第14話カエル:少年の話

 少年は口を開いた。

 重い口を開いた。

 口から出たのは彼の話だった。



 俺は学校で浮いていた。周りに友達がいなかった。どうもうまくいかなかった。

特に勉強ができるわけでもなく、特に運動ができるわけでもなく、特に秀でた特技があるわけでもなかった。

 しかし、それは俺が浮いている理由にはならない。取るに足らない人間であるだけである。では、なんでクラスで浮いているのだろう?

おそらくそれは、性格の問題だろう。俺は典型的な調子乗りである。それは典型的な嫌われ者の性格である。

 俺は普段はおとなしい人間なのに、すこしうまくいったらすぐに調子に乗る。テストでいい点を取ったらそのテストの答案用紙をわざと人の見える所に置く。すぐにカバンの中にしまえばいいのに出しっぱなしをする。次のテストが返ってきても過去のテストの自慢をする。そうこうしているうちに、クラスから浮いていしまった。

 なぜそのようなことをしてしまったのだろうか?それはおそらく、おとなしかった反動だろう。普段おとなしくしていたから、珍しく自分が目立つ場面になったら嬉しくなってしまったのだろう。それでもっと褒めてもらおう、もっと目立ちたいと思って調子に乗ったのだろう。今にして思えば、馬鹿だった。

 俺はただのおとなしい人間から、調子乗りの嫌われ者になった。進級しても、中学校に上がっても、その悪い噂が付きまとう。そして、これも俺の悪いところだが、その悪い噂を受け入れることができなかった。それを過去の恥ずかしい出来事として笑い話に出来たら違っただろう。そしたら友達ができただろう。しかし、俺はそれができないおとなしい人間だった。体だけ成長して、中身は成長しなかった。

 おれはこのままクラスで浮いたまま暮らしていくのか。嫌だとも思わず変えたいとも思わず、なんとなくフラフラと学園生活を送っていた。

 そんなある日のことだった。

 俺はカエルに出会った。

 それは俺が河川敷でぼんやりしていた時だった。

 俺は放課後に特にすることがないので、河川敷で時間を潰していた。すぐに家に帰ってもいいのだが、家でも特にすることがなかったので、同じようなものだ。そんないつもと同じ河川敷生活だった。

 すると、俺の近くにカエルがやってきた。俺は気持ち悪いと思った。というのも、なんかその造形やヌルヌルした感じが苦手であった。小さい時はなんとも思わなかったが、中学生になって久しぶりに近くで見たら苦手であった。そこは成長したことになるのどろうか?

 俺は近づいてきた1匹のカエルを避けた。しかし、そのカエルは再び近づいてきた。俺は再び避けた。しかし、そのカエルは……

 俺は結果的に、カエルと戯れたような気がした。ハァハァと肩で息をして、カエルと目があった気がした。そんなわけがないのに。

 その翌日も河川敷に行った。それはいつもの習慣だった。そこに新しい習慣ができた。カエルと戯れることだ。

 俺は来る日も来る日もそのカエルと戯れた。おそらく、いつも同じカエルだったのだろう。さすがに見分けができてきた……と思う。

 俺はクラスの浮いていた存在だから、こうして遊んでくれるものがいることは嬉しかった。もしかしたら、そのカエルもそうだったのかもしれない。となると、そのカエルも仲間たちの中で浮いていたのか?

 そんなことを考えたりしていたとき、俺は足を滑らした。やばい。川に落ちる。水があまりなかったから浅そうだ。打ち所が悪かったら大怪我だ。それに俺は泳ぐのが苦手だ。浅いとしても、泳げなかったら危ないかも知れない。そもそも、本当に浅いのか?もしかしたら、めっちゃ深いのかもしれない。深かったら、怪我はないが溺れてしまう。どっちみち川に落ちたらやばい。というか、なんでこんなにこんなに考えているんだ? 頭の回転が早すぎるだろ。あれ? もしかしてこれは走馬灯?

 俺の鼻の前に水面がついた。

 俺は目を閉じた

 ……

 あれ?

 体が濡れてない?

 俺は恐る恐る目を開けた。

 そこには、先ほど同じ光景が見えた。目の前に水面があり、鼻の先が水面についていた。これはどういうことだろうと体を動かしたが、何かが変だ。なんというか、安定感がないというか、掴むところがないというか、手足がフラフラしていた。俺の足はどこにもつかないし、手は何も掴まなかった。体は宙に浮いていた。

そんな時、意外と冷静だった。普通なら混乱して体をバタバタ動かし絶叫するのかも知らないが、そんなことはなかった。ただ単に「浮いているんだな」と思っただけで、体は動かなかったし何も声を出す必要を感じなかった。

 そのまま中を移動して、河川敷の草の上に落ちた。カエルがいた。俺はバカなことを口走った。


 「これはお前の能力か?」


 カエルはケロッケロッと言ったのかフロッグフロッグと言ったのかは知らないが、肯定したような気がした。俺は再びそのカエルと遊び始めると、カエルは飛んだ。跳んだのではなく飛んだ。宙を飛んでいた。

「やっぱりお前の能力か」

 俺は宙を浮かぶカエルを見ながら呟いた。俺のつぶやきは空に浮かんで消えていった。カエルは笑顔を浮かべた。

 カエルはケロッケロッと言ったのかフロッグフロッグと言ったのかは知らないが、何かをしたような気がした。すると、再び俺は宙に浮かんだ。俺は宙に浮かんだ。カエルと一緒に宙に浮かんで笑顔を浮かんだ。

 そんな夢のような出来事をして浮かれていた翌日、学校に行くと周りが奇異な目で見てきた。俺は嫌われ者だから変な目で見られることは慣れていたが、今日は少し違った。すると、クラスメートが数人近づいてきた。


「お前、宙を飛んでみろよ」


 俺は嫌な顔をしたと思う。


「何を言っているの?」


「お前が昨日、急に浮かんでいるところを見たんだよ」


 俺はうかつだったと思った。


「いや、そんなわけないだろ」

「いーや、お前は宙に浮かんでいた」

「なにかの見間違いやろ」

「見間違いじゃないよ。俺はお前が空を飛んでいるところを見たんだよ」


 こいつ、うるさいな。


「だ・か・ら、飛んでない」

「飛べといっているだろ」


 バシっと俺は叩かれた。なぜ?意味がわからない。


「痛いじゃないか」

「お前が空を飛べることを認めないからだ」

「だから、飛べないって」

「うそつけ。さもないと、俺が嘘つき呼ばわりになるんだよ!」


 俺は理不尽だと思った。俺は空を飛べることを自慢したわけでもないのに、トラブルに巻き込まれた。しかも、目の前のコイツの勝手な言動のせいで。


「だから、知らないよ」


 俺はそれでも知らないことにした。もし認めてしまったら、いろいろとややこしいことになることはわかりきっている。だから、認めない。


「認めろと言っているだろ!」


 そいつは再び殴りかかってきた。だから俺は正当防衛に出た。互いに殴り合いのケンカになり、駆けつけた先生に咎められた。

 その後の俺はクラスでさらに浮いた存在となり。特に喜ばしくない中学生活を送った。そして、中学を卒業して高校に行った。今度はもっとかしこく暮らそう。

俺はそう思った



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