第26話蛇:私は泣いていた

 私は泣いていた。

 どこかわからないところで泣いていた。

 私はどこに行けばいいのかわからない。


「もしもし」


 私はどうしたらいいのだろうか?

 このままここで泣いていてもダメだ。

 だからといって、行くあてはない。


「もしもし」


 あーどうしよう?

 もう無理だ。

 死ぬしかないのか?


「もしもーし」


 もし死ぬのなら、もっと楽しく生きたかった。

 たくさんおハンバーガー、たくさんのあやとり、たくさんのお話。

 でも、もう無理な話。


「もしもし、と言っているだろうが!」


 私は後頭部を殴られ、反動で前頭部を地面にぶつけた。


「?!?」

「人の話は聞くように教えられなかったのか?」


 私は涙目になりながら見上げた。そこには神主の格好をしたおじいさんがこぶしを握って睨んでいた。


「だ、だれ?」

「わしはここの神社の神主じゃ。お嬢ちゃんこそ誰じゃ?」


 更に目が厳しくなった。


「わ、わたしは樫あや。小学生です」


 私はおどおどしながら答えた。


「ふじあや、か。お嬢ちゃん、こんなところで何をしておる」


 私は周りを見た。どうやら、神社の境内で鳥居にもたれて泣いていたらしい。


「か、かみさまにおいのりを」

「うそをつけ。こんなところにおらずに、さっさと帰りなさい」


 睨みながら強く言った。


「嫌だ。帰りたくない」

「ん? なぜじゃ?」

「家に帰っても、居場所ないもん」

「親と喧嘩したのか?」

「親はいないの。誰かに殺されたの」


 神主は睨みながら私の頭に手を伸ばした。私は怖くて目をつぶった。神主は私の頭を強く握ってこう言った。


「来たくなったらいつでも来ていいよ。だが、家には帰りなさい」


 ――翌日も学校帰りに神社に行った。

 神主はあいかわらず目が怖かった。

 私はあいかわらずその目が怖かった。


「お嬢ちゃん、妖怪が見えるのか?」


 私は自分のことを言うと、そうすると、神主は驚いた。


「はい。それで、周りから気味が悪いと言われています」


 私の言葉を聞いて、神主は黙った。おそらく神主からも気味が悪いと思われた。 私はショボンとした。


「お嬢ちゃん、見てみたまえ」


 私は神主の方を見た。神主は手のひらに炎を出していた。


「すっごーい。どうやってるの?」

「手品じゃよ」

「えー、やり方教えて教えた」

「……と、他の人に言っている」

「……え?」


 言っていることがわからなかった。


「この炎は手品でも何でもないんじゃ。わしの能力じゃ」

「のうりょく?」

「ああ、わしもお嬢ちゃんのように妖怪が見える。そして、特別に炎の能力を持っている。」

「えー、すごい!」

「すごいじゃろ?しかしな、そのせいで昔から嫌なことばかりじゃった」

「いやなこと?」

「お嬢ちゃんと同じように、周りから気味が悪いと言われた」

「おじさんも?」

「ああ。それにな、この炎の能力のこともあって、いろいろな妖怪の退治をしてきた」

「ようかいたいじ?」

「そうじゃ。世の中良い妖怪ばかりではない。悪い妖怪もいるんじゃ。だから、そんな悪い妖怪からみんなを守るために、退治するんじゃ」

「すっごーい。おじさん、ヒーローだ」

「そんなカッコいいものではないぞ。いつも怪我ばかりで、カッコ悪いぞ」

「そんなことないよ。すごーい」


 神主の厳しい目は、すごく優しく見えた。

 ――あるすごく雨が降る日だった。

 私はいつものように神主に会いに行った。

 私は境内に入った。

 そこは一面、炎が広がっていた。雨のため、だいぶ小さくなっているが、それでも火事騒ぎの炎だった。


「これは?」


 と思う私の前に神主がいた。神主が妖怪を退治しているのだと思った。私は神主のカッコイイところを見れるとワクワクした。

 神主は手から炎を出した。妖怪らしき物体は炎に包まれて、苦しそうに唸っていた。頑張れ、あともう少しだ。

 その妖怪は苦しみながら私と目があった。それは私の方に突っ込んできた。激しく血が舞った。

 目の前で神主の体が貫かれていた。


「お、お……」

「お嬢ちゃん、大丈夫か?」


 神主は私を身を呈して守ってくれた。


「おじ……さん……」

「泣けるではないか……感情が戻って良かったな」


 その目は優しく穏やかだった。


「おじさん……」


 おじさんは木っ端微塵になった。

 わたしは目を見開いた。

 おじさん……


「お主、また会ったな」


 そこには大きな蛇がいた。


「あ、あ……」

「久しぶりだのう。あの時はお前の親のせいで逃げられてしまったが、今度はそうはいかん」


 わたしは体を絡まれた。


「お主に近づいて、周りのものを殺してから確実に殺そうと思ったのに、まさか逃げられるとはとんだ失態じゃった」


 わたしは体を動かそうとしたが、締め付けられるのみだった。


「お主のような強力な妖力を持つ者は、確実に殺しておかなければならないな」

そういうと、蛇の妖怪は私の心の臓をしっぽで確実に貫いた。そして、体を次々に粉々にしていった。わたしは確実に殺された。



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