていた。

 絶対わざとだ。

 蘭花さんはたまに意地悪でこんなからかいをする。


 でもまあ、うまく丹後くんをこれからもこの家に誘いやすくしてくれたから許すとしよう。




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いつも応援ありがとうございます!


たくさんのフォローや★を頂き、カクヨムのサイトを開くたびに嬉しくなります!


まだ物語は序盤も序盤なのでこれからどんどん二人の関係も深まっていきます!


丹後くんはあの手この手で奏さんを笑わせにいきます。

そして奏さんはどんどん妄想を膨らませていきます。


お互い相手が自分のことを好きだと知らないまま悶々と片想いを募らせていく二人を、これからも生温かく見守ってあげてください!


そして皆様のフォローや★、感想で悶々と書き綴る作者を励まして頂けると嬉しいです!


今後ともよろしくお願いいたします!

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