小さな学校

ARuTo/あると

第1話

 僕が何者であるか、先生も親も知らない。


 成績は平凡で特に目立つことも無く、友達が多い訳でもない。授業中に居眠りなんてしないし、給食になれば同じ釜の飯を食う。


 そんな普通の生活をしているはずなのに、何故か僕は変わっていると言われる。理由は自分でもよく分からない。


「応援団に立候補したい人はいませんかー。これじゃあいつまで経っても決まらないよー」


 あくる青春。五年三組の教室に運動会実行委員の声が響き渡っていた。


 クラスの人数は三十人。皆、机に視線を落としたまま挙手をしようとしない。


 見兼ねた綾崎先生が実行委員の伊藤に小声で話かける。一頻りのやり取りを終えた伊藤は再び向き直って、


「明日までに決めないと、最後はじゃんけんで決める事になっちゃうよ。少しでも興味あるとかでもいいんで。誰か、やってくれる人ー」


 最終的な採決案が提示された瞬間、男女問わず多くの生徒が腹を抉られような緊張感に見舞われた。僕も例外ではない。


 今日に至るまで学活の時間は同じような状況が繰り返されていた。男子女子それぞれ二人ずつの応援団を排出しなければならず、本日はその最終期限前日という訳である。


 授業時間が半分を過ぎても誰一人として立候補者はおらず、結局、今回も何も進まないまま終わってしまった。


 僕は安堵の声を漏らす生徒達の間を通り抜け、先生の元へと向かった。


「あら、優斗くん。どうかしたの?……あっ、もしかして応援団に立候補してくれたり!?」


 綾崎先生が冗談めかした声で問いかける。


「違います」


「あー……違うのかぁ」


 先生は残念そうに肩を落とす。


「あの、僕に考えがあるんですけど……」


「えっ!なになに!?」


「……ここじゃ、ちょっとアレなんで廊下に行きたいです」


「そう。分かりました。皆んなーっ、先生、職員室行きますから、帰りの会をする準備しといて下さいね」


 綾崎先生はクラス内の生徒に呼びかけをした後、僕を連れて廊下へと出た。

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