青き親友

戦場、それは平和な国にはゲームでしか感じることができない。

感じるどころか楽しみとしか認知されていない。

怪獣被害も同じ、怪獣が現れなければ子どもにとっては遊びの道具でしかない。


そんな中現れたのはロボット型の怪獣。

いや、正式に怪獣と言って良い物か。

それはまるでアニメに登場する2足歩行型兵器を彷彿ほうふつとさせ、青いボディは月の光を吸収するようにしてビームライフルを構えながら夜の街を徘徊していた。


そのコクピットには少年が乗っている。

彼はこの現状を楽しんでいるようだ。


「ブルージョー、今日も怪獣退治頑張ろうね」


『もちろんだじょう、俺達ならどんな怪獣でも勝てるさ』


少年の声に応え、ブルージョーと呼ばれたロボットは声を発する。

2人が会話をしている間に、怪獣がビルを突き破り咆哮を上げた。


「怪獣だ。ビームサーベルで仕留めるよ」


バックパックからビームサーベルを取り出し黄色の刃を形成、ブースターで一気に距離を詰める。


「狙いは怪獣の首!」


体にひねりを掛け、首を両断したブルージョーはビームサーベルを収納し、光になってどこかへ消えた。



次の日、〈ジライヤ〉本部ではこのロボットについて議論されていた。


これは味方なのか敵なのか、誰が操縦しているのかそれとも無人機なのか。


「我々はこのロボット兵器が1軒の家から出現していることを突き止めた。もしかしたら宇宙人が潜伏している可能性がある。じん隊員、岩歯がんば隊員、調査を頼む」


「「分かりました」」


陣高美じんたかみ、人造ストロングマンの変身者であり、保育士をしていた30代前半の女性。


岩歯雷がんばらい、メカニックを担当する太り気味な40代の男性。


この2人でパトロール用の車〈アンナイ〉に乗り込み、目的の住宅街へ向かうのだった。


一方で丈は夜の戦いで疲れが出たのか、授業中居眠りをしていた。


それに気づいた教師が彼を起こすと、隣の席の女子が、ため息を吐いた。


昼休み、体育館裏で手に持ったブルージョーと名付けられたロボットを見つめる丈。

戦いの達成感と誰にも褒められない孤独感。

少年にとってこの感情は寂しさ、虚しさだろう。


「僕は頑張ってるよね。ブルージョー」


『今更だな。丈はみんなのために怪獣を倒してるじゃないか。自信を持って良いんだぞ』


ブルージョーの言葉に勇気付けられた。

しかしその話を聞いていたいじめっ子ら3人がこちらを睨みつけて来た。


「おいおいなんだそのプラモデル」


「そんな喋るおもちゃなんて宇宙人の兵器に決まってらぁ」


そう言って「宇宙人」とリズム良く連呼される。


『あんな奴らに構うな。守られる立場の人間には分からないのさ』


「なんだと! 2人共、宇宙人にやられる前に壊しちまおうぜ」


いじめっ子らは丈の周りを囲み、ブルージョーを取り上げようとする。

だが突然青きロボットが光り出し、彼を取り込みながら巨大化するのだった。



住宅街で情報を集めていた高美と雷は巨大ロボットの出現を確認し、〈アンナイ〉に乗り込んで学校に向かう。


「まさか学校に現れるなんて」


「怪獣は気まぐれでどこでも出てくる。だからこそ〈ジライヤ〉があるんだ」


アクセルを踏み込み加速する車の中で、彼女は変身の準備を行う。

その時一角獣を思わせる白き怪獣デルタホーンが現れた。


体の1部分に赤い数字の羅列をオーラとして纏い、短く瞬間移動しながら学校に向かって行く。


「あいつ、青い奴を仕留めに行きやがった」


「このままだと学校の人達が危ないわ。岩歯さん、住民の避難を任せて良い? 私は怪獣を倒す」


高美は人造ストロングマン、ダゲキに変身する。

筋肉質な黒いボディ、半月を感じさせるランプの様な眼、黄色のラインが体に刻まれ、頭には鶏冠があり、5つの穴が存在する。


「学校はやらせない!」


腕の筋肉を強化し、怪獣に殴り掛かる。

しかし、瞬間移動で後ろを取られてしまう。


(しまった!?)


デルタホーンは高美の隙を突き、角で背中を貫きに掛かる。

その時だった。


ビームライフルから放たれたビーム弾が角を破壊し、悲鳴を上げさせた。


ブルージョーは彼女にブースターで近づき、背中を預ける形になる。


「君もあの怪獣を倒しに来たの? なら協力してやっつけようよ」


少年の声に巨人は驚きを隠せなかった。


(このロボットに子どもが乗っているの。もしそうなら早く脱出させないと)


戦いに子どもを巻き込ませる訳にはいかない。

そんな考えから言葉を数秒で導く。

ここで間違えた選択をすれば少年を死に追いやる可能性だってあるのだから。


「あの怪獣をあなたは倒せるから協力を持ち掛けたのよね?」


「もちろんだよ」


自信有り気な彼に、高美はデルタホーンの姿を再確認する。


「なら避難してる人達の支援をお願いできる? 怪獣から人を守るのも戦える者の役目じゃないかしら」


これで納得するか分からない。

しかし子どもの扱いには自信がある。

きっと分かってくれるはず。


『騙されるな丈。怪獣をすぐに倒せば避難なんてしなくて済む話だろう』


「それもそうだね。悪いけど、怪獣は先に倒させてもらうから」


ブルージョーの口出しに策略は崩され、丈はビームライフルの銃口をデルタホーンに向け、トリガーを連続で弾き、ビーム弾を次々と的確に当てていく。

流れ出す血を振るい、怪獣は口からデータの粒子をロボットに向けて放つ。


「危ない!」


危険を察知した彼女は彼らの盾に成り、膝を着く。


「ロボットさん………私はあなたより戦い慣れしていないわ………でもね………人を守ること………それができない人に………怪獣と戦う資格なんてありはしない!」


再び放たれるデータの粒子。

対して両腕の筋肉をさらに強化し、突っ込んで行く。


粒子の痛みに耐え、顔に強烈な拳を浴びせる。

さらに吹き飛ばされるデルタホーンの後ろに高く飛び上がり着地、尻尾で背中を殴打、勢いが制止され、倒れさせる。


そして鶏冠の5つの穴にエネルギーをチャージし、口に伝達させる。


「パワードキャノン! 5連打!」


口を大きく開き放たれる光の破壊弾。

次々に撃ち出される光弾が命中し、デルタホーンは爆散した。


数字の粒子が雲へと登って行き、雨が降り始める。


変身を解除した高美はブルージョーを見つめ、走って近づいて行く。


「早くそこから出て来なさい! そのロボットはあなたを戦闘兵器として利用しているのよ!」


「僕はそんなにバカじゃないんだよ。自分の意思で戦ってるんだ。行こうブルージョー」


ブースターを起動し、丈は自宅へ飛んで行く。

彼女は雷に電話を掛け、後を追いかけるのだった。

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