第32話 これが絆パワー!

「はあ!? 人を操る魔法!?」

「そうだ。私たちは今からその野郎をシバく」


 実際の所男か女か知らないから、野郎じゃないかもしれないけどシバく。

 ここはいわゆるミーティングルーム。またの名をうちの隊のたまり場。私の説明に、団員が口々に不安そうな声をあげる。


「そんなのイザベルの姉御が操られて、人類には手に負えない最終兵器が生まれるだけですって!」

「そうですよ姐さん! 暴走暴力モンスターゴリラ女が爆誕するだけですって!」

「心配するなジャン、カルロ。私は操られない。というか今ドサマギに私を罵倒しただろコラ!」


 とりあえずジャンとカルロの頭を一発ずつ殴っとく。


「――ブベッ!? 勘弁して下せえ……。一応聞いときやすが、根拠は?」

「気合いだ」

「は?」

「気合があれば操られない」


 そうはっきりと断言してやる。

 根拠はない。だけど自信ならある。なぜなら私は鍛えてるから!


「で、具体的な作戦はどうするんですかい?」

「それは僕から説明しよう」


 特務騎士団ジョーカーの中では、私と並んで賢い部類のローレンスが前に出る。極度のめんどくさがりだが、その魔導鎧マギアメイル鍛冶師スミスの腕と、とっさの機転から団員の信頼は厚い。


「地図のこの点とこの点とこの点。以上三点を結んだ三角地点で、不可解な同士討ちが多発している。敵は言うなれば蜘蛛の巣みたいなものをここに張っていると僕は推定している」

「その巣をどうするんですかい? 焼き払う?」


 さっと視線がアンナに集まるけれど、アンナは首を横に振って否定を示す。


「そんな事をしては逃げられるだけですの。そうしたら最後、敵はゲリラ的に攻撃を仕掛けて来るだけ。ダイヤモンド騎士団を壊滅に追い込み、慢心している今こそが狩り時ですわ。でしょ、お姉様?」

「アンナの言う通りだ。我が騎士団の選抜部隊は、この巣にあえて突っ込む。そしてシバく。残りは巣を囲むように待機だ。以上! レッツゴー!」



 ☆☆☆☆☆



「A地点を通過。そろそろですぜ」

「そうか。各員警戒!」


 選抜部隊はジャン、カルロ、アンナ、そして当然私を含む七機だ。陣形を組んで警戒しつつ、薄暗い森の中を進む。


「案外敵さんも、もう移動してるんじゃないですかねえ?」

「油断するんじゃないよ。敵はそんな時を――!?」


 私はゾワッとした悪寒を感じて飛びのく。

 何かいる。こっちを見てやがる。


「どうしたんですか姐さん?」

「何かいるよ! 警戒――ッ!? 攻撃!?」


 背中に魔法攻撃を受けてつんのめる。

 火属性の魔法、後ろには〈ピンクピンキー〉、……これは!


「アンナ!?」

「ちっ、外しましたか」


 操られたか。それに魔法まで使わせれるとは厄介な。


「あんたら、アンナを取り押さえるよ! ――うわっ!? ジャン、カルロ!?」

「命もらいやすぜ、姉御」

「首をいただきますよ、姐さん」


 私に向かって剣や槍を突きつける、ジャン機やカルロ機を始めとした五機の〈ストネリオン〉。ちぃ、私以外は全員かよ!


『よくかわしたもんだ。だけどこれで君は部下と戦わねばならなくなった。悲しいねえ“鉄拳令嬢”』


 森に男の声が響き渡る。その声音はまるで紳士みたいだが、隠し切れない品性の下劣さが垣間見える。


「誰だ! 姿を現せ!」

『姿を現せと言われて出てくる人間はいないよ。でも名前は教えてあげよう。僕はクラウディオ様配下にして西方三魔将の一人、アマドル。”絶対催眠”のアマドルだ。どうぞよろしく』


 声は森中から聞こえてくるようで、位置を掴めない。これも魔法か……!


「食らえ!」

「――クッ!」


 そうしている間にも、操られたジャンたちはこちらに攻撃してくる。

 クソッ、どうしたらいい……?


『悩んでいるねえ“鉄拳令嬢”。でも誰だってそうさ。友人、家族、恋人、仲間。誰だって自分と関係の深い人間と対峙すると困惑する。悲嘆する。苦悩する。どんな剣士だって剣が鈍るし、どんな魔法使いだって呪文を唱えられなくなる』

「うるせえ! ――ぐわっ!?」

「《火炎》……」


 今度はアンナの魔法が飛んでくる。殺しに来る一撃だ。状況は六対一。”絶対催眠”とか騙る術者を潰したいけれどその居所もつかめない。最悪だ。


『ああ、とんだ悲劇だ。でも僕はあらゆる演劇の中でも悲劇が大の好みでね。今とてもワクワクしているよ。さあ“鉄拳令嬢”。君はこの悲劇に、どうやって幕を降ろすのかな?』

「下衆が……!」


 まったく陰湿な野郎だ。

 どうす……いや待て?


「なあ、襲ってくるならみんな敵だよな?」

『え?』

「「「え?」」」

「そんな難しく考えず、ここにいるみんな叩きのめせばよくないか?」

『え?』

「「「え?」」」


 そうだよ。難しく考えすぎだ。全員叩きのめした後で、ゆっくりアマドルとかいう奴を探せばいい。


「そうですわお姉様! さあ、私にキツイお仕置きをしてくださいまし!」

「よし、お前らも納得してくれたか! オラアッ!」

「ごふっ……、見事な一撃ですわ……」


 〈アイアネリオン〉の一撃を受け、〈ピンクピンキー〉が大地に沈む。腹には貫通した穴が空いた。悪いね、アンナ。


「さあ次はジャンの番だ」

「ま、待ってくだせえ! 同意したのはドエムのアンナだけ――ごふっ!?」


 ドサッと崩れ落ちる〈ストネリオン〉。やはり腹には拳が貫通した穴があく。


「さあ次だ……」

「あわわわわわ……! お助けえっ!」


 そしてすぐに、六体の魔導鎧が薄暗い森の中に横たわることになった。


「さあ、もう操り人形はいないよ。そこだ! 《閃光回し蹴り》!」

『ぐわっ……!』


 私の回し蹴りで木々が刈り取られ、黒色のコウモリみたいな魔導鎧が姿を現した。周囲の騒めきがなくなれば、気配けはいで位置を読むなんて容易いもんよ。


『それにしても驚いたよ“鉄拳令嬢”……。自分の部下を躊躇ちゅうちょなく手にかけるとはね……』

「手にかける? 何言ってんだ? 私は魔導鎧のを破壊して、行動不能にしただけだよ。ついでに衝撃で気絶させて、洗脳を解いただけさ」

『背骨……!? 馬鹿な……!?』


 魔導鎧の背骨部分には、魔力を全身に送る重要な器官がある。そこを破壊してしまえば、魔導鎧は糸の切れた操り人形だ。私は操縦席を避けて、その部位をピンポイントに拳で貫いたってわけ。みんなちゃんと無事だよ。


「馬鹿だねアマドル。手下をちゃんと用意しておけば、この私に勝てたかもしれないのに」

『馬鹿め、他人なんて信用できるか! しょせん人間は目先の利益で動く! この僕が信用できるのはクラウディオ様ただお一人だけさ!』

「それがあんたの敗因さ。人を信用できない人間は、誰からも信用されない!」

『ぐぬぅ、生意気な事を! 食らえ《かげの糸》!』


 アマドルの魔導鎧から、何か黒い糸みたいなのが伸びてくる。これがみんなを操っていたカラクリか!


「効かないよ! 鍛えてるからね!」


 私は容易く回避すると、懐に入り込む。


「一応トーレスの野郎の分、魔導鎧の修繕費の分、そして何より私の大切な仲間を弄んだ報いだ! 食らいな! 必殺《黄金のゴールデン鉄拳アイアンフィスト》!」

「ぐわああああああっ!?」


 コウモリ染みた姿をもつ黒い魔導鎧は、バラバラにはじけ飛びながら森に散った。下品な野郎にはふさわしい末路だ。犬のエサにでもなりな。


「これが私たちの絆パワーだ! ……さてと、あいつらをかついで帰るか」

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